ラベリティ王国への旅路
第255話出発式
「リチュオル国とラベリティ王国の友好と平和の為に、我々は聖女の活躍を期待し、本日ここにて出立をお見送りさせて頂く。ラベリティ王国、第一王子アランデュール・ラベリティ、そしてリチュオル国聖女、ニーナ・ベンダー男爵。二人の健闘を祈る。……だが、その、気を付けて行くのだぞ。あの、くれぐれも無理をしないように、本当にやり過ぎないように、絶対に無茶のないようになっ、頼んだぞっ!」
「はっ、アランデュール・ラベリティ、リチュオル国王のお言葉有難く承ります。そしてラベリティ王国の王子として、支援に感謝し、力の限り国に尽くすことをここに誓います」
「国王陛下、リチュオル国の聖女として精一杯の力を発揮してまいりますわ。どうぞ、この私にお任せ下さいませ(オーホッホッホッホ~)」
夏空に本領発揮の太陽が輝く昼下がり。
ニーナ達聖女一行が今、リチュオル国を出発しようとしていた。
魔獣蔓延るラベリティ王国へと向かう為、本来ならば緊張で顔も強張り、命を掛ける覚悟がありそうな場になるはずなのだが、この場にて憂い顔になっているのは国王アレクと宰相のライム・サイダーのみ。
ラベリティ王国へ向かうニーナ達には、笑顔しかない。
それもそのはず、今のラベリティ王国は宝の宝庫。
ニーナが欲しがる貴重な魔獣がウヨウヨと溢れかえっているのだ、楽しみしかない。
ニーナと共に向かう研究組も、見た事の無い薬草を期待し、普段以上に顔が綻んでいる。
それにディオンとシェリーと共に行く、彼らの友人達。
ディオンとシェリーとの旅行だと思うと、楽しみしかない。
皆が浮かれまくっている姿を見て、アレクとライムの胃が痛む。
「ニーナ様、ほんとっ! 頼むからやり過ぎないで下さいよ!」
と、ラベリティ王国へと向かう事が決まったその日から、何度も何度もお願いして来たアレクとライム。
「ええ、勿論ですわ(オーホッホッホッホ~)」
と可愛らしい笑顔で返事をするニーナを、アレクとライムが信用できるばずがない。
「私はただ、大切な婚約者であるアランがやられた事をあちらにやり返すだけですわ。それ以上の事を私がするはずがないでしょう? アレクもライムも心配しすぎです。国王なのですからもっと気楽に構えていなさいませ(オーホッホッホッホ~)」
そう言いながらも、笑顔の奥で目をギラリと光らせるニーナを見て、(やっぱりか……)とまた胃が痛む二人。
アランにやられた事をやり返す。
ニーナがただ単純にやり返すだけのはずがない。
絶対に10倍返しか、下手したら100倍返しだろう! とアレクとライムはまったくニーナを信用していなかった。
「ニーナ様、くれぐれもくれぐれもお願いしますよ! 国際問題になりますからね!」
半泣き状態で頭を下げるアレクに「ええ、勿論ですわ」と返事だけは異様に可愛らしいニーナ。
(ああ……これはダメだ。ラベリティ王国の王族方……今すぐ逃げた方がいいですよ……)
ニーナの少女らしい笑顔を見て、説得は諦めたアレクとライムだった。
「出発ー!」
ニーナ達を乗せた馬車が号令と共に発進する。
大勢の騎士や兵士達も、ニーナたちを合図に歩きだす。
ゆっくりゆっくり進む大軍は、ラベリティ王国に到着するまで時間がかかることだろう。
何より魔獣と戦いながら進んで行かなければならない旅路でその上この人数なのだ、普通の旅行の二倍、いや三倍の時間が掛かっても仕方がない。
だが下手をしたら到着まで半年は掛かる旅路を、このニーナが良しとするはずがない。
何故ならば、ニーナが心から愛する兄のディオンの夏休みが二ヶ月しかないからだ。
ディオンの為ならば、ニーナはどんな事でもするだろう。
だからこそ、国王のアレクがあれ程心配していた……というのも頷ける。
そんな大軍はリチュオル国の王都のはずれに着くと、ピタリと停まる。
アーサー・ストレージをはじめとするラベリティ王国の騎士達は、急な停車に(休憩か?)と首を傾げる。
彼らが馬車の外へと視線を向ければ、ガヤガヤと子供達の声がする。
(何故ここに子供がこんなにたくさんいるのだ?)
