第219話 いざ魔法の国セレスティアへ 5 港街アルグルトと料理の腕様


「……マスター……勝ちました」


「え?」



 お昼も食べ終え、列車は西へと進む。


 夜に止まる駅、アルグルトというところの側には大きな山脈があって、そこがペルセフォスとセレスティアの国境になっているそうだ。


 南北に長く連なるその山脈はとても標高が高く、中には一万メートル近い山もあるとか。列車は山を避けるように海岸の狭いところを通るんだと。


 そこあたりはもう寒い地域になるらしく、ラビコの水着やアプティのバニーの見納めも近いか。



「……マスター」


 よく分からないけどバニー娘アプティが抱きついてくる。


 珍しいな、アプティはあまり自ら抱きついてこないんだが。


 いつも俺の後ろで無表情で立っていて、たまにしかボディタッチはしてこなかったような……いや、嘘を言った。


 寝てると平気で俺のズボン下ろしてくるな。うん、実に恐ろしい子。



「どうしたアプティ。勝ったって何だ?」


「……先ほどのカードゲームで私が勝ちました」


 カードゲーム? そういえばお昼買いに行くときにロゼリィ、アンリーナ、アプティが真剣な顔で遊んでいたな。


「お、そうなのか。おめでとう、アプティ」


 ベッドの上にカードが散乱し、アンリーナが悔しそうにカードを引きちぎっている。物は大事にしろ、アンリーナ。


「……勝つとマスターに抱いてもらえると聞きました」


 何の話だ。何で俺の知らないところでそういうことになっているんだよ。


 アプティが無表情にじーっと俺の顔を見てくる。まぁ……アプティには何度か命を救われているからな。


 俺はアプティの頭を優しく撫でることに。



「あああああ……! まさかイカサマしてまで負けるとは……! ぬぅぅ」


 向こうでアンリーナがもだえているが、イカサマはよくないぞ。なんか商売人って怖いなぁ。無限ブロックといい、アンリーナにとってアプティは天敵にあたるのだろうか。





 十五時を過ぎたあたりから景色に白が混じるようになってきた。


 列車内は暖房が効いているの影響はあまりないが、外はもう冬景色だ。


 ケルシィで雪は経験したが、こうして室内から見ると綺麗だけど一歩外に出たら震える寒さなんだよな。もう吹雪の中歩き回るのは遠慮したい。



「雪ですー、夜には街灯の明かりが反射してとても幻想的になるんですよ」


 ハイラが側に来て一緒に外を見る。雪のある夜は、雪の白さと明かりが反射して明るいんだよな。




 日も落ち始め、時刻は十八時近く。


 列車は雪の降る港街、アルグルトにもうすぐ停車する。五分ほど自由に外に出れるチャンスなので、なんとか夕飯を確保しないと。


「アルグルトは~港街だから物は豊富にあるよ~。セレスティアも近いから、そっち由来の食材もあるしね~」


 ほう、セレスティア由来の食材か。それは興味があるぞ。


「ラビコ、有名なものとかはないのか?」


「え~と、海産物はもちろん、お肉から果物から野菜からもう選び放題さ~。セレスティアで有名な果物なんだけど、ユウネーグルっていうのがここでも採れて美味しいよ~」


 果物か、よしそれを狙ってみよう。駅の売店に売っているといいが。




 列車がゆっくりと駅に入り、停車する。


「よし、行くぞ!」


「あいさ~」

「はい先生!」


 ラビコ、ハイラを引き連れ駅の売店へ急ぐ。


 さすがに寒いので、ペルセフォス王都で買った防寒着を着込んでいる。なのでラビコの揺れは残念ながら見えない。



「お、おお……なんか豪華だぞ」


 構内にかなりの人が溢れている。港街で駅もあるため、物流がそうとう盛んみたいだ。大きな包みの荷物を運んでいる人があちこちに見える。


 駅の売店も広く、豪華。ペルセフォス王都も豪華なのだが、それに匹敵するぐらい。


「普通にお弁当があるな、しかもおかず付きだ! これでいいな。ラビコ果物はあったか?」


「あいよ~社長~七個確保~」


 俺が言う前にすでにラビコが水滴みたいな形の果物を抱えていた。大きさはリンゴぐらいの物。黄色い見た目だが、どういう味なんだろうか。果物は一応予備含め十個にするか。


 お会計を済ませ、お弁当をハイラと分けて持つ。王都ペルセフォスよりは安く買えた。



「買ってきたぞ。みんな、夕飯にしようぜ」



 列車内のロイヤルな部屋に戻ると、すでにアプティが紅茶を人数分入れてくれていた。ベスのリンゴも買ってきたし、明日着くセレスティアの味ってのを先行体験してみようか。


「いただきます」


 全員で手を合わせ、お弁当をいただく。


 中は白米が半分に、何かの味で煮込まれたお肉、塩ゆで野菜、以上。見た目に豪華さは無いな……。食べてみるが、普通。お肉はしょっぱい。野菜もしょっぱい。


「うーん、塩が多いな……」


「まぁ、寒い地域って味が濃い目になる傾向あるよね~」


 俺の言葉に水着魔女ラビコが反応してくれたが、なるほど。確かにそういうのはあるかもしれん。無言でお弁当を食べ、果物に全てを賭ける。



 ナイフで皮をむき、綺麗にカット。とても甘い香りがするな。


「うわ、おいしいです」


 ロゼリィが笑顔で頬張る。


 うん、この世界って食材のポテンシャルは高いんだ。問題はレシピが伝わっていないことなんだよな。


 俺も食べてみるが梨みたいな味と食感。だが俺が知っている梨と大きく違うのが、ものすごい甘みが口の中に広がることか。メロンとかの甘みに近い感じ。これは美味しいな。


「うん、これは美味しいな。しかし君はナイフの使い方が慣れているな」


「あ、ええ。ソルートンの宿でよく皮むきのアルバイトしてましたから」


 サーズ姫様が不思議そうに見てくるが、宿で数十キロ近いジャガイモの皮むきを毎日していたからな。


「ま~うちの社長はどこぞのお姫様とは違って生活力ありますから~あっはは」


 ラビコがにやにやしながら笑う。



「ほう? 以前言ったが、私は最近花嫁修業をしていてな。料理も習っているんだぞ? どこぞのワガママ魔女とは違い、準備は万端さ」


 サーズ姫様が予備のユウネーグルを手に取り、ナイフで皮をむき始める。

 

 うん、上手ではないがそこそこ出来ている。かなり実の部分が皮と一緒にむかれてしまったが。


「すごいですーサーズ様!」


 ハイラが笑顔でサーズ姫様を持ち上げる。



「ふ、ふ~ん……変態にしてはやるじゃない。こんなものちょいっと~……」


 負けじとラビコが震える手つきでテーブルの上の果物にナイフを当て、リズミカルに四回真下に体重を乗せて切る。あっぶねぇ!


「ど、どうだ~料理ってのは早さが決め手とか聞いたぞ~。ほら~私が一番早い、あっはは~」


 皮をむいたというより、長方形の積み木を作ったと言ったほうが早いか。出来上がったのは四角い果物。皮にはごっそり実が残っている。こ、これは……。


「ぶっはは……なんだそれはラビィコールよ。そんなんじゃ意中の男は振り向かないんじゃないか? これは余裕の勝負になりそうだな。所詮はワガママ魔女か、あはは」


「な、なにを~! こんなもの数日でマスターしてやるよ~! 社長~手取り足取り教えて欲しいな~」


 サーズ姫様の煽りにラビコが焦り反論し、俺に擦り寄ってくる。


「なっ! それなら私も君に習いたいぞ。オホン、不束者だが末永くよろしく……」


「てめぇそれセリフ違うだろ~! どさくさに紛れて何を口走ってやがる~!」



 ラビコとサーズ姫様が揉めだした。ああ、ハイラまで参戦してきたぞ。ロゼリィがあわわと慌てていて、アンリーナが参戦しようか迷っている状況。アプティは興味なし、ベスと何やら話している。言葉分かるの?



 三人が我先にと身を寄せてきて大変なことになっているが、とりあえずラビコはナイフを置け。


 あとこれ料理じゃないからな。


 ただの準備だぞ、皮むきとか。







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