第261話楽しい旅路⑥
※ベランジェお得意の物がでるお話です。お食事中の方は(まだ)見ない方がいいと思います。ベランジェとブラッドリーがやらかします。m(__)m
☆☆☆
「さあ、皆さ~んご飯ですよ。身支度は整いましたか?」
氷心(アイスハート)のメンバー三人は遂にニーナ達に捕まって……いや、丁重に保護され、客人として陣内に招き入れられていた。
シェリーにドド、ララ、ゴンと名付けられた氷心の三人は、ニーナ達一行に弄ばれ、エリートとしてのプライドをズタズタにされ、灰も残らないほどに痛めつけられていた。
小さな子に三対一で負けただけでなく、ただの補佐官でしかないベルナールにさえ、鬼ごっこでもかくれんぼでも勝つ事が出来ず、血の涙を流し自分達の負けを認めた。
心がポッキリと折れ、廃人同様となった氷心の三人の心を救ったのは勿論聖女様……ではなく、彼らのお世話係りとなった良識ある青年、グレイスだった。
「さあ、皆さん、今日も沢山食べて下さいね~。子供達が皆さんと一緒に遊びたいって待ってますからね~」
”子供達” と聞いて思わず悲鳴を上げそうになる氷心の三人。
だがグレイスの持って生まれた暖かでほんわかとした雰囲気に、彼らの壊れた心が癒されていく。
氷心の三人には一つのテントが与えられ、そこでこのグレイスにお世話されながら、毎日気ままに過ごしている……と周りは思っている。
だが実際は、朝食が終われば子供達のお世話(心が折れる遊び相手)が待っており、精神修行のような日々を過ごすことが今の氷心の仕事なのだ。
毎日、毎日繰り返される、子供達のお世話(心が折れる遊び相手)。
目の前で何度も見せつけられる自分たちとの才能の差と実力の差。
けれどこのグレイスが、身も心も傷ついた氷心の三人をまるで母親のように優しく世話してくれて、いつの間にかこの生活も捨てたものではないかも? と思い始めていた。
グレイス君の側に居られるなら、子供のお世話も悪くない。
そんな心境になる程、逃げる道を諦めた彼らの癒しはグレイスだけだった。
朝食を済ませ、今日も子供達のところへ向かわなければと、重い腰をどうにか気合で上げた彼らの下へ、初めて見るまん丸い不思議な髪型をした少年……いや青年にも見える男の子? がニコニコしながらやって来た。
「おはようございま~す。ドドさん、ララさん、ゴンさん、朝食は済まされましたか~?」
初めて会うはずなのに余りにもフレンドリーすぎる少年に不審がりながらも、氷心の三人は丸髪の男の子に頷いてみせる。
「良かった~! じゃあ、これ、デザートなんですけど~良かったら食べませんか~? 僕が作ったお菓子なんです。美味しく出来たので皆に配っているんですよー。へへへへへ」
朝からデザート? と思いながらも、小さなキノコのようなお菓子を思わず丸髪の少年から受け取ってしまう氷心の三人。
自分達は毒の耐性があるし、滅多な事では死にはしないし、大丈夫だろうと、そんな気軽な思いと、見た目子供な少年の気遣いを断るのも悪いと、氷心の三人は丸髪の少年から受け取ってしまった、親指ぐらいなサイズのキノコのような形をしたお菓子を、ポイっと口に入れた。
(うん、甘いが……なかなかに美味いな……)
無言ながら満足そうに何度も頷く氷心の三人を見て、丸髪の少年にとってもいい笑顔が浮かび「また後で様子を見に来ますね~グシシッ」と外へと駆けて行った。
きっと他の者達にもキノコ風な菓子を配るのだろう。
良い子じゃないか……とキノコな少年に感心していると、今度は二人の紳士が氷心のテントを訪ねてきた。
「やあやあやあ、君達、初めまして、あ~私はベランジェというものだ。そしてこちらはブラッドリー。君たちは私達を知っているかな?」
リチュオル国のベランジェと言えば、知らない者が国内にいないと言われる程の有名研究家。
そしてブラッドリーという人物は、リチュオル国の国王が力を入れている部署の所長であると、諜報部隊の彼らは理解していた。
「これはお近付きの品だ。良かったら食べてくれたまえ」
紳士らしい笑みを浮かべ、ベランジェとブラッドリーが白く丸い菓子らしき物を氷心の三人に差し出す。
