第247話楽しい王立図書館訪問
「ベ、ベランジェ様……よぉうこそ王立図書館へ……」
王立図書館へと無事に到着した研究組。
そんな研究組は意気揚々と王立図書館内へと入っていった。
勝手知ったるではないが、王城勤め時代は良く通っていた王立図書館。
なので禁書庫への受付までは迷わず進んでいく。
そして笑顔で受付を願えば、受付の女性は緊張からなのか引きつった笑みを浮かべていた。
ベランジェと言えば、この国で一番有名な研究家。
小さな子でも名前だけは知っている……と、それ程世間に知られている研究家だ。
そして元呪い課のブラッドリーも、研究家としては勿論有名人。
チュルリやチャオだって、他の研究家たちからみれば天才(変人)と称されるほどの人物だ。
なので当然研究家達が多く通う王立図書館の受付嬢が彼らを知らぬはずがない。
受付嬢が緊張するのもある意味当然なのだが、そんな姿を見ても、ベランジュたちニーナ研究所の一行は何とも思わない。
彼らの頭の中は今、ラベリティ王国の事で一杯だった。
それに受付嬢は緊張しているのではなく、『ベランジェ様は呪われている』という噂から怯えているだけなのだ。
そんな事に全く気が付かない彼らは、馬車内で決めた作戦を決行したまま、いつも通り受付嬢へと声を掛けたのだった。
「今日はね、禁書庫へ入りたいんだ。許可してもらえるかな?」
「えっ、ええ……はい。国王陛下直々に通達が出ておりますので問題ございません……し、ゴホンッ、四名様で宜しいですね。あの、一応お名前をお聞きしても宜しいですか?」
「うん、勿論だよ。私は代表者のベランジェ」
ベランジェは紳士的な笑みで自己紹介をする。
「私はニーナ研究所のブラッドリーだ」
ニーナ研究所という所に力を入れブラッドリーも自己紹介をする。ここまでは何の問題もない。
「僕はーチュルリです。とっくに成人してますからねー」
むんっと胸を張り、チュルリも自己紹介。今日の髪の毛はいつもよりキューティクルが輝いていて、キラキラサラサラだ。
「俺はチャオ、一応お茶作りの名人さっ」
ひょろひょろっと背の高いチャオがぎこちなくお辞儀をする。
背中に何かが入っているので、胸板の熱い猫背の男に見えなくもない。
だが受付の女性はなるべく研究家たちと視線を合わせないようにしていたので、チャオのそんな不思議には気付いていない。
四人の名を聞き、書類と差異がないことを確認し、うんうんと頷いていると「ワシはチャーターでもう一人はプルースじゃ」「ケタッ!」と、どこかからかそんな不思議な声が聞こえて来た。
そっと視線を上げ、周りを見渡す女性。
声の主らしき人物はどこにも見当たらない。
そこで覚悟を持ってベランジェを見つめてみた。
するとベランジェに髭がないことに今日初めて気が付いた。
その上、少し瘦せたのか、頬がほっそりとしているのが分かる。
だがここで客観的にベランジェを見た事で、ある不自然さに気が付く。
そう、ベランジェのお腹だけは以前よりもポッコリとしているのだ。
「えーと……君、何か、不備でもあったのかな?」
受付女性に腹部を見つめられ、急に挙動不審になるベランジェ。
その行動が (怪しい……) とは思ったが、触らぬ神に祟りなし。ベランジェには呪いあり。だ。
なので「いいえ」と首を振り、問題なしと四人を通そうとした受付の女性は、ふと自分に向けられている視線に気が付いた。
「ふむ……中々の美人ではないか、やはり王都の女性は魅力的じゃのー」
「ケタ?」
そんな声と共に、ベランジェの胸元にある一つの瞳と目が合った。
よくよく見て見れば、ベランジェの腹の中には何かがいるように見える。
ソレが何かは分からないが、夏用のシャツからは ”ソレ” が薄っすらと透けて見えた。
どう見ても呪いの子がお腹に宿っているベランジュ。
それに気が付いた女性は、その瞬間意識を手放した。
ばたりと眠るように受付テーブルに倒れた女性。
それを見たベランジェたち研究家達は、突然どうしたのだろうと首を傾げた。
そこでやはり閃きの達人チャオがハッとする。
そう、徹夜明けの自分たちの姿を思い出したのだ。
「受付のお姉さん、寝ちまったみたいっすねー、もしかして受付仕事が楽し過ぎて貫徹だったのかもしれないっすよー」
「ああ、そうか、なる程ね。私もそれは良くやるから分かるよー」
「ベランジェ様はトイレも忘れるぐらいですもんねー」
「そういうブラッドリーだって食事を忘れる事がよくあるだろう?」
「グーちゃんのご飯を忘れる事など私はありませんよ!」
「えっとー、僕はー、キノコちゃん命なんで、みんなと違っていつも綺麗ですよー」
「チュルリのは髪だけだろう? そのキノコ柄の服、昨日も着てたじゃないかー」
やいのやいのと盛り上がる四人。
倒れている女性が目の前にいるのだが、寝ていると思っているため誰も手を差し伸べない。
だがそれは他の受付係の者たちも一緒だ。
そう、彼らは自分たちまで呪われてしまうのが怖いのだ。
なのでさっさと禁書庫へ行ってくれと、受付の皆が皆、無言で手を振りアピールをする。
それに気が付いたベランジェ達は頷き気軽に手を上げると、和気あいあいと盛り上がりながら禁書庫へと向かっていった。
そしてそれを見送る受付の者たち。
やっとあの人達がいなくなる……と一瞬ホッとする。
だがそこでふと、背の高いふわふわ頭の男の首元から、恐ろしい形相のぎょろめの子供が顔を出しているのに気がついた。
その上その子供は、まるで次に呪う人間を探しているかのように、興味津々で受付の者たちを見つめている。
そしてその子供の顔が三百六十度回転した時、王立図書館内に「ギャー――――ッ!」という複数の悲鳴が走ったそうだ。
ベランジェ様は呪われている。
その噂が王立図書館から消えることは、もうしばらく無いようだ。
ただし、そんな噂に全く気が付かないニーナ研究所の研究家達は、今日の王立図書館訪問でラベリティ王国に対する調査に大満足する。
「夏の旅行前にもう一度王立図書館に来たいですねー」
そう言った彼らに悪気はまったくないのだった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
もう一話行きそうになりましたが、これにて研究組の行動は終了です。次話は我儘王子の登場です。
王立図書館の皆さんすみません。見えないところで頑張って下さい。
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