出陣の準備

第245話夏旅行の準備

「チュルリだチュルリだ〜僕はチュルリだ〜知らないキノコを探してみたい〜」


 ニーナ研究所内で今日もご機嫌な様子のチュルリ。


 お得意の鼻歌も出てスキップまで踏んでいる。


 大好きなキノコちゃん達に囲まれた幸せ過ぎる生活を送っているのでそれも当然。

 

 本日もウキウキワクワクしながらキノコ棟こと、チュルリが課長であるキノコ課へ向かうと、執務室内にモジャモジャ頭がトレードマークのとある先輩が、お茶を飲み飲みチュルリを待ち構えていた。


「うおーい、チュルリ、遅いっぞー」

「チャオさん! 何でここに? ってか遅いってまだ朝の6時ですけどー?」


 そう、チュルリの執務室で待ち構えていたその人物は、毒薬(※本人的にはお茶)作りの名手であるチャオだ。


 多分昨日は徹夜だったのだろう。


 着ている白衣からはニーナに怒られそうな匂いがする上に、グレイスが洗濯しているとは思えない程薄汚れている。


 それにトレードマークのモジャモジャ頭も心なしか元気がない。


 まるで湿気でしぼんでいるようだ。


 ただしチャオ本人は徹夜にも不潔にもなれっ子なので普段通りに見える。


 まあ、以前は一週間ぐらいお風呂に入らなくて平気だったので、本人的には問題ないのだろう。


 流石呪い課出身の研究家、まさに変人と言える。



「実はさー、俺にとってい~い話とおまえにとってもい~い話があるんだけどさー、先にどっちが聞きたい? ん?」

「いい話、ですかー?」


 ニマニマするチャオにチュルリは怪しんだ視線を送る。


 この先輩はいつも自分を揶揄っては楽しむ人なので、ちょっとだけ警戒しているのだ。


「えーと、うーんと、じゃあ、僕にとっていいはな――」

「良しわかった! 俺の話だな!」


 チャオは有無を言わさずチュルリの言葉を遮ると、得意げな顔でとある物を白衣のポケットから取り出した。


 そしてそれをチュルリの前で自慢げに振る。


「へへへっ、実はよーエクトルさんのお陰でやーっとお茶が完成したんだぜー」

「うわー! チャオさん! おめでとうございます! やりましたねー!」

「おうよ、凄いだろう? ニーナ様もやーーーーっと認めてくれたんだぜー」

「えっ、じゃあ『げりぴっ茶』遂に販売ですか?」

「それがさー、名前が駄目だしくらってよー。今は『減肥茶』って名前に変わったんだー」

「そうなんですねー、げりぴっ茶でも全然美味しそうですけどねー?」

「だよなー?」


 エクトルの死を覚悟した協力の結果、無事にチャオのお茶は完成した。


 そのお茶はお腹の調子を整えてくれるだけでなく、灼熱草の効果で体から余分な脂が落ちるダイエットにピッタリなお茶となった。


 このお茶のお陰でベランジェが減量に成功した事も、販売の際には良い宣伝効果となる事だろう。


 チャオが完成品をニーナに披露した際、ニーナの瞳には 『金』 の文字が浮かんでいたとかいないとか……


 とにかくチャオのお陰でナレッジ大公領にまた新しい特産品が出来た事は確かだった。



「それでチャオさん、僕にとっても良い話しってなんですかー? スマートな僕には減肥茶なんて必要ないですけどぉー?」

「そうだよなー、チュルリには減肥茶よりも身長伸ばす『背伸びっ茶』のが必要だよなー。まあでもおまえ成人してだいぶたつし、今更手遅れか?」

「むー! もう、ほっといてください! 僕は可愛いキノコちゃんに似てればそれでいいんです! チャオさん、僕に話しがないなら帰って下さいよー! 僕はキノコちゃん達のお世話で忙しいんですよー!」


