第104話 ちびっ子海賊、甘味を求める+五つのネックレス様


「レンジーお小遣いもらったーもらったー」




 食堂で紙に俺の理想の子の絵を描いていたら、入り口に叫ぶちびっ子海賊が現れた。



「いたいた、レンジ。親父から臨時のお小遣い貰ったんだ、甘いもん食わしてくれ、くれ。なんだこのたわし人形」


 十二歳ぐらいの見た目の女の子。


 ぶかぶかの海賊服を着た、海賊おっさんの娘さんのシャム。パタパタと走って俺の隣に元気よく座る。



「た、たわ……」


 俺の理想の子をたわし……バカな、アプティは褒めてくれたぞ。


「マスター……褒められていますよ……その未来の掃除用品」


 ち、ちげーよ! 俺の理想の子だって言ったろ! 


 くそ、絵が下手なのは認めるが、女の子を描いてたわし人形とか未来の掃除用品とか言われるとか予想外だ。これもここが異世界のせいに決まっている。





「レンジ、甘いの食べたいんだ、たいんだ」


 シャムが両手にお金を乗せて差し出して来た。


 二Gか、ジュース一杯だなそれじゃ。しゃーねー……。



「おし、二Gは受け取った。あと俺がオススメの甘いもの追加してやる、ちょっと待ってろ」


「ひひひ、レンジ頼んだぞー将来私の船の船員にしてやる、してやるー」


 それは勘弁、漁船にはもう乗りたくない……。





「お待たせ、シャム。オレンジジュースにホイップパンケーキスペシャル版だ」


「うわーうわー! クリームにフルーツ山盛りだー! アイスも乗ってる、乗ってるー!」


 オレンジジュースはシャムのお金で、ホイップパンケーキは俺が出した。


 イケメンボイス兄さんに頼んで、おまけでアイス、チョコプレート、フルーツを山盛りにしてあげた。十Gかかったが、シャムのこのキラキラした笑顔見たらなんてことない金額だ。



「うまーい! 甘ーい! 冷たーい! ひひひ」



「うまいか、シャム。お父さんにお礼言うんだぞ」


 シャムの頭を優しく撫でる。


「うん、言う。あとレンジ、ありがとう。お金出してくれた、くれた」


 気にすんな。子供はいっぱい食え。






「こ、これは傍から見たら子供のいる若夫婦……」


 ロゼリィがお茶を持って来てくれたが、少し震えている。


 ああそうか、アプティに俺にシャムが三人で仲良さそうにしていると、そう見えるのか。



 リング騒動の後、例のお店でロゼリィにあげた物と同じ物をラビコ、アプティにも買ってプレゼントした。


 ロゼリィに習って二人共左手薬指にはめるという状況。


 なので今アプティの左手にはリングが輝いているので、余計そう見えるのかもしれない。



「こ、これは私も参加です!」


 ロゼリィが左手のリングを掲げながらアプティを押しのけ、俺の横に座ってくる。アップルティを置き、アプティの意識をそちらに向け定位置を確保した。


「うん? レンジ、お前嫁が何人いるんだ。やっぱ噂は本当なのか、なのか?」


 シャムがアプティとロゼリィのリングを見て言う。噂ってのは絶対よくない噂だろうな、もう俺って世間体は諦めるしか無いのか。


「あとラビ姉も持ってんだろ? そのリング。こないだ見せられたぞ。兄貴、少し気を失うぐらいショック受けてた、受けてた」


 なんでみんなそのリングを自慢げに見せびらかすんだよ……。ネックレスか何かにすべきだったか。


「正妻三人に愛人五人だっけ? 体力あんのなーレンジ。見た目ひょろっこいのになー、もしかして夜は別人なぐらいに精力的になんのか? エロエローひひひ」


「シャムちゃん? これはそういうものじゃなくて、愛です。愛とは美しいものなのですよ?」


 ロゼリィがシャムに諭すように言う。そのリングは感謝であげたんだがなぁ。話がどんどん変わってきている。



「ふーん、ふーん……」



 シャムが背の低さからちょうど目も前に来るロゼリィの胸や、アプティの胸を見比べながら俺のほうを向く。


「私は二人みたく胸はないんだ、これじゃあダメか? 候補には入れないのか、のか?」


 シャムがシャツをめくり、年齢に相応しい平らな胸を見せてくる……っておい!


「ちょ……シャムちゃん! 女の子がそういうことしたら、だ、だめ! あなたも変な顔で見ない!」


 ロゼリィが慌ててシャムの服を戻す。


 ああ、大丈夫。俺は見ていない。ちょうど目を閉じて五年後を想像していた。うん、大丈夫。


「もう八人もいるんならいいじゃん、レンジ優しいし、私好きだぞ、だぞ」






 その後、シャムが帰った後、なぜか俺はロゼリィに説教を受けた。



 なぜかは知らん、身に覚えが無い。俺は目を閉じていたので無実なのだが。


「どうしてあなたはそうなんですか! こんなに女性が寄ってくるとか……少しは自覚して対策を立ててください! これじゃあ私の計画が上手く行きません!」


 ロゼリィの計画とはなんぞ。





 向こうではラビコがバイト五人組にリングを自慢している。



 さ、さすがにもう五個は買えないぞ……。



 無理だぞ? もう一度言う、無理だからな?









「ありがとうございまーす! 嬉しいです!」

「こういう物初めて貰うのです」

「兄貴、気持ちは受け取ったよ」

「綺麗……ちょっとご機嫌」

「うん、モテる男はお金持ってる」




 ネックレスはリングの半額で買えました。









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