第264話その頃のラベリティ王国第七部隊騎士団④

「カーター、すまん、ちょっといいかー?」


 第七騎士団の団長補佐官であるカーターは、団長であるジム・アドインのテントへ向かう途中、同じ第七騎士団の食材管理の団員に声を掛けられた。


「はい、大丈夫ですよ、何かありましたか?」


 カーターがその団員に近づいていくと、団員はある資料を差し出した。


 それは第七騎士団の食材一覧がまとめられている資料だった。


「カーター、ちょっとこれを見て欲しいんだが……最近食材の減りが異様に少ないんだよ」


 見せられた資料に目を通すカーター。


 補佐官だけあって数字にはめっぽう強い。


 資料に目を通して見れば、確かにここ数ヶ月の間に以前より食材を使う量が異常に減っている。


 だが、カーターにはその理由が分かっていた。


「あー、ワインの使用量の少なさは分かりますよね。最近皆様あまり飲まれないですからね」


 団長であるジムを筆頭に、酒を飲む者が騎士団の中でかなり減っている。


 以前の第七騎士団内では考えられない事なのだが、最近の団員は酒を飲んで騒ぐよりも、夜は自主練に精を出しているものが多い。


 人は変われば変わるもので、陣内の見回りや、森への警戒など、多くの団員が率先して動いている。


 それも全て、団長のジムの教育のおかげ……


 やっぱりウチの団長は素晴らしい! とカーターが益々ジムへの評価を内心で上げていると、食材管理の団員は資料の次のページを指さした。


「カーター、ここ、ここを見てくれ、酒だけじゃないんだ。肉も、ホラ、あり得ない程に使用料が減っているだろう?」


 確かに資料を見れば、肉の使用料は以前の十分の一に満たない。


 けれどカーターにはその原因も分かっていた。


「あー。それは、皆さん自分で倒した魔獣のお肉をこっそり食べてますからねー」


 カーターの先輩にあたるテッド、シバー、タイラなどは、以前は 「下賎な魔獣の肉など高貴な出自の俺達が食べられるはずかないだろう!」 と言っていたのだが、最近は団長の勧めもあってか、自分達で倒した魔獣を、自分達で料理までして、「カーターックン、レアッテサイコー ダヨ」と自慢しながら食べていることを、カーターは知っていた。


 それに……


「あの商会から、お礼に色々と頂きましたからねー」


 先日第七騎士団の陣営に逃げ込んで来た商会を思い出す。


 森の中で魔獣に襲われ馬車が壊れたため、騎士団がある程度の修理を受け持ってはみたが、重いものはそれ程運べないと、第七騎士団にお礼と言って荷物の大半を置いていった。


 それにそもそもあの商会は、城に荷を卸す商会だったという理由もあっただろう。


 なので食材を第七騎士団に卸したとしてもそれほど問題はない。


 カーターは天真爛漫な笑顔を浮かべ、食材管理の団員にそう答えた。


「そうか……なら、おかしくは……無いのか……?」

「はい、おかしくなんかないですよ。でも、ここまで皆さんが食べないと食材が無駄になっちゃいますよねー? どうしましょうか」

「そうなんだよなー。このままこの状態が続くなら団長から王城へ連絡を入れてもらわないとダメだろうなー……王都では民に食材が回っていないらしいんだ。ここで無駄にするのも申し訳ないだろう。だが……皆はこのまま魔獣の肉を食べ続けてくれるのだろうか?」

