第218話 いざ魔法の国セレスティアへ 4 カフェ出店場所とお米の産地様


「なんだ、嘘だったのか。あまりにもリアリティがあって、君ならありえると信じてしまったぞ」



 どういうリアリティがあったんですかサーズ姫様。君ならありえるって、普段どういう目で俺を見ているんでしょうか。


 ラビコの言うことは嘘だとロゼリィに証言してもらい、なんとか信じてもらえた。



「うう、ごめんなさい先生……でも信じてました!」


 嘘をつけハイラ。食い入るようにラビコの話を聞いていたろ。


「いいですか師匠、良い人ぶってないでさっさと欲しい女は抱くべきです。そうしないからこういうトラブルが起きるのですわ。期待を持たせたまま待たせるのも失礼ですよ、師匠。なので早く私と……」


 よく分からないけど正座でアンリーナに説教を受ける羽目に。


 くそぅ、ラビコめ……爆笑しながら見てやがる。





「……お待たせいたしました、マスター」


 とりあえず落ち着くためにバニー娘アプティに紅茶を入れてもらった。


 カップを七個用意し、全員に配る。列車がペルセフォス王都を出発して数時間、天気もよく外は穏やかな感じ。


 列車内の俺は大変だったが。


「ほう、これはいい紅茶だ。王都で飲もうと思ったら、相当なお店に行かないとならないクラスだ」

 

 サーズ姫様が紅茶を飲んで驚いた顔をする。ハイラも飲み、目を丸くする。


 これはソルートンの神、イケメンボイス兄さん厳選の紅茶葉。普段これで飲みなれている俺達にはいつもの味。


「ソルートンの宿ジゼリィ=アゼリィでは、この紅茶が十Gでポット一個分飲めます。大体カップ五杯はいけると思います」


「ぶっ、この味で五杯飲めて十G!? それは本当か? ありえない値段だぞ」


 俺がソルートンで出している値段を言うと、サーズ姫様が驚いて紅茶を吹いた。うん、王都だと五十Gはいくだろうしな。


「紅茶でこれか。もう、食べ物のほうはどれだけ美味しいのか期待が膨らんでしょうがないぞ。アーリーガルが興奮して伝えてくるわけだな」


 そういえば以前王都の騎士、アーリーガルが隠密でソルートンに来たっけ。俺が今つけているオレンジマントを届けてくれたんだよな。


 そのとき宿でご飯食べていたが、相当驚いていたもんなぁ。


「値段安め、味もこの通り。カフェジゼリィ=アゼリィ王都進出計画をどうかお楽しみに、と」


 軽く宣伝をしておく。



「分かった。一緒にセレスティアに行ってもらう見返りに、お店開業の場所の紹介をお願いされていたな。完成次第、ぜひとも君のお店には伺いたい。出来たらお城のお腹を空かせた騎士達にも味わってもらいたい」


 サーズ姫様がかなり乗り気の様子。一度お姫様をソルートンにご案内したいぐらいだ。


「おそらく駅直結の大型商業施設の中が一番人が集まるのだろうが、お城の側もかなり人が集まる。なにより務めている騎士が数多くいるから、安定して客は集まると思う。そこでだ……」


 さらさらとサーズ姫様が紙に簡単に地図を書き、お城の七枚の防壁の七枚目、一番街側の壁の側にある建物を指す。


「この辺までは誰でも入れる敷地でな、ここには図書館があるんだ。毎日多くの人が集まるスポットで、この向かいの土地が今何も建っていないんだ。ここの土地は王族所有の物だが、この場所を君達に提供しよう」


「え……王族所有の土地……い、いいんですか!? でもお城に続く道の一番いい場所……これは毎月相当な借地料がかかりそうですけど……」


 俺より先に驚いたのは商売人アンリーナ。


 この辺はさすがに反応が早いな。俺じゃなくアンリーナが反応したことに不思議な顔をするサーズ姫様。


「ああ、すいません。説明不足でした。ジゼリィ=アゼリィと、アンリーナのお店ローズ=ハイドランジェが共同でお店を出そうという計画なんです。コラボメニューも考えています」


「なるほど、世界的に有名なローズ=ハイドランジェと共同で出すのか。君の人脈には驚くばかりだよ、全く。大丈夫だ、お金ならいらない。私の権限で無償で提供しよう。その代わり、騎士達と王都民に美味しい物を提供すると約束してくれ」


