第5話 龍ちゃんとバイク
プルルルル……プルルル……。
着信。田村。
「んっ……んんっ……くぅう……。ふわああああ」
……なんかもう日曜は、おっさんのモーニングコールで起こされるのがお馴染みになってきたな。嫌だわー、おっさんのモーニングコールなんて。
どうせなら可愛い彼女に起こしてもらいたいわ。彼女いないけど。
そうだ、ちょっとおっさんをビックリさせてやろう。
「はい。矢島美容整形クリニックです」
「龍ちゃん。そんなつまんねぇ事やってて恥ずかしくないか?」
「……………」
「そんでよ。龍ちゃん。バイクは好きか?」
「ん?バイク?ああ、まあ中型免許は持ってるし、それなりに好きだけど?」
「ならそんな龍ちゃんにぴったりなのがあるんだ」
「ぴったり?」
「オートレースだ」
「オートレース?」
「そうだ。簡単に言えば競輪や競馬みたいなのをバイクでやるレースだ」
「へぇ。そんなのもあるのか。色々あるもんだな」
「オートレースはいいぞ。初心者にとっても予想がしやすい面白い競技だ。行くだろ?行くよな?行くに決まってるよな」
「いや、行かねぇよ。せっかくの日曜なんだ。俺は家でゆっくり寝るぞ」
「そうか。それは残念だ。オートレース場の近くに、酒も飯もメニューが豊富で安くて美味い居酒屋があるんだけどな。いやー、残念だ」
「…………わかったよ。行くよ」
「そうこなくちゃな。じゃあ蕎麦屋で待ち合わせだ」
また来てしまった。
どうして俺は、美味くて安い飯屋という単語につい反応してしまうんだろう。
「それでオートレースは、どの辺が初心者に優しいんだよ」
「まあそう焦るな。まずオートレースってのは、基本8人で走る。そして競輪のようなラインは、考える必要はない。単純な個人での勝負だ。オートレースの特徴ってのは、ハンデにある」
「ハンデ?」
「そうだ。まずランクが低い順から1番、2番、3番とインコースが与えられる。つまり8番は、一番ランクが高い選手が来るんだ」
「なら8番に賭けておけば勝てるんじゃないのか?」
「そこでハンデがある。例えばこのレース。1番は0mハンデ。8番は30mハンデ。8番は、1番と比べて30m後ろからスタートしなくちゃいけないんだ」
「なるほど。そういう事か。それでどうやって予想するんだ?何か当てるコツとかがあるのか?」
「レースが始まる30分前に、試走というのを行う。全力で1周試しに走るんだ。ほら見ろ。8番のタイムは3.35秒だ。1番は3.42秒だ」
「でもハンデがあるんだろ?そんなんじゃタイムなんて参考にならないだろ」
「そこでだ。ハンデを10m辺り0.01秒足して計算してやる事で参考になる。1番は0mハンデで3.42秒。つまりそのまま3.42秒だ。そして8番は30mハンデだから、3.35秒に0.03秒足して3.38秒。つまり1番と8番では、約0.04秒8番の方が優秀と判断できるわけだ」
「なるほどな。理屈は分かった。確かに競馬だと馬の知識や騎手の情報とか色々初心者には厳しいが、オートレースは判断しやすくて、今までで一番わかりやすいな」
「そうなんだよ。だから面白い。後な、気温と天候も考えた方がいい。基本、夏場は1番や2番などのインコースの選手が有利なんだ」
「どうして?」
「暑いからエンジンがオーバーヒートしちまう時があるんだ」
「なるほどな」
「逆に冬場はオーバーヒートの心配はないから、8番、7番辺りの不利になる材料はない」
「へぇ」
「このレースは、8番を頭にしておけ。ほぼ間違いなく、8番が1着で決まりだ」
「2着は?」
「そうだな。先ほどの試走タイムで計算してみろ。龍ちゃんはどう見る?」
「えーと、7番が20mハンデで3.37秒。つまり0.02足して3.39秒か。6番は20mハンデで3.39秒だから3.41秒。5番が10mハンデで3.38秒だから3.39秒。5番と7番が全く同じタイムだな」
「そこはもう直感で決めろ。少しでもインコースの5番が良いと考えるか、少しでもランクが高い7番と考えるか。それが勝負ってもんだ」
「そうだな。じゃあ2着は5番だ」
俺は8ー5の2車単を1000円分買った。
レースが始まり、2週目。8番が一気に先頭に立つ。
「おっ!やっぱり8番出て来たか。30mハンデなんて屁でもねぇって感じだな。これは8の頭で決まりだ」
「5番は2週目で4番目か。まだここからだ」
3週目で5番が2着まで浮上した。
「よーし!!きたきた!!いけ!!5番!!そのまま!!」
そして8-5の順番でゴールした。
結果は、3.8倍で3800円になった。
「おお。なんかおっさんに言われたとおりじゃなくて、初めて自分で予想して勝ったような気がする。当たると気持ちいいな」
「わははは!そうだろ!予想が当たると気持ちいいだろ!!これがギャンブルの醍醐味だ」
それから俺達は、オートレースを堪能した。
勝ったり負けたりを繰り返して、結局は2000円負けてしまった。
「あー、だめだったな」
「まあそんな時もある。それがギャンブルだ。むしろ今まで負けなしで勝ててたのが奇跡だったんだよ」
「まあそんなもんだよな」
「じゃあ反省会って事で飯食いに行くか」
「そうだな」
おっさんに連れていかれた居酒屋は、確かに酒も飯もメニューが豊富で、色々目移りしてしまうほどだった。
負けたけど飯は美味かったし、まあいいか。
龍ちゃんとおっさん 富本アキユ(元Akiyu) @book_Akiyu
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