「はい、それは大丈夫だと思いますよ。皆さん団長のおかげで心が変わりましたから。今では魔獣のお肉が大好きみたいなんですよ」

「まあなー、確かに皆変わったよなー。まあ、俺からするとちょっと不気味なぐらいの変わりようなんだけどなぁ」

「いえ、不思議な事はありませんよ。全て団長のお人柄から来るものです。私も団長を尊敬してますから、皆団長の真似をしているだけです!」

「う~ん……そうなのかねー?」


 カーターはまだ納得いかなそうな食材管理の団員から資料を預かると、尊敬する団長ジムの下へと向かった。


 思ったよりも長い時間話をしていた事で、いつもの出勤時間よりも少し遅れてしまったため、足早で団長のテントへと向かう。


「団長、おはようございます。遅れてしまい申し訳ございません!」


 カーターが謝りながらテントへと入ると、ジムは既に仕事を始めていたが、遅れて来たカーターを優しい笑顔で迎えてくれた。


「カーター、君の事だ、理由もなく遅れてなど来ないだろう? どうした、何かあったのかい? もしかしてまた誰かに、何か文句でも言われたのかな?」


 ジムは心配そうな顔で立ち上がると、カーターに近づきそっと頬を触って来た。


 憧れの人に優しくされたカーターは、触られた頬に熱を感じ、ジムの顔を見れなくなって俯いてしまう。


「ふむ、大丈夫そうだな……」


 ジムのその言葉は、純粋なカーターに素手で触れてももう大丈夫だと、自分に向けたものだったのだが、ジムに心酔しているカーターは(私が殴られてないか心配してくれたんだ!)と益々ジムの優しさに尊敬の念を抱いてしまった。


「あ、あ、あの、団長、実は、その、食材管理の団員に声を掛けられまして」


 ジムがカーターの頬だけでなく、手や、髪、そして首元などまで触り始めた為、カーターは触られた場所に熱を感じながら、恥ずかしくなって俯き加減で資料を差し出す。


「ふむ、食材か……そこは気にしていなかった。私の落ち度だな」


 ジムが資料を手にし、やっとカーターから離れてくれた事で、カーターはホッと息を吐く。


 このままでは服を脱がされ、怪我がないか全身調べられるのでは? と、ちょっとだけドキドキしていただけに、初心なカーターは男性である団長に触られただけなのに、恥ずかしくて仕方なかった。


「カーター、ありがとう。少し食材管理の団員と話をしてこよう」


 ジムはそう言うとカーターの額に口づけを落し、資料を手にテントを出ていった。


 一人残されたカーターは、ジムに触れられた額が異様なほどに熱を持ち、自分の団長への思いは尊敬ではなく、違う想いなのかもしれないと、ジリジリとする額を摩り、ジムへの ”愛” を確信してしまった。


(私は……団長を愛しているんだ……)


 まるで何かを押されたかのように、カーターのジムへの想いは盲目的な物に変わっていた。





 そして次の日、カーターはあの食材管理の団員にまた声を掛けられた。


 それも安心しきった、とても良い笑顔で……


「カーターックン アリガトウ モンダイカイケツ ダンチョーノオッシャルトーリニー」

「ああ、良かったです。それじゃあ食材の件はもう大丈夫なのですね。もしかして団長は王城へも連絡してくれたのでしょうか?」


 団長の補佐官のカーターだが、特に王城への連絡などは受けてはいなかった。


 だがジムの事だ、きっと食材管理の団員と話した後、直接連絡係の団員の下へ行き、すぐさま手続きをしてくれたのだろう。


 そうでなければ、食材管理のこの団員の喜びようはあり得ない。


 カーターは (流石団長ですね! 大好きです!) と益々団長への愛を深めていった。


「カーターックン アリガトウ ダンチョーノオッシャルトーリニー」

「ああ、やっぱり団長が王城へ連絡を入れてくれたのですね。分かりました。私の方でも団長にお礼をしておきますね」

「カーターックン アリガトウ」


 カーターは「いえいえ」と手を振り、食材管理の団員と分かれるとジムの下へと向かった。


「団長、食材の件、ありがとうございました」


 団長に深くお辞儀をしながらお礼を述べたカーターは、ジムに対し盲目的な想いを持ち始めてしまったため、ジムのある違和感に気づかなかった。


「ハハハ、カーター、私は団長として当然の事をしたまでだよ」


 そう、ニッコリと笑ったジムが、カーターと変わらぬ歳の青年に見え、そしてその姿が人とは思えない程に美しくなり始めていることに……


「ありがとうございます。本当に団長は第七騎士団の光ですね!」


 カーターの素直な称賛に、ジムは満足そうな表情を浮かべる。


「ハハハ、そうか、光か……カーターには私がそう見えるのだね?」

「はい! 団長は私達の光です! 私にはハッキリとそう見えています」

「ハハハ、そうか……有難う……」


 和かに笑ったジムの目の中に、蠢く何かがいた事にカーターはこの時も気づけなかった。


 そしてそのジムの笑顔が、どれほど禍々しくとも、今のカーターには気づけないようだった。





☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

このお話でこの章は終わりです……次章ですがタイトルに悩んでいます。どうしましょう……もう暫く悩みます。(;'∀')


ジムさん登場です。カーターくん、遂に愛に目覚めてしまいました!あああー。カーターくん、どうなるのか……彼には純粋なままでいて欲しいです。

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