第205話 再び王都へ 1 恋の包囲網と王都へ様


「王都に支店か、なんか夢でも見ているようだよ。はは」


「そうだね、あんたが来てから売上が右肩上がりどころか直角に近いよ。失敗したってカバー出来るから、存分にやりな」



 宿屋ジゼリィ=アゼリィのオーナー夫妻であるローエンさん、ジゼリィさんに王都カフェ計画の現在の状況と今後の予想を事務室で相談する。


 俺が勝手には進められないからな、決定権はオーナーにある。




「ありがとうございます。シュレドのやる気と成長速度がすごいので、自分もすごい楽しみです」


 今回は俺もお金を出して、王都でいい物件探してやるぜ。


 あと、ここの宿の増築計画の話もしてみた。川側の土地が空いているので、そこに建物を増築し一番の売上を上げている食堂と調理場の面積増加、そして宿泊施設の増強が出来ると思う。それに関しては俺が全額出す。



「はは、すごいな。僕なんかいかにお酒を飲めるかしか考えていなかったんだけど、これなら安心して早めに隠居生活に入れそうだよ」


 ローエンさんがケルシィで俺達がお土産に買ってきてあげたお酒、グインホークに頬ずりをする。大事に飲みたいらしく、まだ開けていないそうだ。


 ジゼリィさんが俺に近寄ってきて耳打ちをしてくる。


「で、ロゼリィは抱いたのかい? あんまり待たせるんじゃないよ、こういうのはさっさとやって早く子育てを……」


「し、しし……失礼します! 俺まだ十六ですっ……」



 俺は顔を真っ赤にしてその場を逃走。


 慌てて事務所を出て食堂に戻る。まぁ、ジゼリィさんは行動と決断が早い人だからなぁ。多分ローエンさんもそうやって落としたんだろう。




「ど、どうしたんですか? そんなに息を切らせて……今、飲み物をお持ちしますね」


 食堂の隅っこで息を切らせていた俺を見つけたロゼリィが、優しい笑顔で紅茶を持ってきてくれた。カップを受け取りありがたく一杯いただく。


 ロゼリィを抱く、かぁ。服の上からでも分かる素晴らしいボディライン。ケルシィのときに水着姿を見たが、あれはいい物だった。この異世界に来て一番目が癒やされた瞬間だったと思う。


