第249話頼もしき? 使者
「リチュオル国の使者殿、ようこそお越し下さった。さあ、さあ、頭を上げて下され」
ラベリティ王国の謁見の間。
今リチュオル国の代表であるバーソロミュー・クロウと、ラベリティ王国の王イアンディカス・ラベリティとの夢の共演が……いや、対面が実現されていた。
国王に対顔を許され意気揚々と顔を上げるバーソロミュー。
流石以前はリチュオル国の王アレクの補佐官だっただけあり、他国の国王の前だというのに緊張した様子はまったく見られない。
そんなミューの後ろには、ニーナから問題児であるミューのお世話を託された、噂雀の代表パッセロと、ラベリティ王国王都の闇ギルド長であるオモルディアが控えている。
二人とも緊張する様子もなく笑顔を浮かべているが、度胸があるからとかそういった訳ではなく、これからミューが勝手に何をやってくれるのかと、ワクワクしているからの笑顔なのは内緒だ。
そんな二人の期待を一心に背負ったミューは、堂々とした姿で聖女一行が赴く旨を伝える。
それと共に不足している食糧支援も約束する。
これでラベリティ王国も以前と同じ平和を取り戻すだろうと、イアンは胸を撫で下ろすが、余りにも話が旨すぎるのではないか? と疑問が湧いたのは、既に侯爵を引退し、本来ならば自領に引きこもっていてもおかしくはない、エルナンド・ションシップ前侯爵だった。
「使者殿、少し聞きたい事があるのだが宜しいだろうか?」
ラベリティ王国では 「泣く子も黙る」 と言われているエルナンドの睨みに、防御力だけが特化しているミューはしっかりと耐えてみせる。
いや、耐える……と言うより、全く、何も、全然感じていないように見えなくもない。
それも当然、なんせミューは、生まれた時からあのジャジャ馬と評判だったキャロラインのお叱りに耐えていたからだ。
それに今はニーナのあの冷め切った笑顔にも耐えられるだけの耐性も持ち合わせている。
あのニーナの笑顔に比べれば、エルナンドの睨みなど鼻糞同然。
ただし、ミューのその堂々たる姿に、エルナンドだけでなく、この場にいるイアンやエリザベーラも驚きが隠せない。
この使者は一流の外交官だと、勝手に勘違いしてくれる。
そんな勘違いからの熱視線を浴びながら、鈍感力に磨きが掛かったバーソロミュー・クロウは「勿論、どーぞー」と肯定するため笑顔で頷いた。
呑気すぎる使者である。
「あー、ソナタたちは、ここまで、本当に、三人だけで、いらしたのか? その、リチュオル国から……?」
「……? ええ、勿論この三人で参りました。使者として私がいれば何も問題ないですからね。それに大勢での移動は面倒なだけです。時間の無駄ですよ」
あはははと笑うバーソロミューの言葉に、エルナンド達は驚きしかない。
魔獣が蔓延るあの危険な旅路を、このバーソロミュー・クロウはたった三人で乗り越えてきた、と言うのだ。
ラベリティ王国側からの支援要請の使者としては、国一番の騎士であるアーサーを送り出した。
それでも命をかけての旅路になるだろうと、覚悟していたアーサー達。
ラベリティ王国の第二騎士団は遺書を残し出立して行ったのに、人数が多い事など自分の前では無駄だと、このバーソロミューは言い切ったのだ。
実際は闇ギルド長のカルロの執務室のトイレを通ってラベリティ王国へと来ただけなので、大勢でのトイレ移動は無理だと正直に話しただけなのだが、ミューの持前の才能によって、ラベリティ王国へと ”一使者でも騎士にも負けない強さがある” と ''リチュオル国の持つ巨大な力'' を見せ付ける行いは、意図しないところで勝手に成功していた。
誰も頼んでいない事なのだが……
まあ、そこはパッセロとオモルディアが笑顔なので問題はないのだろう。
「えーと……質問は、それだけですか?」
謁見の間がシーンと静かになった事で、今度はミューからエルナンドに問いかける。
出来れば早くこの面会を終えて、街の視察に行きたいなー、と願っているのはお腹が空いているからだろう。
汚れも怪我も疲れも全くない三人を見て、ミューの言葉が嘘ではないと、エルナンドは驚き過ぎて呆けていたのだが、ハッとしどうにか自分を取り戻す。
