第259話楽しい旅路④
ニーナ達、聖女一行の旅は実に順調だった。
まるで危険な旅を楽しむかのように、ニーナ達はラベリティ王国内をゆっくり、ゆっくりと進んでいた。
今日も今日とて、凶悪で無慈悲な魔獣をわざわざ呼び寄せたいかのように、森の中で楽しく休憩を取っているニーナ一行。
子供達のはしゃぐ声が森の中に広がるが、咎める大人は誰もいない。
そんなニーナ一行に密かに忍び寄る影あり。
それはラベリティ王国国王直属の諜報部隊から派遣された、三名の男。
本来ならば国王の命令にしか従わないはずのこの男達は、エリザベート王妃の父エルナンド・ションシップ前侯爵の指示により、この森へとやって来た。
彼らのここまでの旅は危険も多少はあったが、そこは諜報部隊のエリート達だ。三人だけでも問題はない。
氷心(アイスハート)と呼ばれる、諜報部隊の中でもエリート中のエリートである、暗殺を受け持つ三人にすれば、魔獣の攻撃を交わす事など容易いこと。
存在感を消し去り、魔獣に気づかれる事なく、ニーナ一行の下へと無傷でやって来た氷心。
(フッ、まさか子供連れで来ているとはな……今回の仕事は簡単過ぎて我々氷心が出るまでも無かったかもしれないな……)
そんな氷心のリーダーの男は、簡単に発見出来たニーナ一行を見て、心の中で嘲笑う。
第二騎士団長であり、ラベリティ王国一の騎士と呼ばれるアーサーが側にいるというのに、結界を張る指示を出すことも、魔獣に警戒もする事ない、この体たらくな陣地。
魔獣に食べて下さいとでも言っているかのような、素人的な野営設定。
きっと弱気な王子と言われるアラン王子の指示なのだろう。
野営に慣れていない事がもろに分かる。
(ハハハ、良くここまで生き延びていたものだ……きっと運が良かっただけなのだろう……)
魔獣が反応する子供達の声を放置している大人達の姿を見て、氷心のリーダーは自分達の作戦の成功を疑いもしなかった。
(アラン王子、怨みはないが死んでもらう。国王の指示。それこそが俺たちの仕事だからな……)
陣営の中で寛ぎ気を抜いているアラン王子を見つけ、どう始末するべきかと悩む氷心のリーダー。
やはり無難に毒蛇に噛まれたように見せかけるべきか……
いや、王子ならば耐性がある可能性がある、毒は効き辛いだろう。
ならば魔獣に襲われたように装うのがベストだろうか。
この森ならどんな魔獣でも偽装が出来る。
夜にでも作戦決行をと、そんな事を考えている男の前で、聖女一行の中で一番小さな女の子が他の子供達に声を掛けた。
「オホホ、それでは私が鬼となりますわ。皆様は私が100数える間に隠れて下さいませね」
「はーい! ニーナが鬼なら俺本気で隠れられるね」
「ニーナ、私かくれんぼ上手なんだよ。ベルナールのお兄ちゃんに一回も見つかったことないんだからねー」
「ぼ、僕はニーナちゃんになら一生捕まっても構いません! なんなら縛ってもらっても踏んでもらっても嬉しいぐらいです!」
「シェリー、私が一緒に隠れるぞ、1人じゃニーナ様相手では危険過ぎる」
「いいえ、シェリーちゃんは私と隠れたほうが良いはずです! 親戚同士気心が知れてますからねー」
「あ、あの、みなさん、とにかく隠れましょう。ニーナちゃん、もう数を数え始めてますよ」
ワイワイと騒ぐ子供達。
キャッキャ、キャッキャと高い声が森に響くが、それがこの森でどれほど危険なのか、誰も分かっていないらしい。
(まあ、子供が魔獣に襲われようと、我々には関係ない……)
目を瞑り、一人数を数える少女に多少の同情を感じながらも、氷心のリーダーは ”アラン王子暗殺遂行” という自分に課せられた仕事に集中していた。
「98、99、100。ウフフ……それでは皆様行きますわよ」
鬼役にしては可愛すぎる少女が、優しく微笑み友人達を捕まえるために歩きだす。
その歩みはゲームをしているとは思えないほど優雅に見え、一瞬鬼役の幼い少女が淑女に見えた。
(ふむ、これは夜まで待たずとも、子供達が騒いでいる間にアラン王子を始末してしまっても良いかも知れないな)
「ねーねー」
(これだけ気の抜けた陣地ならば、何があっても不思議ではない、我々がアラン王子を始末しても、誰も何の疑問ももたぬだろう)
「ねー、ねー、おじさん」
(よし、残りの二人を一度呼び戻し作戦を練り直すか。明日には王都へ向かえる。簡単過ぎる仕事だったな……)
氷心のリーダーがそんな事を考えていると、ふと自分の隣に何かがいる事に、やっと気が付いた。
(えっ? 人間? いや、まさか、そんなはずはっ!)
