第208話 再び王都へ 4 特急とアンリーナの想い様
お昼ご飯を済ませた後、馬車は順調に内陸へと進む。
何度か途中の宿場で休憩をし、広がる森を迂回するように作られた街道を走る。日も傾いてきて、そろそろ時刻は夕方。
「皆様お疲れ様ですわ。あちらに見えますのがフォレステイといい、林業で栄える街となります。基本、ペルセフォスの国内で手に入る木材の商品はここ産と言えるぐらいのシェアを占めていますわ」
アンリーナが道の先に見えるフォレステイを指し説明を入れてくれる。
街の入口の馬車等の待機場に降り、おじさんにお礼を言う。
別れ際、俺に貰ったパンがとても美味しかったけど、あれはどこで買えるんだ? と聞かれたので、ソルートンの宿の場所を説明しておいた。
おじさんもご飯といえば、途中の宿場の薄い塩味豆スープが基本だったろうからなぁ。苦労していたんだろう。
「さって~夜六時も過ぎているし~さっさと列車のチケット買いますか~」
ラビコとアンリーナを先頭にフォレステイの街を歩く。
相変わらず目につくのはでっかい石造りの倉庫群。そしてひっきりなしに荷車等に乗せた大きな荷物を運ぶ人達。物流が動いてるなぁと感じさせる街だ。
「ああ懐かしい、この木の香り。前回もこんな感じだったな」
俺は鼻をひくつかせ、久しぶりのフォレステイの街の雰囲気を味わう。夜の街に灯るオレンジの街灯がいい雰囲気を出している。
リードにつながれ歩くベスが鼻をフンフンさせ、食べ物の匂いを気にしているな。確かにいい匂いがしてくるが、前回入った喫茶店は紅茶からして美味しくなかったからな……。
「アンリーナ、この街で何か美味しいもの食べられないかな。お金なら俺が払うから気にしなくていい」
俺が前を歩くアンリーナに夕飯のアピールをする。ラビコとアンリーナは旅慣れているようだから困った時は相談出来て楽だぜ。
「そうですわねー、さすがにジゼリィ=アゼリィほどの味は難しいかと。列車の時間に余裕がありましたら少し散策してみましょう」
「あの、お風呂……」
ロゼリィがすっと手を上げお風呂タイムを要求。
うん、前回もここでお風呂入ったっけ。ああそうだ、思い出した。ここで初めてハイラと出会ったんだよな。あの転びそうで転ばない走り方はいまだに覚えているわ。
王都に着いたらハイラに会いに行ってみよう。元気かなぁ。
ラビコとアンリーナがチケット売り場で席を確保してくれた。前回と同じ個室。値段は結構お高いが、二日もかかるんだし快適に過ごせるにこしたことはない。
列車の時間は余裕があるとのことでお風呂へ向かう。
「え~と~今回は~スポンサーであるうちの社長がお金に糸目はつけないと言うので~前回よりもお高い列車になりま~す。なんと五人で六千G~あっはは~」
ぐ、相変わらず結構するなぁ。
この世界の六千Gって日本感覚だと六十万ぐらいか……前回は五千五百Gだったから、ちょっと増えてるな。旅行にかかるお金は全部俺が出す……けど、抑えられるものは抑えたいのが心情。
ウキウキとロゼリィがスキップし、フォレステイの駅から一番近いお風呂施設へ移動する。時刻は夜の七時、街はまだまだ多くの人が街道を埋め尽くし、活気が溢れている。
「なぁラビコ。前回より列車の値段が高いのはなんでなんだ?」
前を歩くラビコにこそっと聞いてみた。
「え~っと~今回は特急で行きますからお高めなんです~。なんと各駅停車の前回とは違い、今回は半分の一日で着いちゃうんです~あっはは~」
は……一日? つうか特急があるのかよ!
