第250話王家の陰謀
「どういう事だ! 何故アランデュール王子がリチュオル国に?! 魔の森に捨てて来たのではなかったのか?!」
ピンクのフリフリシャツを着たピエロのような使者との面会が終わると、王の個人部屋にて、エルナンドが怒りを露にしていた。
ラベリティ王国の王であるイアンディカスと、その妻である王妃エリザベーラ、そしてその大事な大事な愛息子であるディランジュールが、王妃エリザベーラの父であり、そしてディランジュールの祖父でもあるションシップ前侯爵ことエルナンドの怒りに、顔色が悪くなる。
リチュオル国の使者であるバーソロミュー・クロウと、意思疎通が全くできていない会話を行っていたエルナンド。
まるでこの国の王か、それとも宰相か、と思われる対応を使者に対し行っていたが、今現在侯爵の座を退いたエルナンドは、何の役職もついてはいない。
だがこの国で今現在一番影響力があるのは、王イアンディカスではなく、勿論このエルナンドだ。
そんなエルナンドの怒りを受け、側近たちだけでなく、国王一家の顔色が悪くなるのも当然だった。
王を下に置く前侯爵。
この国の実質的な主導者はエルナンドであった。
「お、お爺様~落ち着いてよ~、母上、お爺様が怖いよ~」
「そ、そうですわ、お父様、落ち着いて下さいませ、可愛いディランが怯えておりますわ。それにアランが生きていた事など些事でございます。なにより、あの指輪が戻ってくるかもしれないですもの、丁度いいかもしれませんわ。ねえ、貴方?」
「う、うむ……エリザベーラの言う通りだ。エルナンド、落ち着いてくれ」
泣く子も黙るエルナンドの怒りに、国王一家が震えあがる。
アランに嘘の罪を着せ、森に捨てるようにと娘であるエリザベーラに指示を出したのも、このエルナンドだ。
アランは弟のディランジュールに比べ、優秀過ぎた。
ラベリティ王国にいたころのアランは、今現在のアランよりかなり大人しく、弱気な王子であったのだが、我儘王子であるディランジュールに比べればどう考えても優秀だった。
つまりいずれ王となる孫のディランジュールにとって一番の弊害は、アランという事。
もし万が一アランが王になったとしたら……
国政にエルナンドが口をはさむことは難しくなるどころか、無理だといえる。
ならばアランを消してしまえばいい。
そう思い魔獣が多くいる森で有り、そしてラベリティ王国とリチュオル国の間にある、恐ろしい悪魔がいると噂されていた森であった ”魔の森” へとアランを殺す為に置き去りにさせたというのに、まさかまさかのこの結果だ。
予定通り死んでいるどころか、アランはリチュオル国に保護され、その上聖女を婚約者にしているという。
下手をしたら今すぐにでもこの国がアランの物になってしまうかもしれない程の危機。
その危機が分からない愚かすぎる国王一家。
困った時にはすぐにエルナンドを頼ってくるくせに、アランの件では何の報告もなかった。
指輪がない上に、アラン本人が生きている。
最悪な現状だ。
国王一家は国の運営には全く役にたたないが、エルナンドの怒りを煽る者としては適任だった。
「馬鹿者! 聖女がやって来るのだ、今更指輪など、どうでもいいと分からんのかっ!」
「「「ヒィッ」」」
「我が国を助けに来る聖女の婚約者がアランなのだぞ! このままでは馬鹿な民たちだけでなく殆どの貴族がアランを国王にと押すだろう、お前達はそんな事も分からんのかっ!」
「「「ヒィィィィッ!」」」
エルナンドの睨みと叱責を受け、抱き合い震えあがる国王一家、そんな三人を冷めた目で見ながら、エルナンドはやはり指輪はアランが持っていたのだろうと確信をした。
その指輪があったからこそ、聖女と出会ったのだと理解できた。
アランはエルナンドが幼い頃憧れていた、アランデュカス・ラベリティ王に良く似ていた。
アランが国王になる方が、国の為になることは重々理解している。
それでも孫可愛さに、甘ったれで低脳なディランをどうにか王位に就けたいと、アランには帝王学など学ばせないようにエリザベーラに進言した。
そしてアラン本人にも、会えば必ず「お前は妾妃の子だ」と、欲をかくなと念押しをして来た。
エルナンドの思惑は成功し、アランは気弱でか細い青年に育った。
ただ、孫のディランが普通以下の間抜け者に育つとは予想外だった。
それは次期王だと甘やかし過ぎたのが原因だろう……今更後悔しても遅い。
そのおかげで 「アランを王に」 と望む声は、どこまでいっても消えはしなかった。
アランの母アリスを養女にした、クラウド侯爵家の後押しも理由だろう。
だからこそ、アランを始末した。
消えていなくなれば王にと望まれる事もなくなる。
なのに何故こんな事に!
よりにもよってアランは味方を増やし戻ってくる!
それもこの国が危機的状況下の今になって!
生きる希望を無くし、疲労困憊する民たちの前に、聖女を伴った王子が現れたとしたら……
誰もが皆、アランを英雄だと讃えることだろう。
「アランを絶対に王城に戻してはならぬ……この国が乗っ取られることになるぞ……」
低く重々しいエルナンドの呟きに、国王一家がここでやっとハッとする。
自分達はアランを無実の罪で追い出したのだ、恨みをかっていて当然、王城にアランが戻ってきたら、今度は自分達が追い出される、そう気づいたようだ。
エルナンドの言葉を聞き、やっと理解出来た国王一家。
そんな彼らの愚鈍さは、ある意味エルナンドのこれまでの功績……なのかもしれない。
「エ、エルナンド! どうすれば良い? 私は、まだ王でありたい! アランに追い出されるなどまっぴらだ!」
「お父様、次期王はディランしかいませんわ! アランが王など神が許してもこの私が許しませんわ!」
「そうだよ、お爺様ー、聖女と結婚するのはこの僕なんだよ! 兄上に可愛い聖女なんて勿体無いよ! 絶対に兄上を城には入れない! 王になるのはこの僕なんだからねー!」
自分達のことしか考えていない国王一家に対し、呆れながらもエルナンドは頷いてみせる。
だがそんなエルナンドこそが、自分の成功しか考えていない張本人だろう。
「王城に着く前に、アランを殺せ……」
そう唸ったエルナンドの命令は、まるでこの国の王の命令であるかのように、実行に移されることになるのであった。
ただし……
それが成功するかは、また別の話だろう。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。一週間お休み有難うございました。(=^・^=)
さてエルナンドがお怒りですが、仲間がお馬鹿さんばかりなのでしかたがないですよねー。まあ、頑張ってアランを暗殺してください。きっと成功……うん、無理だろうな。(笑)
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