Recipe4 冒険者ギルドとギルド定食(4)


   ***


 後日、ソランはカルブロッツ支部と正式に契約を取り交わした。

「それでは正式に、ソラン様をわが冒険者ギルド カルブロッツ支部の客員指南役としてお迎えします。今後とも宜しくお願いしますわ、ソラン様」

 ギルマスのガレットは、満面の笑みを浮かべている。

「……よろしく」

 反対にソランは、憮然となっていた。

 この契約のために宰相に許可を取ったり、書類を取り寄せたり、支部の上役と顔を合わせたりと、大嫌いな「面倒ごと」を色々とこなしたので、精神的疲労が蓄積していた。

「お約束の身分証はこちらです。任務クエストを受けることはできませんが、冒険者と同等――場所によってはそれ以上の待遇を受けることも可能です。お受け取りくださいませ」

 丁寧に緋毛氈ひもうせんの張られたトレーに乗せて差し出されたのは、白銀色の身分証だった。薄いプレート状で、首からかけられるようチェーンを通す穴が開けられている。

 一見すると変哲ないが、素材に高濃度の魔石が溶かしこまれていて、通信機能や場所特定機能、血液を使った所有者認識機能などが使える。まず偽造不可能な、現時点におけるギルド内最高のものだ。

(……メンドくさ)

 これでいつでもギルドから呼び出される可能性ができたことを考えると、ソランにはそうとしか思えなかったが。

「では、今日はこれで帰らせてもらっていいな?」

「えぇ、もちろんですわ。あぁ、それと……」

 立ち去ろうとするソランの耳に、ガレットが、そっと耳打ちしてきた。

「のちほど、『なんでも屋』を挨拶に行かせます。〝お問い合わせ〟の件は、その者にお申しつけください」

「……わかった」

 来賓室をあとにしたソランは、冒険者で賑わう1階フロアへと下りていった。

(黒竜め。これで見つからなかったら、あとは知らないからな)

 失ったもの自由と得たもの手段がある。その差は石ころ1つ分くらいのものだが、マイナスになっていないだけいいことにする。

 それに、このギルドには前々から気になっていたものがあった。

 1階フロアの奥のほうからいい匂いがするのに気づいて、ソランは足を止めた。

「……早速、行ってみるか」



「あれっ、〝先生〟がいる~」

 任務から引き揚げてきたフォルテが、食堂でソランの姿を発見した。

 あの任務同行の件以降、魔導士のフォルテはすっかりソランを「先生」扱いしている。

「ほんとだ。ギルドの客員になるって話、まとまったみたいだね」

 ダリカが遠くから眺めながら言う。話がまとまっていなければ、ギルド職員か冒険者しか使うことのできないこの食堂で食事をしているはずがないからだ。

「ご挨拶したほうがいいかしら……?」

 ミレイナが迷いながらそわそわとする。サーヴィスがそれを止めた。

「今は止めておけ。睨まれる」

「なんでさ?」

 ダリカをはじめパーティメンバーたちが不思議そうにリーダーを見る。

 サーヴィスは、やれやれというようにため息をついて、苦笑した。

「あれだけ旨そうに食ってればな」

 ソランは、喜色満面で念願の『冒険者ギルド定食』にありついていた。









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