「い、一日……? マジかよ、前回言えよ! 五百G差なら特急選んだぞ!」
「ええ~? 前回はお金のない社長の借金を少しでも軽減しようと~個室でも各駅なら安めになると行動したラビコ様の機転を褒めて欲しいんですけど~」
俺が文句を言うとラビコがお金絡みで反論してきた。う、それは……その……確かに前回はお金無くて皆には苦労かけたけど……。
「そ、そう……。うん、さすがラビコだ。偉いぞ」
褒めながら頭を優しく撫でてあげると、ラビコが笑顔で抱きついてきた。こらラビコ、移動中はやめい。
「あら? ラビコ様、安く済ませるならロイヤルではなく、ハイグレードのほうが良かったのでは? お値段も半分以下の千五百Gで、少し狭い部屋ではありますが、一応個室でベッドも三つ……」
「あはは~あっはは~アンリーナ? ほらほら温泉行こうか~ここのは本物の温泉なんだよ~」
俺達のやり取りを聞いていたアンリーナが真実を語ると、ラビコが慌てて俺から離れていった。
「ほう、ラビコ。ちょっと説明してもらおうか」
「あははは~まぁまぁ社長~こんな美人達と二日も同じ部屋で過ごせたんだから~文句はないでしょ~?」
それに関しては本当にありがとうごさいました、だけど……ロイヤル? どうりで高いと思ったら。確か前回ハイラが列車最後尾の豪華な部屋に入ったら、サーズ姫様が使うクラスと言っていたな。
王族が使うような個室だからロイヤル……うん間違ってはいない。そして値段がバカ高い。
「どういうことだ、全然俺に気を使ってねーじゃねーか! むしろ俺をダシに豪華に行こうとしやがったな!?」
「い、いいじゃないか~! あの時点で社長は本当にお金無かったんだし、別に返してくれなくてもいいつもりで私が出したんじゃないか~! お高い分、快適だっただろう~」
快適はもう間違いなく、だったが。
にしても安い方も選択肢として提示してくれてもよくねーか。ロイヤルは安い個室とはこれぐらい違うんです、と納得して選び支払うならもっと満喫出来たはずだ。
二人が揉めているとお風呂に到着。
「お二人とも、お風呂屋さんに着きましたですわー。早くしないと夕ご飯の時間がなくなりますわよ」
アンリーナがお風呂屋の入り口で揉める俺とラビコを
「あ、そうか。列車の時間って二十二時ぐらか、さっさとお風呂入って夕飯のお店探さないとな。よし、頭切り替えて行くぞラビコ」
「あいさ~お風呂上がりの美肌を社長に見せつけてやるのさ~あっはは」
ラビコがダッシュでロゼリィとアプティの肩をつかみ、女湯の
俺も男湯に入ろうとするとアンリーナに話しかけられた。
「……本当にお二人は、と言うかお三方と師匠は仲がよろしいのですね。共に過ごしている時間のアドバンテージを感じてちょっと嫉妬しちゃいますわ」
アンリーナがむすっと俺の腕をつかんでくる。
「ラビコ様と対等に言い合える男の人なんて、王族の方以外では師匠ぐらいですよ。ラビコ様はペルセフォスで国王同等の権力をお持ちのお方です。本来、こうしてお話出来るだけでもありがたい存在なのです」
そういやそうだったな。王都でのラビコの扱いはすごかった。
駅でも騎士たちがずらっと並び混雑する中に体を張って道を作ってくれたからな。
「でもラビコはラビコだしなぁ。それ言ったらアンリーナだって世界的なメーカーの娘さんだろ。本来なら会うことすら難しい、そういう存在だ。でも、俺にとってはアンリーナはアンリーナだ。俺はその人の肩書きを好きになるんじゃない、その人の心を好きになるんだ」
そう俺が言うとアンリーナが顔を真っ赤にして驚く。
「あはは……さすがです師匠。肩書きじゃなくて、その人の心を好きになる……いい言葉です。その言葉が私の心に響いたということは、普段の私にその考えが足りなかったということなのでしょう。やはりあなたは私の師匠です……これからもアンリーナ=ハイドランジェはあなたをお慕いしています……」
アンリーナがゆっくりと顔を寄せてきて、俺の頬に軽く唇をつけてくる。うわわっ……。
「あーあ、少しお仕事をお休みして、しばらく師匠の側にいようかしら。聞きましたら最初に出会ったのがロゼリィさんとか。はぁ……これから言うことは嘘ですから聞き流して下さい。悔しいなぁ、私が最初に師匠と出会っていたら良かったのに。そうしたら私だけの……なんでもありません、ごめんなさい……さ、師匠お風呂に入って気分を変えましょう!」
そう言うとアンリーナは女湯に入って行った。
俺はベスに足を甘噛みされながらほっぺを抑え、何が起きたのか理解できずにしばらく棒立ちで呆けていた。
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