第209話 再び王都へ 5 鉄板焼きと商売人魂様


「ふふ、とってもいいお湯でした。見て下さい、この輝くお肌を」


 

 風呂にも入り、全員満足顔で道を歩く。


 ロゼリィはここの乳白色の天然温泉が好きらしくテンションが高い。



「お、おお、触らせてくれ。うむ、しっとりしていていいな」


 差し出された右腕を触り、ロゼリィの輝く肌を堪能する。温泉は五人で三十五G、日本感覚三千五百円。まぁこんなもんだろう。


「はい社長~」

「どうぞ師匠」

「……マスター」


 その後、目の前に三本の腕が差し出され、順番に触ることに。夜の混雑する道すがら、俺達は何をしているのか……。


 ベスは温泉施設のロビーで洗面器を借り、タオルで拭いてあげた。





「夕飯どうしようか、まだ二十時過ぎだから余裕でご飯いけるぞ」



 列車の時刻は二十二時。一時間はゆっくり夕飯をいただけそうだ。


 まわりのお店からとても美味しそうな香りがしてくる。お、屋台とかもあるぞ。なんか焼いた肉を売っている。


「あ~あれはやめたほうがいね~。森に生息しているイノウスっていう獣の肉で値段が安いから人気はあるけど、固くてクセが強くて万人向けではいなかな~」


 俺が屋台の方に目をやっていると、ラビコが説明をしてくれた。


「酔って安い酒にやられた舌にはちょうどいいんだけど、素で食べるもんじゃないよ~。何もないよりマシぐらいのつまみだね~」


 屋台を見ていると確かに買っていくのは酔った男達。


 ゲラゲラ笑いながら買った肉を食いちぎり酒と共に胃に流し込んでいる。うん、味を楽しんでいる光景ではないな。俺にはちとレベルが高すぎる食い物のようだ。



 アンリーナやラビコが知っているお店は駅から遠く、往復するだけで一時間はかかるとのことなので諦めて駅前にある屋台に入った。


 鉄板焼きのお店。


 何でも鉄板で焼く、以上。




「これはなんだろう……」


 俺とアプティが頼んだのは『森のモリモリ焼き』。


 平べったいうどんみたいのを細かく刻んで数種類の野菜と炒めた物。


 味がないんだが。


「こっちはまぁまぁかな~」


 ラビコとロゼリィが頼んだのは『森の豆々焼き』。よく分からない色々な豆を茹でて潰して混ぜたものを薄く伸ばして焼いた物。そっちにすればよかった……。


「うーん、うーん」


 唸るアンリーナ。


 彼女は『森の果物焼き』を頼んだのだが、まさか本当に見たことない果物がぶつ切りで出てきて、それを混ぜて焼かれるとは思いもしなかったようだ。


 ちょっともらったが、なんともいえない甘さとねっとり感。デザートといえばデザート。



 俺が残り少ないイケメンボイス兄さんとシュレドが作ってくれたパンをちぎってベスに与えていると、アプティがじーっと見てきた。


 だ、だめだぞこれは。列車で食べる物が無くなってしまう。


 本当にソルートンから離れれば離れるほど、イケメンボイス兄さんの神っぷりを実感するわ。ああ……恋しいです兄さん、愛しています。






 二十二時、フォレステイ発ペルセフォス行き。


 三十分前に駅に入ると、もう列車が到着していた。



 ラビコが駅の売店で何やら買い込んでいる。多分お酒かな。


「特急かぁ……まさかこっちにもあるとは」


 まさかの一日で着く。明日の二十二時にはペルセフォスだとさ。持ってきたパンも大きいのがあと三個あるから間に合うんじゃないかな。


 途中止まる駅は明日の朝、昼の二回のみ。時間も十分程度と短いので、パンで足りないときは神速で買いにいかないとならんな。車内販売ってないのかな。



 列車に乗り込み最後尾のロイヤルな個室へ。前回とだいたい同じ内装で素晴らしく豪華。王族が利用するレベルと納得できる。


 ベッドは四つか。まぁ俺は床かソファーでいいや。



「ラビコーこの列車って車内販売とか、食堂車とかないのか?」


「ん~? 軽食が食べられるところはあったかなぁ。小さなパンが売っているぐらいのとこ~」


 ラビコがベッドに大の字に寝っ転がりながら、壁に掛けられているプレートを指す。見るとこの列車の案内図で、編成車両の真ん中あたりに売店がある。


「おいしくはないよ~あっはは~。王都に着くまでは我慢我慢~」


 まぁ、王都でもそう変わらないんだがね……。一人五十G、五千円ぐらい出せば、ジゼリィ=アゼリィよりちょっと落ちる味が食べられるぐらいか。




 ラビコが駅で買ったお酒を取り出し、一人晩酌を始めだすが俺は眠いので寝るぜ。飲める年齢になったら、ラビコとお酒を酌み交わしてみたいもんだ。


 壁際のソファーに予備の布団を出して簡易ベッドを作っていると、アンリーナが手招きをしてきた。


「師匠、私と一緒に寝ましょう。お金を出している人がソファーとかだめですわ。さぁ、王都まで若さを満喫いたしましょう」


「確かにそうです。こういうときはあなたが一番いい思いをするべきです。こちらへどうぞ」


 アンリーナの行動に反応したロゼリィもベッドで手招きを始めた。


「……私はあとで潜り込みますので……」


 アプティの発言に二人が敵意の視線を送る。いや、俺はここでいいんだが。



「ふふ……この中で一番師匠と相性がいいのは私なのです。みなさんは無駄に胸やお尻が大きすぎて、この狭い簡易ベッドの隙間がないのがお分かりですか? しかし私は背が低く、肉付きもスマート。師匠と二人愛を込めて抱き合うことで、ちょうどベッドが埋まるのです!」


 演説の後半から熱が入り、ベッドの上に仁王立ちになるアンリーナ。


 ロゼリィが何か言おうとするも、自虐ネタで来られ言い返せず口をもごもごさせている。


 確かにアンリーナは背が低く、スマートな体型。それをこの状況で武器に使ってきたか……恐れ入る。


「あっはは~さすが商売人だね~。今一瞬、なるほどって納得しかけたよ~。でも残念ながらうちの社長は大きな胸が好きなんだよね~。毎日せっせとアプティの胸を眺めてはぼーっとしているからね~あっはは~」



 ああ、見ているぞ。


 見えるんだ、だから見ている。



 全員の視線が俺に集まるが、俺は明日からも見ると強く誓い、布団をかぶって不利な状況から逃げることに成功した。











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