 サーズ姫様が微笑み、握手を求めてくる。


 それはもちろん、自信があります。


「ありがとうございますサーズ姫様。とても光栄です」

 

 俺も手を出し、サーズ姫様の手を優しく握る。


 綺麗な手だなぁ。よく考えたらローズ=ハイドランジェとペルセフォスのサーズ姫様の協力で開くカフェって、かなりすごいことだよな。




 もうすぐお昼。


 特急で止まるのが二回、お昼と夜。そのポイントでなんとかご飯を用意しないとならん。車内販売で済ませば楽なのだが、売店で手に入る物は小さなパンしかないんだよなぁ。


 サーズ姫様はどうするつもりだったのだろうか。



「サーズ姫様、お昼はどういうご予定でしょうか……あ、お邪魔でしたか」


 俺が窓際でなにやら書類を書いているサーズ姫様に聞いてみた。


「ああ、すまない。これは向こう宛の手紙だよ。セレスティアのサンディールン=セレスティア殿とはとても仲良くさせてもらっていてな。口頭でも挨拶はするが、書面での挨拶も必要なのでな。お昼は車内の物を、と考えていたが」


 仕事中でしたか、失礼しました。


 ご飯は車内の物か。まぁ、旅行じゃないしな。向こうの国のイベントに参加するために行くお仕事なわけだ、質素に済ますのは当たり前か。



「ラビコ、お昼どうしようか。もうすぐ止まる駅はどういうところなんだ?」


 俺は情報が無いのでラビコに聞いてみる。車内販売パンも悪くはないのだが、駅で買える物に何かないのか。


「え~と、止まるのはカルフイリだね~。お米の産地で有名なところだよ~」


 お米、お米と来たか。それは旨いものがありそうだが。


「先生ー次の駅で降りるんですか? 私も付いていきますー」


 ラビコと話し合っていたらハイラが元気よく抱きついてきた。


 うん、車内は鉄の鎧を付けていないので、そこそこ大きな胸の感触が素晴らしい。ラビコは水着で目の保養になるし、なんと素晴らしいのか。


 しかしセレスティアは寒いらしいから、見れるのもあとわずか、か。



 ロゼリィとアプティとアンリーナは、何やら真剣な顔でカードゲームをしている。




 駅到着。


 俺とラビコとハイラがダッシュで駅構内の売店へ向かう。


「お、駅弁売ってるぞ! ご飯じゃないか!」


 売っていたのは箱に詰まった炊かれた白米。おかずは無し……何かつけてくれよ。


 なんというか、素材は優秀なのに工夫をしないんだなぁ。まぁ、レシピが無いからしょうがないか。口伝と本のみだしな、情報の伝達が。


 王都はさすがに人が多く集まるから、口伝と本でも十分情報は集まるが、そこまで人が集まらない地域は情報が入ってこないからな。その土地のみの調理法しかないとこんなもんか。


「私もご飯好きですー。先生、お昼これにしましょう」


 ハイラが笑顔。お米好きなのか。


「どうする~これにするかい~?」


 そうだな……お、棚に瓶に入った調味料があるな。塩、発見。


「すいませーん、このご飯七個と棚の塩一個下さい」




 列車に戻り、濡らしたタオルでしっかり手を拭き調理開始。つってもおにぎり握るだけだがな。


「はい、出来上がり。塩おにぎりだ、おかずはないから我慢な」



「うは~美味しそう~社長の手作りだ~あっはは~」


「ふふ、ありがとうございます。あなたの手作りご飯、大好きです」


 何度か俺の適当料理を味わっているラビコ、ロゼリィが笑顔でおにぎりを受けとる。アプティに紅茶を入れてもらう。



「ほう、君は料理も出来るのか。すごいな、どれ……うん、美味いな。塩が効いていて何個でも食べれそうだ、はは」

 

 サーズ姫様も笑顔でおにぎりを頬張る。お姫様に俺手製の形の悪いおにぎりを渡すのは気が引けたが、普通に食べてくれた。ちょっと嬉しい。


「うう、おいしいですー。先生の手作りとかなんと役得……」


 ハイラも美味しいそうに食べている。まぁ、お昼はこんなもんだろ。俺も自分で握ったおにぎりを食べ、アプティがくれた熱い紅茶を飲む。緑茶が欲しいなぁ。



 夕方頃に止まる駅は港街とか。


 それはそこそこ期待していいんだろうか。停車する五分に全てを賭けるぜ。








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