 チャオに背が低い事を揶揄われ、チュルリはプクーっと頬を膨らませる。


 その姿はとてもアルホンヌと同い年とは思えないほど可愛らしいものだ。


 それを見てチャオは一通り笑い終えると、「悪い、悪い」とまったく悪いと思っていない様子でチュルリに謝る。


 そしてモジャモジャ頭の中から飴ちゃんを取り出し、詫びの品としてチュルリに献上する。


 微かな温もりを持つその飴ちゃんをチュルリがパクっと口にふくむと、「実はなー夏休みの旅行、俺達も行ける事になったぜっ」とニヤニヤ顔で呟いた。


 驚き過ぎて思わず飴ちゃんを飲み込んでしまい、咽せ始めるチュルリ。


 ドンドンと胸を叩き喉に詰まった飴ちゃんをどうにか食道に落とす。


 苦しさで涙目になっているが、今はそんな事は気にならなかった。


 何故ならベンダー家の夏の旅行と言えばラベリティ王国へと行く事だ。


 てっきりベランジェ様とブラッドリーさんだけが行くと思っていたチュルリ。


 だけど 「自分達も行ける!」 と聞いてチュルリは興奮した。


「ほ、本当に僕達も行っていいーんですか? だって、戦いに行くんですよねー?」

「ああ、だがな、こっちにはニーナ様がいる。どう考えても戦いにはならないだろう。だから俺たちには危険がない。それは確実だ」


 チュルリがうんうんと頷き、チャオはまたニヤリと笑う。


 そして勿体ぶったように間を開けると「今のラベリティ王国は宝の宝庫だ」と嬉しくなる事をチュルリに囁いた。


 だがそこでチュルリはハッとする。


 そう、今のチュルリには大切なキノコちゃん達が大勢いる。


 その上「姫様」まで育てている途中だ。


 絶対に離れられない。


 だけど長い付き合いがあるチャオには、そんなチュルリの心配がすぐに分かったのだろう。


「おまえのキノコちゃん達はロイクさんが見てくれるってよ~」


 と、気軽な様子でとっても嬉しい情報を教えてくれた。


 チャオはチュルリを揶揄いはするが、それは可愛い弟分だと思っているからだ。


 旅行の情報を掴み直ぐにチュルリに知らせてあげたのも、そんな兄貴としての優しさからだ。


 それに何よりキノコちゃんたちのことをロイクにお願いしたのも、このチャオだ。


 何だかんだと言いながらもこの二人は仲がいい。


 類は友を呼ぶ。


 まあ、二人共変人……という事だろう。


 

「ああ、ラベリティ王国にはどんなキノコちゃんがいるんだろう~?」


 チャオの言葉を聞き、一瞬で夢膨らむチュルリ。


 もう気持ちはラベリティ王国へと向いている。


 そんなチュルリを本当の兄のように優しく見つめながら、チャオが最後の爆弾をチュルリに投げた。


「んでよー、明日ベランジェ様とブラッドリーさんがラベリティ王国内のことを調べる為に王立図書館に行くんだってよー」

「えっ?! 王立図書館って……まさか、禁書庫?」

「はーい、チュルリくんせーかーい。飴ちゃんもう一個ねー」

「ありがとうございます」

「なーんで、俺たちも一緒に王立図書館に行っちまおうぜー」

「はい! 行きます、行きます! チュルリ、絶対に行きますからねっ!」


 とっても良いお返事でチュルリはチャオに「行く」と答えた。


 王立図書館の禁書庫は一般人は簡単には入れない為、有名研究家であるベランジェのお供として入室する企みだ。


 可哀想なのは王立図書館の受付の皆様だろう。


 今回ニーナは王立図書館には行く予定はないのだが、王立図書館の受付の皆様は 『ベランジェ様は呪われている……』 とそう思っている。


 なのできっとベランジェの訪問には恐怖を感じる事だろう……


 はてさて今回の王立図書館訪問は無事に済むだろうか。


 ニーナ研究所の研究員にもきっと常識があるのだと願いたいと思う。





☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

今回の章はラベリティ王国へ向けての準備……って感じでしょうか。第七騎士団の方も少し進展させたいと思っております。どうなる事か……頑張ります。

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