第249話 紅茶を求め花の国へ様


「カエルラスター島なら~ちょうどいいんじゃないかな~ね~社長~」



 ペルセフォス王都から帰ってきたアンリーナが、頑張ったご褒美に俺と二人で旅行に行きたいと渡してきた豪華ホテルのチケット。


 ホテルがある場所はペルセフォス王都から南にあるリゾート地、ティービーチ。


そこから少し離れた場所にあるカエルラスター島、そこにアンリーナの会社が経営するホテルがあるようだ。




「ちょうどいいってなんだ、ラビコ」


 ラビコがニヤニヤと笑い、アンリーナ曰く俺との婚前旅行計画を推してきた。


普段なら絶対断れとか言うだろうに、この嫌な笑顔。


一応言っておくが、俺とアンリーナが結婚する予定なんか今のところないぞ。


 何を考えているのか聞いてみるか。



「え~? カエルラスター島ってペルセフォスの一番南にあるのさ~。で、すぐ下が国境で、そこ超えたら花の国フルフローラがあるってわけさ~」


 ほう、俺はいまいち地理が分からなかったが近いのか、カエルラスター島と花の国フルフローラは。


 もしかしてついでに一緒に行こうってことか。


 まぁ、花の国フルフローラに行く相談はしようと思っていたところではあるが……。


 アンリーナが不思議そうな顔をしているので説明するか。



「実はなアンリーナ。王都のカフェで出す紅茶の種類を増やそうと思って、おいしい紅茶の産地があるというフルフローラに行こうと思っていたんだ。仕入れるにしても、こういう商売系のことはアンリーナに相談しようと勝手に考えていたんだが……」


「なるほど、そういう話が進んでいたのですか。フルフローラで私と師匠が幻想的な花畑で見つめ合い感動的な挙式……! 素晴らしいですわ……幸せなオーラに包まれた二人が今から目に浮かびます……」


 アンリーナがうっとりと想像の向こう側の世界へ。


 俺の話を一言でも聞いていたのだろうか。

 

 フルフローラという単語しか共通項がないんだが。



「それにしても紅茶のバリエーションを増やす、ですか。それは大変いいお話かと思いますわ。カエルラスター島にあるうちのホテルでもフルフローラから仕入れた紅茶を出していますが、観光客の方々に大変好評となっています。ホテルローズ=ハイドランジェで仕入れているルートがありますので、私がいれば現地に行ってのお話もスムーズに行くかと」


 おお、ちゃんと話を聞いていた。


 そしてアンリーナのホテルお得意のルートがあるのか。それは仕入れの交渉の話がうまくいきそうだ。


「何から何まで頼ってすまないアンリーナ。カフェで出す紅茶の仕入れに俺達と一緒に行ってもらえないだろうか」


 俺は席から立ち、頭を下げる。


「し、師匠……頭を上げて下さい。実はもう船をソルートンに準備してありまして、こちらに着き次第、すぐに師匠を連行してカエルラスター島に行こうと考えていましたわ」


 アンリーナがいい笑顔で俺に語りかけるが、れ、連行って……。


「あっはは~行くしかないねこりゃ。もう船も呼び寄せてあるとかアンリーナの手際の良さはすごいな~。カエルラスター島のホテルでうちの社長と二人だけの時間作ってあげるからさ~花の国フルフローラまで船を出してくれないかな~」


 ラビコが爆笑しながらアンリーナに頼む。


「あら、ということはいつものメンバーで行くことになると。船は以前ケルシィに行くときに乗ったグラナロトソナスⅡ号になりますので、余裕でみなさんも同乗出来ますわ。師匠と組んず解れつ二人旅の予定でしたが……ホテルで二人の夜を過ごす時間を頂けるのなら……いいでしょう。でも邪魔しないでくださいよ?」


 アンリーナがフルフローラ行きに賛同してくれた。


 何か俺にのしかかる約束は出来たようだが、なんとか上手く乗り切ろう。




「ではみなさん、明日朝六時に出発となります! くれぐれもホテルでは二人の甘い時間を邪魔しないようにして下さいね。さぁ、準備開始ですわ!」


 アンリーナがズバッと立ち上がり、元気に指示を出した。


「は、はい! まさか明日とは……保湿クリームに……ああ、日焼け止めも……!」


 ロゼリィが慌てて自分の部屋に走って行った。毎回大変だなぁ、ロゼリィは。


 俺なんて何にも荷物ないぞ。足りなければ現地で買うのみ。


 ああ、すまんが金ならあるんだ。


 ラビコも小さなカバン一個だろうし、アプティも基本荷物は無い。まぁ、足りなければ俺が買うさ。



 なんかアプティがそわそわしているな。おいしい紅茶の産地に行けるので、今から興奮しているのだろうか。



 さてまた新しい国だ。今から楽しみだぜ。








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