『毒蛇のような狡猾な侯爵』と恐られていたエルナンドにも、プライドがある。
こんなピンクのヒラヒラシャツを着た、まるでピエロのような男に舐められてはならない。
エルナンドは一つ咳払いをすると、ニヤリと笑い、ラベリティ王国へと乗り込んでくる聖女について聞く事にした。
そう、それは危険な旅を自国の大切な聖女にリチュオル国がさせる訳がないと、そう思っている笑みだ。
きっと生贄の少女を送ってくる……
エルナンドはそうみていた。
実は例え本物の聖女の力でこのラベリティ王国が無事平定されたとしても、友好国と言いながら見習い聖女をよこし、リチュオル国はラベリティ王国を助けはしなかった……と、エルナンドは難癖をつけて後で恩を仇にして返す気満々だったのだ。
なのでバーソロミューが答え難い質問をしてやろうと、エルナンドは内心ほくそ笑んでいた。
「使者殿、こちらへいらす聖女についてお聞きしたい。頂いた書面には ''力のある見習い聖女を寄越す'' と書いてあったのだが……実際のところその聖女の力は大丈夫なのだろうか? まさか偽物……と言うことはないだろうな?」
生贄の少女を聖女と見立て、支援を受けた事を恩立てしたいのでは? と言うエルナンド流の嫌味だったのだが、ミューにはまったく効き目がない。当然だろう。
英雄症候群発症中のミューには、嫌味などまったく分からない。いや、そこは普段通りなのかもしれないが……
「あはは! 見習い聖女など! あの方は幼いながら大聖女以上の力を持っている方なのですよ!」
「……だ、大聖女以上の力……?」
「ええ、それに補佐として元大聖女のシェリル様も一緒に参ります。聖女見習いと言っているのは、かの方の年齢がまだ幼いからだけの事、我が主でもあるニーナ様は神にも負けぬお力をお持ちです。まあ、怒った時はちょ〜っとだけ悪魔みたいなんですけどねー。内緒ですよ。あは、あは、あははは~」
元大聖女のシェリルの名が出た事でエルナンドは驚き、後のミューの言葉は聞こえていなかった。
大聖女シェリルといえば、あのセラニーナの愛弟子であり、素晴らしい力を持つ聖女だとも言われている。
そんなシェリルがこのラベリティ王国へとやって来たら、簡単にラベリティ王国の危機を取り除いてしまうかもしれない。
そうなったならば、ラベリティ王国はリチュオル国に返しきれない恩が出来てしまう。
自分が裏の王となった時、リチュオル国との力関係は大きな障害となるはずだ。
それは頷けない。
リチュオル国よりは優位でいたい。
これはどうにかしなければならないだろう……
エルナンドが企みを練ろうとしたその時、バーソロミュー・クロウが最後の爆弾を落とした。
「あっ、それと、聖女と共にラベリティ王国からお預かりしていたアラン王子も一緒に参りますからね」
「はっ?」
「えっ?」
「なっ?」
「アラン王子は我が主に拾わ……グフンッ! あー、我が主と運命的に出会い、恋に落ちまして……その、無事に婚約も済ませましたので、ご安心して下さい」
「アラン……殿下……が?」
「はい、アラン王子は我が主のそばで元気一杯で生き生きしていますよ。きっとラベリティ王国の立て直しの立役者となってくれるでしょう! いやー、皆が到着するのが楽しみですねー」
はっはっはっ、と楽しげに笑うバーソロミュー。
だがエルナンド達ラベリティ王国の面々には驚愕の表情が浮かんでいる。
アランが生きていた。
それもリチュオル国に滞在していた。
その上聖女という名の婚約者までいるらしい。
バーソロミュー・クロウが齎したその情報は、リチュオル国の主要メンバー達を奈落の底へと突き落とす程の衝撃的な情報だった。
「あははは〜。いやー、ほーんと楽しみですねー」
知らぬは本人のみ。
流石リチュオル国を代表する、天然トラブルメーカーだけのことはあるだろう。
☆☆☆
こんにちは、白猫なおです。珍しくこんな時間に投稿です。(=^・^=)
前話のディランジュールのセリフの「洋ナシ」ですがわざと洋ナシにしています。
ディランジュールのお馬鹿を表現する言葉なのでまたあるかもしれませんがご了承ください。てへっ。
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