第204話 試作メニューと勇者アンリーナ様


「はい、お待たせ。こういう感じかな」



 ケルシィから来たシュレドは慣れない食材とのことで、ペルセフォスでの生活が長いイケメンボイス兄さんに食材を渡したら美味そうな物が出てきた。




「さすがボー兄さんだ、なるほど……勉強になるぜ」


 シュレドが笑顔で出されたメニューを食い始める。


 出てきたのはピンクのトマトみたいな食材、ローゼオルを使ったシチュー。ピンク色のシチューに玉ねぎ、鶏肉が入っている。ローゼオルという物は味が少し淡白らしく、辛味を足してあるとのこと。


「マジでピンクだ……最初びびるけど、見慣れたら可愛いのかな……」


 ピンクという見た目のインパクトはさすがに俺にはくるものがあるが、ペルセフォス王都では普通に売っていて、女性に人気の食材らしい。


 食べると普通にうまい。確かにちょっとローゼオル自体はハッキリしない味だ。なんていうか、煮て柔らかくなった味のしないカブに近い感じ。これは辛味があってちょうどいいな。


「おいしいですわー。この味、ペルセフォス王都の一流レストランでもなかなか味わえないぐらいの出来です。恐れ入りましたボーニングシェフ」


 アンリーナがイケボ兄さんに頭を下げ、それを見た兄さんが困ったように手を左右に振りだした。


「うちの若旦那の発想に鍛えられたからね、早くロゼリィと一緒に……と、その話は置いておいて、と。お次はアロンジョーヌを使った肉包みだよ」


 お皿に乗って出てきたのは、黄色い皮に包まれた挽肉を焼いた物。うん、見た目は餃子……黄色いけど。


 アロンジョーヌは大根みたいな形。それを薄く輪切りにして、中心に挽肉、玉ねぎ、みじん切りにしたアロンジョーヌも加え、包み焼いた物。本当に見た目は黄色い餃子。


「うん、甘いな。このアロンジョーヌって噛むと甘い感じがして美味しい」


 なんというか、サツマイモに近いだろうか。ホクホクで甘い。見た目が黄色で、これも可愛く見えるなぁ。


「おお、うめぇぜ。なるほど、アロンジョーヌを粗目にきざんで食感残すのか。覚えたぜ」


 シュレドがうんうん頷きながら頭にレシピを構築している。飲み込みが早いなシュレドは。


「いいですわね、黄色い物に包まれたお肉がとても綺麗に見えます。アロンジョーヌと玉ねぎの甘みがうまく混ざり、そこにお肉の油がじゅわっと来て美味しいです」



「よかった、好評のようだね。グルナロはお鍋とか、煮付けにすると美味しいんだ。それは次回作るよ」


「すいません兄さん、忙しいのに……とても美味しかったです」


 兄さんにお礼を言うと、笑いながら厨房に戻っていった。ランチタイムが終わった時間とはいえ、申し訳なかったなぁ。



 しかしどれもうまいな、これならこのまま出せばいけそうだぞ。見た目もカラフルでインパクトあるし、しかも美味い。


「メニューはこのままでも行けそうですわね。これにちょっとオシャレなお皿に盛り付けて、さらに見た目を豪華にすれば王都で人気が出そうですわ」


 アンリーナも満足出来たようだ。これは大丈夫そうだな、あとはシュレドが調理出来るように練習してもらえば……ってシュレドがもうメモ帳にガリガリと何やら絵と調理法を書き始めたぞ。


 うん、シュレドは優秀だ。ケルシィまでスカウトしに行って良かった。


 となると、あとは店舗か。


 こればっかりは現地に行かないとなぁ。また王都に行ってあちこち見て回らないといけない。


 こういうときネットないと不便だよな。ネットがあればソルートンにいながら王都の地図見て、空きのある建物検索していい条件の場所を見つけれるんだが。


 


「それで師匠、やはり一度王都に行ってお店を出す場所の選定をしないといけないと思います。当然これはローズ=ハイドランジェの代表として私が、そしてジゼリィ=アゼリィからは師匠が行くというのが自然ですわ」


 シュレドが食べ終わった食器を片付けていると、食後の紅茶を嗜んでいたアンリーナが胸を張って言い出した。ああ、アンリーナはそれほど大きくはない。


「余計な経費をかけず、代表者二人が現地へ……なんと偶然私と師匠の二人旅になりますね。列車での熱い夜、そして王都での挙式の準備……」


「あれ、王都に行くのが決まったのかい~? 私ならいつでも行けるよ~今度こそ王都にある私のなんにもない研究所を案内するよ~あっはは~」


 向こうからラビコが笑いながらやってきて俺の右側に密着して座る。


「う……ラビコ様……。いえ、あの、これは代表者二人の愛の逃避行……」


「お父さんに王都に行く許可もらいました。まさかうちの宿の支店が王都に作れるなんて、夢のようです……ふふ」


 ロゼリィがすすっと俺の左側に座って旅のメンバー入りアピール。


「あ、ロゼリィさん……でもこういうのは少数で……」


「……マスターの身の回りのお世話は私が」


 アプティが俺の後ろに静かに立つ。


 結局いつものメンバーが揃ったが、いいんじゃないかな。護衛は必要だろうし、ラビコにアプティがいれば大体大丈夫だと思う。ああそうだ、俺の愛犬ベスもパワーアップして参戦出来るぞ。ロゼリィは俺と違ってこの宿の純粋な代表者だし。



 三銃士がぞろぞろと揃い、それを口をパクパクしながら眺めるアンリーナ。


「……おかしい、おかしいです! どうして師匠の周りにはいつも倒さなくてはならない中ボスがいるんですか!」


 ち、中ボス……。


 それを聞いた中ボス三体が指輪をかざすが、勇者アンリーナも指輪をかざし対抗。しかし以前王都で買ってあげた三つのネックレスの照射を受け、勇者アンリーナは轟沈した。


「なんですか師匠! ずるいです! 私にもネックレスという名の光の剣を下さい!」



 なにやら勇者がキーキー怒っているが、最近アンリーナはそういう王道ファンタジーものの本でも読んだのだろうか。











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