第105話 バニーからの卒業様
「アプティーいい加減、服変えようぜ」
宿屋の支払いを終え、今月分の収支には余裕があることが分かった。
自分の服も欲しいが、まずはアプティだ。
アプティはなぜ? といった感じに首をかしげているが、さすがに毎日バニー姿で側にいられると、ね。
たまにしてくれるならありがたみがあるが、毎日だと慣れてしまって……いや、そうじゃない。年頃の娘さんが毎日肌を露出しているのはイカン。うん。
「……ですがこのほうがマスターの興味を引けているので、これでいいです……」
う、ま、まぁ確かに目の保養にはなっているが。
いつ帰るのか分からないが、とりあえず服装はまともな物にしてあげたいのだが。着の身着のまま来たっぽいし。
「だーめ、かわいい服にしようぜ。ベスー行くぞー」
ついでにベスの散歩もしよう。ベスがテンション高く足にからんでくる。
「……マスター、この犬……なんですか?」
「な、なんですか、と言われても……俺の愛犬だよ。この世界で唯一、俺の家族だ」
アプティはベスをいつも不思議そうに見ている。
「……言葉が通じている……いえ、マスターの想いを直接受け取っている……不思議」
なに言ってんだ。長年一緒にいると、なんとなくツーカーで通じるもんだぞ。
「ロゼリィー買い物行って来る。アプティの服買ってくるよ」
俺が宿屋の受付にいたロゼリィにそう言うと、驚いた顔をする。
「え、服ですか? ちゃんと普通のにしてくださいよ? アプティさんが素直なことに付け込んでエロいのにしないでくださいよ」
俺の信用ってゼロかマイナスなのか。
「うーん」
女性の服が多く売っているお店で俺が唸る。
どれがいいのかさっぱり分からない。男物とは形が違いすぎるし、流行も分からない。
「アプティはどういうのがいいんだ?」
「……マスターの興味が引ける物ならなんでも……」
これじゃあ埒があかん。
だいたい、なんでアプティは俺の興味を引きたがるんだ。単に好意なのか? それならまぁ、嬉しいけどさ。
ロゼリィについて来てもらうべきだったかもなぁ。
「ベスッ!」
俺の足に絡み付いていたベスが、アプティのお尻についているコスプレ尻尾に飛びついた。そういやさっきからチラチラ見ていたな、遊び道具と勘違いしたか。
「こら! ベス! だめだ……あれ?」
ベスがアプティのコスプレ尻尾に触れる直前、アプティが俺の視界から消えた。ベスが空振り着地で不満そうにしている。遊び道具じゃないっていつも言っているだろ、ベス。
「ア、アプティ? あれ……?」
後ろを振り返ると、アプティがお店の外に着地の姿勢でいる。すぐに立ち上がり、俺の元に小走りで来る。
「……申し訳ありません、マスター……驚いてしまって」
「あ、ああ。いや、ベスが悪いんだ、ケガはないか?」
アプティはコクンと頷き、ベスを無表情でじーっと見る。ベスはその視線に気付き、首をかしげる。
ジャンプしたのか? まぁ、アプティは足にごつい鉄の武具をつけているから、脚力を使った行動が得意なのだろう。にしても、ここからお店の外って二十五メートルはあるぞ。
今ので少し店内が騒がしくなったので、早く買ってしまおう。
あれこれ露出が少ないかわいい服を提案してみたが、アプティは全て拒否。
むしろ今よりさらに露出の多い水着に興味を持っていた。ああいう格好はラビコで間に合っている。
……そうかラビコみたくバニーの上に羽織るものを買えばいいのか?
「ありがとうございましたー」
結局アプティが頷いたのは短めのジャケット。
シルエットが綺麗で、ヒラヒラがあちこちに付いているかわいい物。上下の服は拒否されたので、せめて肩だけでも冷やさないような上着を買ってあげた。
「……ひらひら……かわいい? マスター」
「ああ、それ着るとすごくかわいいぞ、アプティ」
うん、かなり似合うと思う。
アプティの綺麗な体のシルエットを邪魔しない形。それでいて女の子らしい、かわいいデザイン。アプティも無表情ながら、少し嬉しそう。なんとなくラビコに似た格好だが、まぁいいか。
「あれ!? バニーのまんま……」
宿に帰るとロゼリィが不満そうな顔。
しょうがないだろ……アプティが全身変える服は拒否したんだから。
「あはは~ロゼリィ~? いい加減気付きなよ~自分がこの競争のスタートラインにすら立っていないという現実にさ~」
昼からお酒を飲む、水着にロングコート姿のラビコがロゼリィの肩をポンポンと叩く。
「何を言って……!?」
ラビコが俺とアプティの横に並ぶ。それを見たロゼリィが絶句。なんだ?
次の日からロゼリィがミニスカートを履いて受付の仕事をするようになった。
しかし集まる世紀末覇者軍団の熱い視線に耐え切れず、すぐにいつもの露出の少ない服に戻ったが。
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