とそんな疑問が湧いたが、それよりも驚くことがあった。
それは子供たちの輪の中に、あの夜出会った天使様がいたからだ。
「あ、あれは、て、天使様?!」
「団長! 天使様がいますよー!」
「なにー?!」
ラベリティ王国の騎士達が、天使シェリーに熱い視線を送れば。
それに気が付いたシェリーが「あー、ライオンのお兄さんたちだー、ヤッホー」と、キラキラと輝く笑顔を振り撒きながら、可愛く手を振ってくる。
何故ここに天使様がいるのかまったく分からないが、また天使様に会えた事が何よりも嬉しい。
馬車から降りて天使様に駆け寄ろうと、力自慢な騎士達が馬車の扉に手を掛ける。
だが、鍵が掛かってもいないのに、扉はびくともしない。
ガチャガチャと音を立て足掻く騎士達。
そう彼らは天使様に首ったけ、近くであの笑顔を見たいと、皆がシェリーに夢中になっている。
扉を蹴ってみるがびくともしない。
そうこうするうちに、天使様は歩き出してしまった。
「ああ……天使様ー!」
「……コホン、お姉様、もう間も無く出発ですからそろそろ馬車に戻りましょうか?」
天使様を 「姉」 と呼ぶ可愛らしい声に、ハッとする騎士達。
そう、騎士達の主であるアランの婚約者、聖女ニーナ様が天使様を姉と呼んでいるのだ。
「はーい、ニーナ。私はみんなのところに戻りまーす。お兄様ー、お兄様も馬車に戻ろうー」
驚いている騎士たちの目の前で、今度は天使様が 「兄」 を呼んだ。
一瞬アラン殿下のことかと思ったが、外を見つめる騎士たちのその前に、もう一人の天使が舞い降りた!
「ニーナ、シェリー、もう出発? この辺全然魔獣いなかったからさ、早く出発出来て嬉しいよ。ラベリティ王国楽しみだな。えへへ」
そう言って笑った男の子の天使に、ラベリティ王国の騎士達はハートを射抜かれた。
な、なんだあの可愛い兄妹はー!!
聖女様のお兄様とお姉様は天使だったんですかー!!
そんな危険(邪な想い)を察知したニーナは、大切な兄姉の背を押し、さっさっと騎士達の馬車から二人を遠ざける。
まあ馬車の窓に何人もの男達が顔を押し付けて兄姉を見ているのだ、ニーナが過保護になるのも仕方がないだろう。
「では、我々はここで、アラン殿下、ニーナ様、ご武運をお祈りしております」
そんな変態化している騎士達の耳に、今度はここまで一緒に来ていた騎士団の代表の挨拶が聞こえてきた。
「はい、ここまでお見送り有難うございました。ラベリティ王国に着きましたら、アレク国王へすぐに連絡をいれますので、(ニーナ様の事は)安心してくださいとお伝え下さい」
「はっ、アラン殿下、畏まりました」
「騎士団長殿、ラベリティ王国には一週間ぐらい掛けて楽しみながら行く予定ですから、アレクに安心するようにと伝えて下さいませね」
「はっ、か、畏まりました。ですがニーナ様……あの、あまり派手に楽しまないで下さいと……その、陛下が……」
「まあ、オホホ、アレクは本当に心配性ですこと……そう何度も言われてしまいますと、本当は派手に暴れて欲しいみたいに感じてしまいますわ」
「いえ! ニーナ様! それは――」
「ええ、分かっておりますわ。安心して下さいませ。私達は珍しい魔獣が欲しいだけですもの。あちらへのお仕置きは軽くで済ませますわ……アレクにそう伝えて下さいね。オホホホホ」
外では何やら自分達が理解出来ない会話が繰り広げられているようで、ラベリティ王国の騎士達は耳を疑う。
ここまで一緒に来てくれた心強い騎士団が、どうやらここで帰るらしい。
なのに聖女様は一週間でラベリティ王国の王都に着く気でいる。
アラン殿下までもがだ。
自分達は天使様を見たから動揺しているのかもしれない。
きっと幻聴を聞いてしまったのだろう。
騎士達は今見聞きした事へと蓋をし、現実から目を背ける道を選んだ。
何故なら自分達が命からがら進んできたあの旅路を、一週間程度で通れるはずがないからだ。
自分達は何も聞いてはいない。
騎士団が居なくなるはずがない。
閉じ込められた馬車の中、ラベリティ王国の騎士達はそんな気持ちで瞑想に耽るのだった。
「ウフフ、さあ、さあ、ここからが本当の旅路ですわよ。アラン、あなたの国へ向けて本気の出発を致しますわよ。覚悟は良いですわね?」
「はい、ニーナ様、宜しくお願い致します!」
気合の入るニーナの出発の合図は、残念ながらラベリティ王国の騎士達にだけは届かなかった。
☆☆☆
こんばんは、そして明けましておめでとうございます。白猫なおです。(=^・^=)
やっとラベリティ王国へ向かいます。夏までには終盤を迎えられるかな?ニーナたちに頑張って貰います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます