それぞれの取捨選択

第265話本当の王と敵

 シェリーにドド、ララ、ゴンと名付けられた氷心の三人は、彼らが ”鬼少女” と勝手に名付けた、氷心の恐怖の象徴ともいえるニーナと向かい合っていた。


 そう、白旗を上げ、降参を認めてもらうために……


「まあ、もう諦めましたの? もっと遊んでくださっても宜しいのに……」


 オホホホホ……、と淑女らしく淑やかに笑い、頬に手を当てこてんと首をかしげる可憐な少女ニーナ。


 その姿は幼い少女らしくとても可愛らしいものなのだが、氷心の三人には恐ろしくってたまらない。


 少し離れた場所で「ニーナちゃん、その顔、僕にも見せてーー!」と一人の少年が叫んでいるが、氷心の三人には鬼少女のその笑みの何処が可愛いのか全く持って分からなかった。


「お兄様も、お姉様も、貴方達ともっと遊びたいようですのに……」


 残念顔で「ほう……」とため息を吐く鬼少女。


 子供に負けたショックで身も心もボロボロな彼らは、鬼少女に何を言われても言い返すことなど出来ない。


「ニーナ様、敵側の者を説得出来たようで良かったでは無いですか、私たちは彼らを実験台として……ゴホンッ、ゴホンッ、いや、彼らを仲間として認めますよ。心から歓迎します。なあ、ブラッドリー、チュルリ、チャオ、君たちもそう思うだろう?」


 氷心の三人に恐ろしい物を食べさせたベランジェたち研究組が、氷心の三人がニーナに降参すると聞き、笑顔で喜びを表す。


 氷心の三人はその含み笑いを見て思わず叫びそうになるが、どうにか押しとどめた。


 だが彼らの所業(悪事)はグレイスからニーナに伝わっていたようで、ニーナが「ベランジェ……」と笑顔で諫めると言葉を濁し、何か取り繕うように氷心の三人へ「仲良くしよう」と歓迎の言葉を発して見せる。


 だが、どう見ても墓穴を掘っているようにしか見えない。


 どうやら彼らの 『氷心の三人を実験台にしたい』 気持ちはごまかせないらしく、氷心の三人を見つめるその目は、ニーナじゃなくても分かる程爛々としている……当然ベランジェと長い付き合いのあるニーナの笑顔は怖いままだ。


 そんなニーナの笑顔に氷心の三人はまた恐怖を感じる。


 ベランジェの含みある笑顔よりも、何故かニーナが浮かべる優し気な笑顔がとても怖い。


 氷心の三人は、毒にもなれていて、五臓六腑には自信があったのだが、ベランジェたち研究組からの攻撃は未知のものすぎて対処できなかった。


 その上、普通な青年にしか見えないグレイスの最終攻撃。アレは効いた。


 あの言葉の刃は氷心の三人のプライドをグダグダにし、心を折った。


 自分たち氷心の三人は、この悪魔のような集団の前ではただの一般人でしかない。


 その上小さな子供にも敵わぬ実力しか持っていない。


 ここで絶望し命を落せればいいのだが、残念ながら鬼少女の前ではそれも叶わない。


 ならば降参し、魔法契約に反することで消滅しよう。


 氷心の三人はそんな思いで、今、鬼少女(ニーナ)と向かい合っていた。



 そして氷心のリーダーである ”ドド” ことドナルドが、胸に手をあて氷心の三人の代表として、ニーナに話しかけた。


「我々の名は氷心(アイスハート)。ラベリティ王国諜報員であります。国からのある指示を受けこの場へやって参りました。ですが……我々の作戦は失敗しました。主の下に帰る事も出来ません。どうぞ処分を、お願い致します……」


 頭を下げる氷心の三人。


 彼等にはラベリティ王国の王族を裏切ることが出来ない契約が課せられている。


 なので契約に反しここまで話をすれば、体中に痛みが走り、死を迎えるはず……なのだが、今の所何故か体に異常はない。


 きっと先程の研究組による実験の際、あのグレイス青年からポーションを飲ませてもらったお陰なのだろうと、そう納得する三人。


 顔中に生えた毛以外はポーションのお陰で元通りになったので、きっとその影響からまだ契約違反の苦しみがないのだろうと、三人はそう考えた。


 だが時期に自分達は死を迎える。


 そう思い覚悟を決めて自らの仕事を話したのだが、彼らにはまだ死は訪れなかった。


 その代わりなのか何なのか、突然キラキラとした金色の光が彼らを包んだ。


 すると顔中に生えていた毛が抜けて行き、元の普通だった顔に無事戻る事が出来た。


 目の前で研究組があからさまに残念がっている様子が伺えるが、氷心の三人は驚きが勝っていた。


「ニーナちゃん! 姿だけでなく使う魔法までも美しいだなんてっ! あああ、僕にもその愛の魔法をかけて欲しいぃぃ!」


 どうやらこの美しい魔法は鬼少女の魔法らしい。遠くの方で少女を褒める少年の叫び声が聞こえてくる。


 異常な現象に陥った人間を簡単に癒す幼い少女。


 目の前の鬼少女が物凄い魔法使いであることは、氷心の三人にも良く分かった。


 自分達との能力の差は歴然、敵うはずがない。


 敵である鬼少女のその魔法力に感心し、尊敬の念を抱いた三人は、また深々とニーナに頭を下げた。


 この方は本物の聖女様なのだ……と


 この時こそ本当の意味で氷心の三人がニーナに対し心を開いた瞬間だったと言えるだろう。



「貴方達の ”覚悟” 、お受けいたしました……その上でお聞きします。貴方達が主より受けた指示とは一体何でしょうか?」


 依頼内容を話せば我々が命を落とすことをこの少女は分かってくれたのだ、と、暗殺部隊の自分たちを認めてくれたニーナの問いかけに、氷心の三人は熱い何かが胸に沸き起こる。


 喉の奥から込み上げるものを押し込み、どうにか呼吸を落ち着かせ、答える準備をする氷心のリーダードド(ドナルド)。


 自分達の主がこれ程のお方ならば良かったのに……と、死を目の前にし、あの昼寝王の姿を思い出し、残念な主だったなとそんな後悔を持ち始めていた。


「我々への指示は、アランデュール殿下の……暗殺でございます……」

「……やはりそうですか……」


 国王を裏切ったはずの自分たちの心臓がまだ動くことに氷心の三人は薄っすらと疑問を感じたが、きっとこれもあのポーションの恩恵なのだろうと、脳内の片隅で無理矢理納得をする。


「それは、誰からの指示でしたの?」


 わずかな疑問を感じたまま胸を押さえ頭を下げている三人に、鬼少女の次の質問が飛ぶ。


 氷心の三人は今度こそ、絶対に死ぬ! だろうと、覚悟をしそれに答える。


「我々は王族直属の諜報部隊でございますので……」


 それは ”国王の名を出せない” 彼らの精一杯の答えだった。


 よしこれで今度の今度こそ死を迎えるだろう……と、死を目の前にグッと身を構えてみるが、やっぱり何も起こらない。


 何故だ?


 流石にこれは可笑しい。


 いくら何でもあのポーションの効果はとっくに切れているはずだろう。


 それに我々は裏切れないはずの王の命令を他人に話したのだ。死ぬしかない。


 自分たちの体にここまでなんの異変もないことに驚き疑問を感じ、ふと顔を上げた氷心の三人。


 すると目の前には幼い鬼少女だけではなく、暗殺対象だったアランデュール王子も立っていた。


 そこで氷心の三人の疑問がやっと解ける。


 そう、王族であるアランが目の前にいるからこそ、自分達は生きながらえているのだと……


 殺されるはずだった、アランデュール第一王子。


 だが彼(アランデュール王子)は、自分を殺しに来た氷心の三人をまったく恨んでいないどころか、寛大な心で許しているらしい。


 王族に刃向かう事が出来ない、王族直属の諜報員氷心。


 暗殺対象であるアランデュール王子がとっくに王族の籍を外れていると聞いていたため、今回の作戦が決行できたのだ。


 だが今目の前にいるアランデュール王子に、この作戦の内容を全てを話せたことで、アランデュール王子こそが自分達が崇めるべき真の主(王)ではないかと、そう感じ始めた。


 暗殺者を前に堂々たる姿を見せるアランデュール王子。


 その上余裕さえある優し気な笑みを浮かべているのだ、心が弱っている氷心の三人が魅了されるのも当然だった。


 このお方こそ自分達が崇めるべき ”真の主(王)” なのだ! と、氷心の三人はアランデュール王子の余裕ある姿を見てそう感じていた。



 そしてそんな三人の様子にニーナは笑みを深める。


 アランが国王となるならば、絶対に味方に付けなければならないのは、当然王直属の部隊だろう。


 その中でもエリートであるこの氷心の三人を味方に出来た。


 それはアランにとって強力な仲間を得た、と言える。


 子供たちに負け、研究組に虐められ、氷心の三人が心の癒しを求めていたことを、ニーナはよ~く知っていた。


 そんな彼らの目の前で優し気に微笑むアランのその笑顔が、メンタルズタボロな氷心の三人の心に癒しの効果を与えたことに、ニーナは満足げに頷いたのだった。


 これでアランの治世も安泰だろう……と……




「コホンッ、それで貴方達は、本当に ”国王陛下の命令” でアランを暗殺しに来たのかしら? その時のことを良~く思い出して下さる?」


 そう言ってまた可愛くこてんと首を傾げる鬼少女。どう見ても含みがある問いかけだ。


 そんな鬼少女の質問に、氷心の三人はハッとする。


 何故王を裏切ったはずの自分たちの命が消滅しないのか……


 そして敵であるはずのアランデュール王子に全てを話すことが出来たのか……


 ニーナの問いかけは、アランを王だと認めた彼らの思考に絶大なヒントを与えた。


 そう彼ら(氷心の三人)に ”アランデュール王子の暗殺” を指示した者は、王ではない。


 そして氷心の三人が真の主と認めたアランデュール王子の敵が、誰であるか。


 氷心の三人は鬼少女の問いかけを受け、やっと王族直属の部隊としての矜持を思い出したのだった。


「我らにアランデュール王子暗殺の指示を出した者は……エルナンド・ションシップ前侯爵でございます……」


 決意を固めそう答えたドド(ドナルド)の言葉に、ニーナは満足そうに頷いたのだった。






☆☆☆





こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)投稿お休みいたしまして申し訳ありません。出来る限りの投稿が暫く続きますが宜しくお願いします。

そして章タイトル……まだ悩み中です。途中で変えるかも……(;'∀')


さてさて氷心(アイスハート)の三人の紹介をします。

①ドドことドナルド、氷心のリーダーであり、推定28歳の普通の男性です。隠密行動が得意でした。

②ララことライナー、推定27歳の男性です。ララと可愛い名前を付けられましたが氷心の三人の中で一番の強面です。

③ゴンことゴンザレス、推定26歳の男性です。身軽さが武器の暗殺員でしたが、上には上があることを知りました。


氷心の三人ですが本名がこの先出るかは分かりません。(笑)年齢は推定なのは大体の生まれ年しか分かっていないからです。取りあえずアランの仲間になりましたので、もう虐めないで上げて下さい。えっ?私が原因?えへへ、その通りですね……

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