第2話 星暦554年 藤の月05日 いざ出発!(2)

「あ、出港したね」

窓際に立っていたシャルロが外を見て呟いた。


お?

言われてみたら、船の揺れが変わった感じがする。

さっきまでの係留された船の左右への単調な揺れでは無く、何か斜め前への動きも加わって揺れが大きくなった感じ?


船体からもギシギシ小さな音が聞こえてくるので、どうやら帆を張って風にあおられながら動いているっぽい。


「・・・考えてみたら、これって風が止ったら船も止るのか?」

まあ、いざとなればシャルロや俺が蒼流や清早に頼めば船を動かすことは可能だが、普通の船だったら風が止ってしまったらそれこそ港を出る最中に立ち往生なんて事もあるんかね?


「まあ、完全に風が凪いでしまったらそうなるが。

流石に港の入り口をブロックしてしまったら漁船とかにも邪魔だからね。

立ち往生したのが港の入り口付近だった場合は専用の小型ガレー船で曳船してどかすことが多いらしいね」

アレクが答えた。


へぇぇ。

「それって立ち往生してガレー船を使うことになったら料金取られるの?」

その費用って船長の給料から引かれたりするのかな?


「そりゃあ当然。

出発が遅れるのも痛手だから、船長にとっては風を見極めて遅れずに、かつ立ち往生しないタイミングで船を出すのも腕の見せ所らしいよ。

まあ、元々港町として栄える場所っていうのは風が吹きやすい地形なところが多いけど」

アレクが荷物を備え付けの引き出しにしまいながら答えた。


お。

俺も荷物を出しておくか。

と言っても、それ程無いんだが。


「ちょっと上に出て見て回らない?

陸が離れている光景っていうのも見たいし」

シャルロの提案に、俺も荷物を放り出す。


「良いねぇ。

見に行こうぜ。夕食の時間帯までに部屋に戻れば良いんだろ?

ちょっと船の中を探険して回ろうぜ」

2週間もあるんだ。荷物の整理なんぞ後で構わない。


甲板に上がったら、何やら船員達が帆を動かしたり、物を縛り付けたりとバタバタしていた。


「なんか、まっすぐ外海に進んでなくね?」

まっすぐ陸地を背に進むのかと思っていたのだが、何やら斜めに進んでいる気がする。


空滑機グライダーに乗って空から見る方が分かりやすいかもしれないが、船の進む方向から振り向いたときに、右と左に見える陸地の範囲が違う。

前もって空滑機グライダーを準備しておいて、出発したら空から見ていくようにすれば良かったかなぁ。

・・・失敗した。


まあ、海岸沿いの海って言うのは何度か空滑機グライダーで空から見たけどさ。

でも、自分が乗る船が段々陸地から離れている光景を上から見るというのも面白そうだ。


今からでも飛び立てると思うが、どこに空滑機グライダーが収納されているか分からない。

流石に出発時に忙しい船員や副長に出して貰うよう頼むのは気が引ける。


どっかの島に寄って出発する時にでも試すことにしよう。


「ああ、風向きの問題だろうな。

まっすぐ外海に向けて風が吹いている訳じゃあないようだから、そう言う場合は三角ターンをしながら進むと聞いたことがある。

私も詳しいことは知らないが」

ふうん。


「そう言えば、南寄りの航路ってどう行くことになるんだ?」

熱心に周りを見ているシャルロに尋ねる。


「取り敢えず、南東に進んで貰って、補給できる島に寄りながら進むのに良い辺りに来たら蒼流が教えてくれるから僕が船長か副長に航路変更を知らせることになってる」

うへぇ。

何か、漠然とした指示だな。


でも、確かに精霊に海図や陸の地図を見せて、『どこで東へ航路を取ればいのか教えてくれ』と言っても通じない。

彼らにとっては人間の文字も地図も意味を成さないんだから。


「シャルロが寝ていても、ちゃんと起こすように蒼流に言っておけよ?」

過保護な蒼流なら、『シャルロの睡眠を妨害するぐらいだったら翌朝まで待っても構わない』と知らせずに黙っている可能性が高い。


「いや、未知の航路だからね。

変な島や浅瀬に座礁しても困るから、夜は停泊するはずだ」

アレクが言ってきた。


よく知ってるなぁ。

船長か副長と話をしたのか、それともそれが新規航路を開拓する際の常識なのか。


どちらにせよ、確かに寝ている間に暗闇で船が座礁したりしたらたまらない。

俺は死なないだろうが、その後の始末が大変すぎて考えるのも嫌だ。


適当な雑談をしつつ忙しげな船員を横目に適当に船の上や中を歩いていたら、やがて陸地が段々離れていき、水平線の彼方に消えた。


「おお~。

この段々と陸地が見えなくなっていくっていうのも良いね~。

今度船探しをする時は、海上で陸地から離れようか?」

シャルロが提案した。


「まあ、初日はまだしも、ある程度陸の傍の海底を探し終わった後は海上を移動しても良いかもな」

最初は海底を探さす必要がある。ノンビリ海上を進んでいては景色は楽しめるけど肝心の船探しが出来ない。

だが、どうせそれなりの範囲を探していく間に、『今まで探した範囲を進む』ことも多くなるんだ。

その時は海上を進んでも良いだろう。


「ちゃんと日差しを遮る結界でも張らないと、私達が使うような小舟だと海面に近いから海からの照り返しで酷い日焼けをすることになるぞ」

アレクが口を挟む。


おう。

海面からの照り返し。そんなものがあったな、そう言えば。


「まあ、次にいつ船探しをするかは分からないけど、日差しをある程度カット出来る結界用魔具も作れないか、工夫してみよう」

シャルロが笑いながら提案した。


そうだな。

毎年1回ぐらい沈没船探しをして遊ぶなら、日差しカットの結界用魔具を作ったら色々便利かも知れない。


「折角たっぷり日が当たる船の上に居るんだ。

今回の航海の間に、暇な時間があったらちょっと研究しても良いかもだな」

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