「これはお饅頭と言う食べ物なんだよ。中にほら、うん、ゴホッ、ゴホッ、あ~、あんこと言う豆からできた黒い餡が入っているんだよ。凄く美味しいよ~騙されたと思って食べてごらん? きっと気に入るはずだ」
笑顔の裏で、ベランジェとブラッドリーの目が 「早く食べろ」 と言っている。
騎士でも兵士でもないのにその圧が怖い。
仕方なくお饅頭というものを口にしたが、普通に美味しい。
もし毒が入っていても我々には効力はない。
なのでもぐもぐと食べ続けたが、ベランジェとブラッドリーの視線が妙に気持ち悪かった。
そして氷心の三人が饅頭を食べ終わるのを確認し、ベランジェとブラッドリーは「よし、よし、ウシシシシ」と気味悪い笑みを浮かべ満足そうに帰って行った。
ポカンとする氷心の三人に「また後で会いに来るね~」と言い残して……
氷心の三人の疑念は高まるばかりだった。
「チーッス、お三人さん、美味しいお茶はいかがっすか~?」
まるで頭の上に鳥の巣でものせたかのような、背が高く、手足がひょろひょろっと長い男が、盆に三つのカップを乗せ、氷心のテントにやって来た。
「俺が作った自慢のお茶なんすよ~。勿論、新作っすよ~」
と、見た目は普通、香りは爽やかなお茶を、ニコニコ顔で氷心の三人に差し出してきた。
キノコ型の菓子と、白い饅頭を食べ、喉が渇いていた氷心の三人は、背高のっぽの男を少し怪しみながらも、素直にお茶を受け取った。
(毒は入っていないようだな……大丈夫だろう……)
自分たちの嗅覚を信用し、お茶を口に含んだ瞬間、氷心の男達はお茶を盛大に噴き出した。
「ぶへぇっ!! ゴホッゴホッ、ゲッホッ! ペッペッぺッ」
見た目とは裏腹に、そのお茶の刺激は強烈で、毒に耐性のある氷心の三人が余りの不味さに膝をつく。
その上体中に電気が走ったかのような刺激があり。
ブルブルブルブルと、鬼役の少女に会った時とは違う震えが起きる。
「あれー? お口に会いませんでしたー? おっかしーなー、ミナオ草を使ったお茶なんだけどなー」
ミナオ草と言えばごく一般的なハーブ。この国のどこにでも生息し、こんな刺激がある植物ではない。
なのに何故、自分達は歯を食いしばり、身もだえているのか? あのミナオ草をこれ程危険なお茶にする男がこの世界にいるだなんてっ!
身体中の穴という穴から色々な液を吹き出し、ゲッソリとした氷心の三人は、背高のっぽの男を (殺すきか?!) と恨めし気に睨みつけた。
「あれー? もしかして皆さんお茶の前に何か食べたっすか~? ぐへへへ、色が……」
背高のっぽの男が、苦しみ悶える氷心の三人の様子を見て、楽し気にそんな事を言う。
男の嬉々とした視線が気になり、ふと自分達の体に視線を落とす氷心の三人。
すると視線を向けたその先には、肌の色が緑色に変わり、手足の所々に小さなキノコが生え、そして顔には魔獣のように毛が生えていた。
(な、なんじゃこりゃーーーーーーっ!!)
「はーい、こんにちはー。皆さーん、様子を見に来ましたよー」
「やあやあ、どうかなぁ? 三人とも、体に不調はないかなぁ~?」
ワクワクした様子で丸髪の少年と、ベランジェ、ブラッドリーがやって来た。
のた打ち回る氷心の三人は、動きを止め危険な予感がする訪問者に視線を送る。
「ベランジェ様! ブラッドリーさん、チュルリ!」
「「チャオ!」」
「チャオさん!」
すると、四人が四人とも、何故ここに他の者達がいるのか分からないといった様子で目を見張る。
だが次の瞬間、怪しげな四人の男たちは氷心の三人を見てニヤリと笑い喜びだした。
「うわー! ドドさん、ララさん、ゴンさん、どうしたのー?! すごーい!」
「おやおや、どうやらこれは混ぜてはいけないものを体の中で混ぜてしまったみたいだねー。おっほー!」
「ほっほー! これは中々に面白い! 他の物も試してみたいねー」
「ベランジェ様たちー、何か変なもの食べさせたっしょ? そのせいでこの人達俺の美味しいお茶を吹き出したんすよー。自慢のお茶だったのにさー」
やいのやいのと楽しげに話し合う男達。
いやいやいや、それよりこの苦しみをどうにか救ってくれ!
