第3話 星暦554年 藤の月05日 いざ出発!(3)
甲板の端で離れゆく陸を眺めるのに満足したら、今度は船の中の探索だ。
出発直後は船員達も色々とやることがあるのか、船が港を出てからも相変わらず船員達がバタバタと忙しなく動き回っている。
邪魔にならないように
下の方は、水の入った樽と食料らしき袋が山積みになっていた。
もう少し上になると何やら交易に使うのか、箱が積まれている。
錠前が掛けられた部屋からは魔力が感じられたので転移門の部品かな?
俺たちの部屋がある階は上級士官・客用なのか、基本的に個室が集まっているようで、ナヴァールやハルツァの部屋や士官達のキャビンがあるっぽかった。
流石に最初の一部屋を開けてちらっと中身を確認した後は、プライベートな部屋に勝手に入り込むのは遠慮したけど。
しっかし、こういう個室ってデフォルトでは鍵が無いんだな。
まあ、何かを盗んでも逃げられない船の上なのだ。犯人も逃げられないんだから盗難はあまり問題では無いのか?
ハルツァとナヴァールは部屋で大人しくしているようだった。
ずっと一人部屋に閉じこもっていたら、飽きないかね?
それとも最初だけ遠慮して大人しくしているのか。
まあ、出発前に終わらせる作業で忙しかったのか、ナヴァールなんかは目の下に大きな隈が出来ていたので暫くは寝て過ごすのかも知れない。
俺たちの階の下は船員達の寝場所なのか、ハンモックをかけるフックが沢山付いている大部屋が幾つもかあった。
個人用の物を入れるロッカーらしき棚が壁際に設置されている。
ちっせ~。
あれじゃあ大きな土産を買って帰れないじゃん。
かさばる土産を買ったら倉庫の方に置かせて貰うのかね?だとしたら目が届かないから入港する前に確認しておかないと怖い気がするが。
だが、入港時も忙しいだろうから自分の土産を見張っているわけにも行かないだろう。
無事に土産と再会できるかは賭かもな。
俺たちの階の水回り部屋はそれなりに大きく、中にも区切りがあって大きな樽から桶で水をくみ出して自分の体を簡単に洗い流せるようになっていた。
それでもシャワーとかは無かったけど。
一般の船員達の水回り部屋は俺たちの階のに比べるとかなりお粗末だった。
どうもトイレは容器にやって溜めておいて、日に何度か流しているらしい。
一々流すと洗い流す水が無駄になるということかね?
どうせ汚物を洗い流すのは海水を使っているのだからケチらなくても良いんじゃ無いかと思うが、労力を惜しんでいるのか?
体を洗うスペースは・・・実質無かった。
単に裸になって濡れタオルで体を拭けるだけ。
却ってこの部屋だとトイレ臭いから、甲板で海水で体を適当に洗い流した後に、ぬれタオルで拭いているのかもしれない。
うへ~。
ちょっと航海の最中に臭くなりそうだ。
せめて台所で働く船員はしっかり体を拭いてくれていることを期待したい。
そんなこんなを観察しながらそれなりに楽しく時間を過ごしていたのだが、夕方になってきたので俺たちの部屋へ戻った。
が。
戻ってみたら、部屋の前でまだ少年といった年代の若いのが空の部屋を覗き込んで立ち尽くしていた。
おっとぉ。
思ったより、船の夕食は早いらしい。
「済まないね、待たせたかい?」
アレクが若いのに声を掛ける。
「いえ、今来たところですが・・・夕食ですので、来て下さい」
少年がぴょこんと頭を下げて、歩き始めた。
階段で、ちょうど出てきたナヴァール達にも出会った。
お、良かった。
少年の言うとおり、俺たちが遅かった訳でも無いみたいだな。
「おお、君たちが若手魔術師かね?
明日から
ここら辺はそれなりに船の往来が多いので知られていない島の発見は無いだろうが、意外な発見というのは探さなければ絶対に出会えないからね。
頑張ってくれたまえ」
船長が自己紹介の後に俺たちに席を勧めながら声を掛けてきた。
まあ、確かに王都から出て1日やそこらだったら知られていない島がある方が驚きだよな。
でも、暫く進めば通常使われる航路から外れるだろうから少しは可能性が出てくるのかな?
まあどちらにせよ、船の上にぼんやり居たって飽きるからな。
適当に周囲を見て回ろう。
「海のことはあまりよく知りませんが、色々新しい発見があるかと思って楽しみにしています。よろしくお願いします」
アレクが優雅に返事をする。
シャルロは一応
でも、退屈してそのうち乗りたいって言い出すだろうな。
船長との夕食は食堂の後方にある、専用のテーブルでだった。
テーブルクロスがテーブルに金具で止めてあるのがちょっと笑える。
まあ、他の船員用のテーブルはクロスなんぞ使っていないから、これでも上級感を出す為の贅沢なんだろうなぁ。
とは言っても、真水を節約する必要があるなら、テーブルクロスもそうそう洗えないだろうから何かを零したら暫くそれと付き合う羽目になりそうだが。
俺が零した場合は、洗濯を申し出よう。
クロスなんぞ無いテーブルで食べてきた事の方が多いが、流石に染みが付いたテーブルクロスをいつまでも使うのは嫌だ。
ちなみに夕食は意外と普通に美味しかった。
色々と副長とかと話しながらコースに分けられた出された食事を食べたのだが、これだったら普通に王都のレストランに行って食べるのとあまり変わりは無い。
ちょっと食器が溢れにくいように深めになっている程度かな、違いは。
だが、そのことを副長に言ったら笑われた。
「いやいやいや。
航海中の食事というのはこんな物じゃあ無いよ。
2、3日程度は新鮮な食材を使えるから普通に美味しいんだけど、それから後は保存食を如何に美味しくするかという料理長の必死の工夫の賜物になるのさ。
船長がそれなりに食にうるさい人だからね、料理長の腕もかなりの物なんだが・・・それでも奇跡は起こせないから。
いつもどこかに入港できると本当に嬉しいよ」
おっとぉ。
そうでっか。
「新鮮な魚を捕獲できたら助けになりますか?」
あまり大々的にあちこちで俺にも水精霊の加護があるとは言いたくないので、漠然と質問する。
まあ、どうせ他の人間には俺が魔術を使って魚を捕っているのか、それとも清早に手伝って貰っているのか、違いなんて分かるまい。
「新鮮な魚を捕れたら本当に助かるよ。
是非とも、捕まえられたら料理長に提供してくれ」
にこやかに、だかかなり熱心に言われた。
そうか。
まあ、ちょっとは『保存食で作った食事』というのも味わってみたいから直ぐには魚を捕るつもりは無いが。
それなりに頑張るとしよう。
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