第183話 異次元空間の主 7 魔王エリィ様


「我が名はエウディリーラ。この世界を始まりから終わりまで見守る者。世界のバランスを保つ為、時には我自ら赴きネーブゼロと戦い、時には人間の前に魔王として降臨もした」





 時には魔王として……。


 演じたってことだろうか。



「魔王だからと勘違いしないでもらいたい。私はこの世界を愛しているんだ。この世界を保つその為なら私は容赦はしない。バランスを崩そうとする者は、ネーブゼロだろうが人間だろうが獣だろうが消し去る」


 魔王は重いオーラを放ちながら笑う。


 消し去るとか笑いながら言うなよ。本当にやってきたっぽいけど……。



「千里眼。遥か昔、その力を持つネーブゼロの龍がいてな。そいつが能力を派手に使って世界を変えようとした。バランスが崩れることを察した私は人間に力を与え、戦わせた。その人間は龍を倒すことは出来なかったが、その魔力を奪うことに成功し、今でもその龍は地中深くに眠っている」


 ネーブゼロっていうのは、俺達の言う蒸気モンスターってことだろうか。


 千里眼を使って世界を変えようとした、ってこの目ってそんなすげー力あんのかい。靄の先とか、普通見えない物が見える程度だろ?



「人間ではその龍を倒せなかった。だがそれが今のバランスだと思い、私は手を出していない。次に復活でもしたらさすがに私が手を出すかもしれんがね、くふふ」


 俺をギッと睨み、魔王は俺の目を指してくる。



「お前もその力の持ち主だ。使い方をどこに向けるのかによっては、我は全力でお前を消し去るだろう。だがお前を量っていたら予想外に面白いものを見た。ネーブゼロ、人間、獣が共に戦い信頼し合っている。本来なら敵対する関係なのにこんな姿、初めて見たケースだ」



 ベスは俺の大事なパートナーで、アプティは大事な仲間だ。


 どんな状況だろうが信頼し、互いを想う。


 そういう関係を大事に守っている。




「皆、俺の大事な仲間だ。互いを想い信頼を寄せるのに種族とか関係ない」


 俺はベスとアプティを引き寄せ抱く。


 今回だって二人がいなかったら、俺なんて簡単に死んでいただろう。二人が必死に守ってくれたからこそ、今俺はこうして立っている。



「くふふ、簡単に言う。……だが戦いを見ていてそれは分かった。獣もネーブゼロもお前を守ろうと動いていた。そしてお前も二人を想い行動していた。では聞こう、我ともそうなれるのか」


 魔王が自分を指し、試すように聞いてきた。


 魔王と? いや魔王ってのは自称か。


 エウディリーラと言ったか、名前。長いな。



「ああ、君のことをエリィと呼んでもいいのなら互いを想う関係は出来ると思う」



 鎌の女性がものすごい敵意丸出しの視線を向けてくる。胸の部分はしっかり直していて、パラダイスはもう見えなくなってしまった。


「貴様……! 人間ごときが無礼な……!」


「待て、ジェラハス。それはもしかして愛称という奴か……? くふふ……エリィ、エリィ……! いいじゃないか、そういう人間的な発想にはとても憧れていたんだ。そうか、ついに我も人間に愛された名称で呼ばれる日がきたのか……くふふ」


 鎌の女性を抑え、魔王が嬉しそうに体を震わせ、笑顔になる。



 つーかラビコは魔王ちゃんって愛称で呼んでいたぞ。




「今この世界はとても安定していてな。人間の勇者という奴が有能な男で、よくバランスを保ってくれている。おかげで少し暇な日々を送っていてな、今日のはいい刺激になったぞ、人間。まさかジェラハスを押さえ込む者が今の世に現れようとはな」


 鎌の女性がすっごい不満そうに俺を睨んでくる。


 俺じゃない、ベスだからな強いの。


 俺はあんたの胸を見ただけだ……ああこれが原因か。でも仕方ないだろ、ブレーキになっていた優しさを外して欲の力を使わないと生き残れない状況だったんだから。





「お前達の行く末を見たい。種族を越えた信頼関係が今後、世界のバランスに良き影響をもたらすやもしれん。そしてその結果、千里眼が良き方向へ使われると信じたい……信じるぞ、人間」


 魔王が俺の前までゆっくり歩いてきて握手を求めてきた。


 どうやら魔王の信頼を得れたようだ、よかった……生きて帰れそうだぞ。


「えーと、いいんだよな愛称で呼んでも。分かった、エリィ。世界のバランスとか考えたことはないが、俺はどんなことが起ころうが仲間を想う気持ちを捨てる気はない。むしろみんながいるから、なんとか俺がやっていけている状況だしな」


「くふふ、エリィ……エリィか。お前にそう呼ばれると心がワクワクしてくるぞ」


 魔王エリィと握手をする。手、小さいな……柔らかいし。



「今この男、エウディリーラ様を性的な目で見ていました……! 人間ごときが……!身分をわきまえよ!」


 鎌の女性……ジェラハスさんでいいか、もう名前知っているし。


 ジェラハスさんが目を三角にして興奮している。よく俺のこと見てるな、この人。人じゃないか、蒸気も出ていないから蒸気モンスターでもないのか……この二人の正体は何者なのか。



「くふふ……どうしたジェラハス。いつも冷静なお前が随分この男にご執心じゃないか。胸を見られて、この男に惚れたのか? くふふ」


「エウディリーラ様! そういうことを言っているのではなく、この男は危険だと忠告を……!」



 二人が揉め始める。





 ……ラビコとロゼリィが心配しているだろうし、そろそろ帰りたいなぁ。











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