第217話 いざ魔法の国セレスティアへ 3 出発の朝とピュアな三人様
魔法の国は今寒い時期らしく、俺達はしっかりと防寒着を買い込み準備は完了。
「やぁ、おはよう。急な上、朝早い出発で申し訳ないな」
翌朝七時半、お城の門に集合。
サーズ姫様が出発の指揮を執る。
いつものペルセフォスの制服にコロ付きの旅行カバン、というスタイル。というか何日滞在するのか聞いていないが……まぁいいか。お金は出してくれるわけだしな。
サーズ姫様とハイラの飛車輪に乗ってお城から駅まで飛ぶことに。あああ、この乗り物マジで欲しいぞ。
「ひとっ飛びだな、マジで。あと飛車輪の操縦がだいぶ向上しているなぁ、すごいぞハイラ」
歩くとお城の七枚の防壁をぐるぐる回ることになるから大変なんだよな。それが飛車輪に乗って飛ぶとわずか数分で着いた。
ハイラの飛び方は今までとんがっていたのが、少し丸くなった感じ。うーん、うまく言えないがサスペンションがついた感じだろうか。軽くハイラを褒め、頭を撫でる。
「うう、嬉しいです。サーズ姫様から色々教えて頂き、一日でも早く先生に認めてもらえるように頑張っています! いつか先生と肩を並べられるような騎士になって、二人きりで世界一周飛車輪旅行に行きたいです!」
ハイラが笑顔で俺に抱きついてくる。俺と肩を並べる? 街の人と肩を並べても意味ないぞっと。
それより世界一周飛車輪旅行か、それちょっと魅力。
この便利な空飛ぶ乗り物があれば、気軽にあちこち行けそうだしな。やっぱりこれ欲しいな……才能……才能さえあれば……!
「俺の遅咲きの才能開花イベント……来い! この便利な乗り物を操れる才能を……!」
ハイラの飛車輪を降り、混み合う駅前で天に祈っているとサーズ姫様が微笑みながら近づいてきた。
「君がそれ以上の才能を手に入れたら恐ろしいことになるぞ。この飛車輪は王都ペルセフォスの職人がいないと整備が出来ないからな、これに乗りたいのならうちの騎士になれ。乗れるかどうかは本当に才能次第だが、君の力はぜひともこの国に欲しい」
「い、いやぁ……俺は騎士とかそんな格好いいのには向いていないですよ。今の街の人で手一杯です」
才能があるのは俺の周りの人。俺には胸を張るような才能はないっすわ。
「そうか、まぁいい。ゆっくりと外堀から埋めていく作戦といくか、悪いが逃さないぞ、はは」
サーズ姫様が悪い顔で笑う。
この人有言実行タイプだし、仕事と行動の速さと手際の良さはすごいからな。俺はソルートンでのんびり暮らしたいだけなんで、勘弁して下さい……。
朝八時発セレスティア行き。
特急で一日で着くらしいので、明日の朝八時には着いているだろうか。
警備の騎士達に見送られ、俺達は魔法の国セレスティアへ向かい出発する。サーズ姫様とハイラの飛車輪もしっかり列車に積み込み忘れ物は……あ、保存食買い込むの忘れた……。これは豆生活の予感。
本来は王族が動くのだから何十人もの警備に部下等を連れて行くのが普通らしいが、サーズ姫様が今回はそれを全て断ったんだと。
一人しかいないが一応ハイラが部下で、警備にはラビコを指定したそうだ。まぁラビコがいれば基本無敵だろうし、サーズ姫様本人がまず強い。
列車の最後尾にあるロイヤルなお部屋。
今回は本物の王族、サーズ姫様がいらっしゃるのでまさにロイヤルだけど……。
「え……ここで七人寝るんですか!?」
もはや乗り慣れた魔晶列車のロイヤル部屋。
通常ベッドは四つなのだが、サーズ姫様が事前に追加でベッドを三つ手配してくれていた。ずらっと並ぶ七つのベッド。
おかげで少し室内は狭くなっているが、それでも窓際にソファーにテーブルがなんとか置かれている。
「ああ、当然だ。ベッドも七つ用意してもらっている。君は寝ないつもりだったのか? ああ、もしかして私達を寝かせるつもりはないという宣言かい? いいぞ、受けて立とう」
いや、そうじゃなくてあなた王族様でしょうに。
てっきりサーズ姫様が個室で、俺も男だから別室かと思っていたのだが。
だってこの人お姫様だぜ? 国がお金を出すわけだから、俺みたくちょっと安く済ませたい根性ではないと思ったのだが……。
なにを腰の横に手を構え、さぁ来いの格好をしているんですか。
全員同じ部屋とか、身分の差はどこいった。
「あっはは~うちの社長はすごいよ~お城とかでは猫かぶっているけど、列車とかの逃げられない空間に来た途端凶暴なオオカミに変身するんだ~。いつも私達は足腰が立たなくなるまでコースでさ~……」
ラビコがベラベラと嘘八百を並べ始める。
当然分かっているかと思うが、俺は紳士だからな。悪いがそういうエッローんなイベントは無いぞ。ヘタレとも言うが。
ロゼリィが「え、え……」と困った顔をし、アプティは無表情で俺の股間部分を見つめ頷く。
ラビコの全部嘘話を呆けた顔で聞くサーズ姫様、ハイラ、アンリーナ。いや、アンリーナはそんなことないって知ってるだろ。
三人がラビコの桃源郷話にゴクリと喉を鳴らす。なんでラビコのどう聞いても嘘話を簡単に信じられるんだ……ピュア過ぎだろ。
「す、すごいな……私の想像以上の男だったとは……。奇遇だが私もクマをかぶっていてな、君とはとても気が合うと思うんだ。体力にも自信があるぞ、はは」
意味が分からないですよサーズ姫様。俺、猫かぶってないですし。
「うう、誰かとどころじゃなく全員と……だ、大丈夫です先生! 今まで皆さんで物足りなかった分は、今日から私がしっかりご奉仕しますから!」
ちょっと汗ばんだ顔で拳を握るハイラ。
少しはラビコの話を疑ってくれ、ペルセフォス組。
「ぬぅー私の前でそういう仕草は見せていなかったですのに……! まだ師匠に信頼されていないということでしょうか!? 悔しいです……! このアンリーナ=ハイドランジェ、この身の全て捧げる覚悟はとうに出来ていますわ! さぁ、さぁ師匠……!」
アンリーナが手をわきわきさせながら、息荒くじりじりと近づいてくる。
おいラビコ、早く嘘だと言え。
とっても面倒なことになっているぞ、出発五分で。
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