第246話研究家(変人)たちの準備
「いやー、王立図書館に行くのも久しぶりだねー。それに禁書庫でラベリティ王国の事をジックリ調べられなんてワクワクするよー。実はね、グフフッ、今のラベリティ王国にはコロッ草があるんじゃないかって私は睨んでいるんだよー。ニーナ様が言うにはね、今のラベリティ王国は魔素ボウボウで悪意がワシャワシャらしいからねー。ほんっとどんな毒草が育っているか楽しみだよー。なあ、ブラッドリー」
「はい、ベランジェ様、私も楽しみです。それに珍しい毒草を見つけてニーナ様を喜ばせたいですからね!」
王立図書館へと向かう馬車の中、会話が弾みウキウキを隠しきれない男達。
その代表はかなり体型がスマートになり無精髭も無くなった、いかにも素敵な紳士に見えるベランジェだ。
ラベリティ王国への旅行を夢見て、手もみをしながら少し蕩けたような表情でそんな事を呟く。
普段はニーナ研究所に引きこもり中の変人たち……いや、研究家達。
そのままニーナ研究所に引きこもってれば良いものを、夏の旅行にラベリティ王国へと行くからと、ニーナからラベリティ王国の現状を聞き出し、期待がこもった瞳を掲げ、困ったことに王立図書館を目指している。
一緒に向かっているメンバーは、ニーナ研究所に押し掛けてきた元呪い課の課長ブラッドリー。
コロッ草があるかもというベランジェの言葉に大きく反応し、楽しみだと大きく頷いている。
そしてチュルリとチャオも、ベランジェのお供として王立図書館へと一緒に向かっている。
ベランジェからの情報で、今のラベリティ王国にはこの世界から消滅してしまった草花が育っている可能性が高いと聞いた。
お茶作りの為にも、そして未だ見ぬキノコちゃんに会う為にも、予習は必要だと、彼らも王立図書館行きに名乗りを上げたのだ。
「ベランジェ様ー、コロッ草って、幻どころか古代文明時代に消えた毒草じゃ無いっすかー! えー、だったら俺の欲しいヤバ草もあるかなー? 俺、ヤバ草でもお茶を作ってみたいんだよなー」
「チャオさん、ヤバ草だって存在してたかどうかも分からない程の珍しい薬草じゃないですかー。あー、でも、気持ちは分かります。だって僕もすっごく楽しみですもん! 新しいキノコちゃんに会えるかもしれないですからね。はぁ〜、姫を超えるキノコちゃんに会えるかもしれない……、運命の出会いがまたあるかもしれないんだねー。ウフフ……チャーター、プルース、楽しみだよねー」
「うむ! 楽しみじゃ。ワシも未だ見ぬ美しい女性に是非とも会うてみたいぞ!」
「ケタケタケター」
そう、今日は何故かこの危険な研究組のお出掛けに、魔道具技師ダンクが作ったお喋り人形のチャーターと、炎攻撃が得意なプルースも来ている。
実は彼ら研究員の世話係であるグレイスは、ラベリティ王国へ行く準備で忙しく、王城やニーナの補佐や研究所の運営などやる事が山盛りで、今日のお出掛けにはついて来ていない。
研究所の彼らは非戦闘員。
まあ、ある意味別の方法で人を殺めることは得意なのだが、流石に街中でベランジェの糞爆弾などを使う事は出来ない。
なので皆の護衛としてチャーターとプルースを付けた心優しきニーナ。
出来ればそこはブリキ人形のフラーべとシュナあたりにしてくれれば良かったのだが、「行きたい」と可愛い人形たちにせがまれてしまえば、子煩悩なニーナは許すしかない。
それに執事やメイド人形であるフラーべやシュナよりも、普段から死ごき部で鍛えているチャーターやプルースの方が護衛には向いている。
ただし、ニーナが可愛いと思う二人の見た目が、万人受けする姿であるとは限らない。
その上その事に研究員メンバーは誰も気づいていない。
最初は呪いの人形だと気持ちが引いていたファブリスでさえ、今やチャーターとプルースを可愛い子たちだと思っているのだからそれも仕方がないだろう。
とにかく図書館の受付職員の心臓を止めるような行動だけはしないようにと、肝に銘じて欲しいものだ。
「あっ、ベランジェ様ー、確か禁書庫って子供は入室禁止ですよねー? チャーターとプルースって連れて行って大丈夫なんですか? どう見ても可愛い子供にしか僕には見えないんですけどー」
前回の王立図書館訪問の際、未成年だと勘違いされたチュルリが心配そうにチャーターとプルースを見つめる。
確かに後ろ姿だけは子供に見えなくは無い大きさだ。
だがチャーターもプルースも、人間の子供にしては迫力があり過ぎる。
ベンダー一家には可愛い可愛いと可愛がられているチャーターとプルースだが、とにもかくにもその容姿は呪われた子供のようだ。
だが馬車の中の皆は、可愛い子供だから心配だ、と本気でそう思っている。
恐ろしい姿の人形でも、見慣れてしまえば感覚が鈍るのか……
いや、ニーナと同じ感覚を持つ彼らだからこそ、呪いの人形のようでも可愛いと思えてしまうのかもしれない……
子供とか以前に、呪いの人形、もしくは呪われた子供にしか見えないチャーターとプルース。
出来れば図書館職員の心臓こそを心配して欲しいのだが、彼らにはそんな常識などないようだった。
「そうか、そうか、そうだったねー。確かに子供は入室禁止だった。うーん、どうしようかねー。馬車の中で待っていてもいいけど……二人は護衛だし、それにチャーターとプルース自身が私達と一緒に図書館に行きたいよね?」
「ベランジェ殿、ワシは一緒に行きたいぞ。お留守番などもってのほかじゃー」
「ケタケタケタケター!」
「ほれ、プルースもそう言っておる。ソナタ達を守るのが我らの仕事じゃからのー」
「ケタッ!」
チャーターとプルースが皆の護衛として張り切る姿に、研究組の目尻が下がる。
皆を守るのだと気合いを入れる二人は、どう見ても誰かを呪おうとしている呪い人形そのものだが、研究組にはただただ可愛い存在だ。
なので願いを聞こうと、皆で頭を捻り考える。
どうしたら子供でも禁書庫に入れるか。
ニーナ様のように姿を消すことは出来ない。
そこでチャオが良い事を思いつく。
天才だからこその閃きだった。
「そうっすよ! ベランジェ様のお腹にチャーターを入れて、俺の背中にプルースを入れれば良いっすよ! ベランジェ様が痩せた事を図書館のやつらは知らない。だからお腹が膨れていても誰も怪しまない。それに俺も、滅茶苦茶背が高いっすからねー。それにこのふわふわな自慢の髪もある。プルースが隠れてても誰も気づかない。作戦は完璧。俺ってやっぱ天才かもー」
「わー! 流石チャオさん、良い作戦だー」
「おお、チャオはまるで軍師のようだなー、素晴らしいじゃないか!」
「へへへっ、そんなに褒めても俺お茶しか出せないっすよ」
どう考えても危ない作戦だが、研究員たちには良策に思えたようだ。
そうしよう、そうしようと盛り上がる変人達。
危険すぎる彼らの思考回路は今更修正できないだろう。
そして遂に、変人たちを乗せた馬車は王立図書館へと到着した。
出来れば誰にも迷惑を掛けず、禁書庫へと辿り着いて欲しいものである。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
チャーターとプルース。黒髪お喋り人形がチャーター。赤髪の攻撃人形がプルース。プルースの方が甘えん坊。チャーターは女好きです。
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