暗殺部隊一の実力を誇るこの自分が、近くにいる人間の存在に気が付かぬはずがない。
もしやアンデッドか?! とゆっくりと隣へと首を向ける氷心のリーダー。
「ねー、ねー、おじさん、それで隠れてるつもり?」
「は?」
夢でも幻でもなく、キラキラ輝くような顔を持つ一人の少年が、いつの間にか氷心のリーダーの隣に座っていた。
今、氷心のリーダーは木の細枝の上。
気配を消す事が得意な氷心のリーダーのその気配は、小鳥と変わらぬ程に小さなもの。
偶然なのか、なんなのか、少年は鬼役の少女から隠れる為、氷心のリーダーの側に来たようだった。
(こ、これは、絶対に偶然だ! それに考え事をしていたから偶々気付かなかっただけだっ!)
自分を擁護する氷心のリーダー。
まだ成人前の少年に気配を読まれたなど、どうしても認めたくない。
「ねー、ねー、おじさん、そんなに殺気ダダ漏れだと、すぐにニーナに気づかれちゃうよ、あっ! ほら!」
「はっ?」
少年はそこまで話すと、目にも止まらぬ速さで姿を消した。
氷心のリーダーが驚き、唖然としたその瞬間、今度は目に見えぬ透明なロープのようなものが氷心のリーダーを襲い、体をギュッと縛られる。
「なっ! なんだこれはっ!」
思わず声を上げてしまう氷心のリーダー。
想定外すぎる事が起きてプチパニックだ。
だがその透明なロープに容赦はない。
逃れようともがく氷心のリーダーを嘲笑うかのように、その透明なロープがグイッと体を引っ張り、氷心のリーダーを地面へと叩きつけた。
「グハッ!!」
氷心のリーダーは無防備なまま地面に落ちたため、受け身が出来ず思わぬ衝撃を体に受けた。
そしてその衝撃より強い衝撃が、目の前に広がる。
そう、他の仲間も自分と同じように、地面に転がっていたからだ。
(まさか! 何故?! 我々はエリート諜報員だぞ!)
現実を受け止めきれない氷心のリーダー。
何が起きたのか理解出来ない。
そこに小さな影が忍び寄る。
それは先程まで数を数えていた鬼役の可愛い少女だった。
「まあ、オホホ、思ったより簡単に捕まえられましたわ。もう少しお兄様と遊んで頂きたかったのですけど……残念ですわね〜」
頬に手を当て、困ったように微笑む鬼役の少女。何故か背中がゾクリとする。
自分達はラベリティ王国の諜報部隊を代表する、暗殺チーム氷心。
そんな精鋭部隊に名を置く男達三人は、鬼役の少女の笑顔にとてつもない恐怖を感じたのだった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^x^=)
あーあー、新しい被害者が……鬼は手加減は、しないでしょうね。
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