「んふふ、ロゼリィさん。隊長が品定めするように見ているのですよ、んふふ……」


「え……? 品……?」


 背後からバイト五人娘の一人、オリーブが現れ俺のマントをつかんできた。ロゼリィは言われた意味が分からないようで首をかしげている。


 くそ、紳士を装った態度でチラチラ見たのに、どうして下心を見抜けたんだよ。


「隊長、私もそこそこ大きいのです。ロゼリィさんに負けていないと思うのです。どうでしょう」


 セクシーなポーズで大きな胸をアピールしてくるオリーブ。確かにオリーブはロゼリィに匹敵する体の持ち主で、胸もそうだがなんと言ってもお尻が素晴ら……。


「社長~その辺にしとかないと鬼が出るよ~あっはは」


 オリーブのお尻を見ようとしたら、突如視界に現れた杖に邪魔をされた。コツンと頭を叩かれ、右腕にラビコが絡みついてくる。


 うん、確かにロゼリィが俺のオリーブへの視線に気付いたようで背後が光輝いていた。危ない、これはギリギリアウトだった。



「ふふふ、アルバイトさんに手を出したら例えあなたでも、しばらく宿を出入り禁止にしますからね? ふふ」


 左腕をつかまれ、ほっぺを軽くつねられた。いっつつ……ごめんなさい、今度からは気付かれないようにやります。


「あっはは~そうなったら私と二人で王都に行こうか~。うん? ああ、それいいね~ホラ社長、思う存分バイト五人娘にアタックしておいで~あっはは」


「う……だ、だめですよ! やっぱり出入り禁止じゃなくて他のことにします!」


 揉めるラビコとロゼリィに挟まれ、これはこれで腕に当たる感触が嬉しいのだが、ここが混雑する食堂だってことに早く気が付いて欲しいなぁ。お客さんの視線がすごいんだ。



 いつもいる世紀末覇者軍団はこの様子を「おー始まったぞ」とゲラゲラ笑って見ているが。





「んふーやっぱだめでしたー……隊長の恋の包囲網は万全なのです」


「頑張ろうオリーブ! 私だってまだ諦めていないし!」


 調理場に引き下がって行ったオリーブとセレサが、何やらお互いを励まし合っている。なんだろうか、ここからだと何言っているか聞こえないが。




 今回はアンリーナも行くからいつもより一人多い王都旅行になるのか。まぁ、旅行っていうか物件探しだけど。


 その間にシュレドがもりもり成長していそうだな。もうこの宿のメニューの半分近くは覚えたそうだし。


 あとは向こうの店員さんもなんとかしないと、か。ああ、制服どうしよう。










「それでは皆さん、ケルシィ同様よろしくお願いします。本来なら師匠と愛の二人旅の予定でしたが、皆さんの情熱には負けました。護衛としての役割を果たしてくれるとのことなので、それは心強いです。ラビコ様を護衛で雇おうと思ったらお金じゃ動いてくれないお方ですから」


 準備も整え、王都へ向けての出発当日早朝六時。


 宿の前でアンリーナの演説が始まった。



「あっはは~そうさ~このラビコ様を動かすのはお金じゃないのさ~。社長の愛さえあれば私はもうなんだってする……」


 俺の前ではアンリーナとラビコが盛り上がり、後ろでは宿屋連合が集まり何やら頷き合っている。


「いいかいロゼリィ、あれもこれも全てはこの宿の為。ここで働く従業員の未来もかかっているんだ、チャンスを活かしてしっかりやるんだよロゼリィ!」


「は、はい! 頑張ります! 必ずや関係の進展を……」


 ジゼリィさんが娘であるロゼリィに何やら教え込んでいるな……。なんでみんなこんな早朝から気合入っているんだ。俺なんて眠くて仕方ないぞ、なぁベス。


「ベスッ」


 俺の足に絡んでいた愛犬ベスが元気に吠える。……眠いの俺だけか。アプティはしっかり紅茶の葉を缶に詰めて、カバンに入れていた。




「はい、若旦那。パンとジャム、あとは甘さをかなり抑えたクッキーをたくさん焼いたよ」


 イケメンボイス兄さんが大きな包みを渡してくれた。


 ああ、今回は準備万端だぞ。やはり旅行で一番のネックは食べ物だからな。王都に行ってしまえばなんとかなるが、道中はどうしようもない。


 またあの超薄味豆スープは避けたいからな、事前にイケメンボイス兄さんに保存の効く食べ物を頼んでおいたんだ。ちょうどシュレドの料理の修行にもなるしな。


「旦那、今回は俺がほとんど作ったんだぜ。これで元気つけて無事に帰ってきてくれよな!」


 うむ、この神の料理人兄弟の作った物なら安心して食べられる。ノーモア豆、だ。


「ありがとう二人共。これがあれば十年は戦える」


 俺は神達と固く握手をする。




「隊長、いってらっしゃい」

「うう、また寂しくなるのです。早く帰って来てくださいね、隊長」


 わざわざ見送りに来てくれたセレサとオリーブも声をかけてくれた。早朝なのに悪いな二人共。


「留守は頼むぞ二人共。ご褒美にちゃんとお土産買ってくるからな」


 俺は二人の頭を撫で、お土産の約束をする。



 

「さぁさぁ~社長~。リーダーの一言を貰おうかな~」


 ラビコ、ロゼリィ、アプティ、アンリーナが俺の側に寄ってきて何やら待っている様子。


「よし、ジゼリィ=アゼリィ王都進出計画の第一歩として物件探しに行く。みんな俺について来い!」


「お~!」

「はいっ」

「素敵です師匠!」

「……紅茶の缶の重みが心地良い……」



 俺は右腕を突き上げ、号令を上げた。



 さぁ行くぜ二度目の王都だ。








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