第3話 龍ちゃん、釣りに誘われる?
ブルルルル……ブルルルル……。
「んっ……。ふわぁああ。誰だよ、日曜だぞ。ゆっくり寝かせろよ」
着信。田村。
またおっさんか。今度は何だよ。
「おう、龍ちゃん。元気か?」
「唯一元気を取り戻せる仕事休みの日曜日の貴重な俺の睡眠時間を、おっさんが削ってるから元気じゃねぇよ」
「わははは。そんな軽口叩けるようなら元気だな」
「それでおっさん。何の用だよ」
「釣りに行かないか?チヌを釣りにさ」
「えっ?釣り?意外だな。おっさん、ギャンブルしか趣味がねぇのかと思ったぜ。釣りか。いいぜ、行こうか」
「じゃあまた蕎麦屋の前で待ち合わせだ」
「ああ、分かったよ」
釣りか。釣りをするなら汚れるな。動きやすい格好で行った方がいいか。
ジャージとかでいいかな。
しかしチヌ釣りか。チヌが釣れたら刺身にして酒飲みながら食いてえなー。
美味いだろうなー。楽しみだぜ。
俺は蕎麦屋に向かった。
「おい、龍ちゃん。なんだ、その格好」
「えっ?だって釣りに行くんだろう?汚れるからジャージがいいかと思ったんだ」
「チヌ釣りってのは、大穴狙いの競輪の事だよ」
「なんだよ!!結局ギャンブルかよ!!俺は今日、チヌを釣ったら酒を飲みながら刺身にしてぇなとか考えてここまで来たのに!!」
「わはははは!!競輪で勝ったら居酒屋でチヌの刺身を注文すりゃいいじゃないか」
「……ったくもうー。俺、競輪だってやった事ねぇんだぞ。そう簡単に勝てるもんじゃねぇだろ」
「競輪は良いぞー。なんといっても大穴が来る可能性が高いんだ。自転車に人間が乗って競い合う競技だ。人間は緊張する生き物だ。だからレース結果が読みにくい。その変わり、当たればでかい。だからチヌ釣りなんだ」
「ギャンブル素人相手に、そんな紛らわしい言い方するなよな」
そして俺とおっさんは、競輪場についた。
「それで競輪ってなんかコツとかあるのか?」
「そうだな。競輪のコツか。競輪はな、ラインってのがある」
「ライン?なんだそれは?走行ラインの事か?」
「ラインってのはな、選手毎の人間関係によって作られるチームのことだ。競輪ってのはな、実はチームを組んで協力して1着を狙うんだ」
「ええ?個人で戦うんじゃないのか」
「まあ個人で戦う選手もいるが、基本は皆ラインを組む。ラインは、同じ県出身の者同士だったり、同期同士だったりで大体2人から3人でチームを組むんだ。先頭を走る強い脚力とスタミナを持った選手、その後ろにいる選手はぴったりくっついて風の抵抗を受けない。だから体力を温存してラストに備えるんだ。そうやって役割分担がある。だから適当に賭けるのではなく、どのチームが優秀かを判断して決めるといい」
「へぇ。そうなのか」
次のレース。投票締め切りまで、残り10分。
「あれがオッズか。3番、1番。5番辺りが強いのか」
「まあそうだな。3ー1ー5でいくか。だが3ー4-2というのもありだ。これは難しい」
「ベテランのおっさんでも難しいと思うレースがあるのか?」
「そりゃあるに決まっている。特に競輪は難しい。3-1ー5の3連単か……うーむ……」
「なんだ?3連単って」
「3連単ってのは、1着から3着までを順番通りに当てる賭け方だ。当てるのが一番難しい。しかしその分、配当は大きいぞ」
「じゃあ俺は、3-4ー2と3-4ー5の3連単?に1000円ずつ賭けてみようかな」
「龍ちゃん。さすがにそれは高望みしすぎてる気がするが……。まあ結果なんざ、どうなるかは分からない。気になるなら賭けてみればいい」
俺は2口、合計2000円分の3連単車券を購入した。
そしてレースが始まった。
「遅っ!!なんだよ、どの選手もやる気ねぇな」
「わははは!龍ちゃん。競輪は最後の1周半までは、先頭が風の影響を受けて不利にならないように誘導員が前を走るんだ。誘導員を抜いてはならないというルールがあるんだ」
「なんだよ、それ。先に言ってくれよ」
「ラスト1周半は、全ての選手が全力で走るから迫力があるぞ」
そしてラスト1周半。
「よし、いけぇーー!!」
おっさんが叫ぶ。おっさんが賭けたのは、3ー2-6一点張り。
そしてレースが終わってみると、俺の買った3-4ー2が当たった。
「あ、当たった!!お、おっさん!!これいくらになるんだ!?」
「えーと、101倍だな。それで龍ちゃん、いくら買ったんだ?」
「1000円」
「な、なに!?ちょ、ちょっと車券見せてみろ!!」
「えっ?うん」
「10万1000円だ!!」
「えええ!?マジかよ!やった!!」
「龍ちゃん。やるじゃねぇか!!今日は龍ちゃんのおごりだな」
「しょうがねぇな。おごってやるよ。おっさん、この辺でチヌの刺身ある居酒屋の店知ってるか?今日はチヌの刺身を食いたくて食いたくてたまらねぇんだ」
「おう。あるぞ。海鮮居酒屋の店。なら今日は、そこに行こうぜ」
こうして俺とおっさんは、チヌの刺身を始めとした海鮮料理を堪能しながら酒を飲んだ。
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