(死んだ……絶対に死んだ。春の小川が見えて来た……)
まさかラベリティ王国の暗殺者のエースであるこの自分達が、まったく知らない、未知の毒で殺されるだなんて!
氷心の三人が力尽き、床に倒れ、遂に己の苦しみを受け入れた時……三人にとって母のような存在となっていた、陽だまりのような青年がテントへやって来た。
「ドドさん、ララさん、ゴンさん、子供達がそろそろ――って! うえーーー! どうしたんですか?! 三人とも! そんな姿になってー!」
倒れた氷心の三人に、急ぎ駆け寄る心優しきグレイス。
腰につけた鞄からポーションらしき物を取り出し、三人にすぐ様飲ませる。
「あっ! グレイス、ダメだよー。まだ観察中なんだからー」
「そうだよ、グーたん。我々は彼らに毒なんて与えてないよー、普通の食べ物しかあげてないんだよー」
「そうそう僕はー、きのどくキノコのお菓子を上げただけだよー」
「俺は新作のお茶を勧めただけなんだぜー」
グレイスを前に、またやいのやいのと騒ぎだす四人の男たち。
だがグレイスが「ニーナ様に伝えますよ!」と言った瞬間、楽し気に騒いでいた四人がピタリと止まる。
「チュルリさんはキノコ、チャオさんはお茶、で、ベランジェ様とブラッドリーさんは? この三人に何を食べさせたんですか?」
母親に睨まれているかのように、シュンとなる四人の男。
先程まで紳士らしかったベランジェは、怒るグレイスに対しモジモジしながら「昨日拾った~フェアリーベアーの~……」と珍しい魔獣の名を出した。
「まさか! ベランジェ様、昨日拾ったフェアリーベアーの糞を三人に食べさせたのですか?!」
てへぺろと頷くベランジェを見て、氷心の三人の毛むくじゃらな顔色がたぶん青に変わった。
「うげっ、うげっ、うげーー!」
「ぐえ、ぐえ、ぐえーー!」
「げろ、げろ、げろろろー!」
さっき食べたものを全て吐き出したいが、もう既に体の中に流れてしまった為、どう頑張っても吐き出すことが出来ない。
「あのね、ちょーっとだけー、グレイスが作ったお饅頭に無味無臭のフェアリーベアーの糞を混ぜただけなんだよー、だから問題はないはずなんだー。えへへへへ」
「ベ、ベランジェ様! まさかあんこにうん〇を混ぜたんですか? なんであんこにう〇こを入れるんですか! みんなお饅頭が食べられなくなるでしょう!」
グレイスに怒られしゅんと項垂れるベランジェ。
だがチラチラと氷心の三人を見ている事から、どうやら本気で反省はしていないようだ。
「皆さんいいですか、ドドさんとララさんとゴンさんは普通の、普通~の人間なんです! 特殊な能力なんて全然ない、ごく一般的で平凡な人達なんです! 皆さんと違って床に落ちたものを30日ルールとかで食べられない大人しい人達なんです。そんな人達に皆さんの研究食品を与えてはいけません! 実験するならアルホンヌ様! もしくはベルナールさんかファブリスさん、あとはミューさんのみにして下さい。くれぐれも普通の人である彼らにちょっかいをかけないように! 良いですね! でないと……ニーナ様に怒られますよ」
「「「「は~い」」」」
氷心の三人は傷ついていた。
ごく一般的な、平凡な、普通の人……
グレイスのその言葉に、木端微塵に砕かれていた。
「また内緒で来るからね~……へへ」
小さな声でそう言って去っていく危険な四人の男たち。
彼らの後姿を見送りながら、降参の白旗を上げる決意を遂に固めた氷心の三人なのだった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)ちょっと話が長くなりました。
皆様言いたい事は色々とあると思いですが、お許しください。ベランジェの得意技を編み出した時からいつか……と思っておりました。氷心の三人には同情しか有りません……ごめんねー。(軽)
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