第110話 そうだ、王都へ行こう! 5 異世界はドリームが広がるワールド様


「港街ってのは恵まれているのさ~魚が取れ、船で届く世界各地の商品に食べ物、調味料~。分かるかい~ソルートンがどれほどいい街なのか~」




 毎日、当たり前のようにイケメンボイス兄さん特製のおいしいご飯を食べていたが、あれはとんでもない贅沢だったようだ。


 しかしここまで差があるとは……な。



「ここは港でもなく~魔晶列車の駅からも離れているから~徒歩か馬車ぐらいしか物流が無いんだよね~。だから基本現地で採れる物を使った料理しかないのさ~。調理法だって知り合いからか親からの口伝かのみで~料理の本だって王都に行かないと買えないぐらいで~例え本を買っても~調味料が揃わないんだよね~」



 そうか、ネットないんもんな。口伝か本のみ、か。


 しかも料理のレシピ本すら王都ぐらいの大きなところに行かないといけないのか。普通に暮らしていたら親に習うぐらいしか情報がなく、材料も限られている。そりゃー発展しないわな。


 最初、ソルートンの宿でメニュー見たとき確かにそういう感じだった。


 単に焼くか煮るか生、これぐらいしかしていない状態。しかも大体、塩味のみ。


 商店街みたら調味料が多く種類があるのに、おかしいな、と思ったがそういうことか。


 港街で材料と調味料は多くあるのに、工夫が感じられなかったのは、使い方が分からないってことだったのか。



 俺は日本でネットでいくらでも情報見れたし、普段料理をしない学生の俺ですら世界各地の料理を知っているし、多少の料理のレシピを知っていた。



 これは全てネットなどの情報のおかげ。



 そしてこの異世界にはネットがない。


 自分で意欲を持って調べ行動しないと何も情報は手に入らないってことか。



「ソルートンのジゼリィ=アゼリィがはっきり言って異常なのさ~。前にも言ったけど、王都のトップクラスの王族貴族が食べる味とメニューを誰でも食べられる値段で出しているんだよ~? そりゃあ毎日混むさ~リピーターも多いさ~っと」


 この少量の豆が浮いた薄味スープと比べたら確かにソルートンは恵まれているな。マジであの街に降り立ってくれてよかった……誰が俺を呼んだか知らんがお礼を言いたいレベル。



「分かるかい社長~? 自分のやったことのすごさが。しかも社長は世界を見たことが無いときた。私は十年かけて世界を歩いて見て~やっと得た知識と経験なんだけど~社長はなぜかこの世界の料理の知識を異常なほど知っているんだよね~。しかもこの世界ではありえない組み合わせの料理を平気で考えるんだ~」



 そうか、俺のこの知識ってラビコが世界を十年かけて歩いて回ったのと同じぐらい価値があるものなのか。


 それ考えたら、マジでネットの普及が世界に与えた影響ってすごかったんだなぁ。




「やっぱりすごいです! あなたは宿屋の主人になるべくして生まれてきた人なんです! もう絶対逃がしませんよ!」


 ロゼリィが俺の腕をぐいと引き寄せてくる。まだ食事中なんだが。


「ま~この世にはたま~に異常なくらい頭が良かったり、強かったりする人が生まれてくるから~社長はそういう人なんじゃないかと私は思うんだよね~。そしてその才能は、田舎の宿屋で終わるにはもったいないレベルの逸材なのさ~。世界で活躍できるレベルの才能を私は逃さないよ~社長は絶対私の物にしてみせるのさ~」


 ロゼリィとラビコが睨み合う。



「マスター……私はマスターが誰と一緒になろうが関係ありません……ずっとお側にいると決まっています……愛人? そのポジションで大丈夫です……」


 アプティが争う二人を見て言う。


「堂々と愛人とか言わないで欲しいな~アプティ~。そういうのはいらないかな~」


 ラビコが睨むが、アプティは無表情で見返し、言い放つ。


「……あなた方ではマスターを満足させてあげることは出来ません……そのテクニックだってないでしょう……そこを補ってあげようというのです、必要な存在かと思いますが……」


「あァン~? そんなのやってみないと分かんないだろ~? 私は基本尽くす女なんだよね~愛する男にはなんでもするし~絶対満足させてあげる自信はあるから~愛人とかどっか行けって、感じかな~」


 ラビコがちょっとキレ気味……抑えないとアカンか。


 あとラビコが尽くす女ってのは本当だろうか。微塵もそう思えないが。


「えーと、その……自信はないですが、愛で補えるんじゃないかなーと……やってみないと分からないのは確かですし、た、試しにど、どうでしょう……私と、その……」


 ロゼリィが赤い顔で上目遣い。




「待てい! リーダーの声を聞け! 俺達の目的は王都に行くこと、揉め事起こしに来たんじゃない。旅は仲良く楽しく、さんっはいっ!」



 俺は立ち上がり仲裁に入る。とりあえず王都に行こうぜ。



「はいは~い、ちょっと熱くなっちゃいました~旅は~仲良く~」


「た、楽しくですよね。はい、すみませんでした」


「マスター……了解しました」



 それでいい。



 でもこれ、あれか。上手く転がせば全員と同時に……あれこれ出来た展開だったのだろうか。そういう選択肢を選ぶのも……悪くは……アカン異世界は俺のドリームが広がるワールドだ。







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