第244話使者到着

「陛下、リチュオル国からの使者が到着いたしました。すぐに面会の準備をいたしますか?」

「……えっ? リチュオル国からの使者? はて……一体何のようだ?」


 ラベリティ王国の王イアンディカス・ラベリティは、今日も今日とて、お昼寝が出来る平和な一日を過ごしていた。


 ラベリティ王国の国内は荒れに荒れ、国民達はその日の暮らしも困るような苦しい毎日を送っているが、イアンの周りだけは平和そのもの。


 以前よりも少しだけ晩餐の品が減り、そして少しだけワインの質が落ち、それと少しだけ城内が騒がしいが、喉元過ぎればなんとやら。


 そんな生活に慣れてしまったイアンは、リチュオル国へと送り出した聖女要請の一行の事などすっかり忘れ只々毎日幸せに過ごしていた。


 なので補佐官から突然意味不明な言葉を投げかけられ、ポカンとしてしまったその間抜け顔は、長年イアンに仕えている王の補佐官でさえ呆れるもので、王命を受け自身の命をかけてリチュオル国へと向かったアーサー達聖女支援要請の一行には同情しかなかった。


 それに今もなお国を守る為最前線で戦っている騎士団や兵士達にも同じ気持ちになる。


 だがそんな残念王であってもイアンはこの国の王なのだ。


 補佐官は言いたい言葉をどうにか飲み込むと、「聖女支援要請の返事を持って来た使者様のご到着です」と再度声掛けをした。


 だがイアンはやっぱりわからない様で「?」顔を浮かべたままどうにか思い出そうと、一応の努力をしてみる。


 昨日手を付けた可愛いメイドの顔ならばすぐに思い出せるのだが、随分前の聖女支援要請の一団の事など直ぐには思い出せない。


 すると、今日もやっぱり王の執務室へとノックも無しに当然顔でやって来る女性が一人。


 それは勿論王妃のエリザベーラだ。


 国民が食べる物にも困っているというのに、今日もケバケバしい装いで自慢の美貌に磨きをかけているエリザベーラ。


 そして踵のものすっごい高い靴でツカツカと歩きイアンの前へと来る。


 そして当然顔で補佐官とイアンの話し合いに割り込んで来た。


「まぁ、やーーーっとリチュオル国から返事が来たのですね! まったくたかだか聖女を送り出すということに、どれだけ時間をかけるのかと思っておりましたけど、支援を無償で受け入れると言うのならば使者の罪は問わないで上げましょうか……ねぇ、陛下?」


 そう言ってギロリッと睨んで来たエリザベーラがそれはそれは恐ろしく、イアンは妻から目を逸らしうんうんと頷くしか出来ない。


 きっと昨夜のメイドとの逢瀬がエリザベーラの耳に入ったのだろう、「陛下」と呼ぶ声が刺々しく怒っているのがよく分かる。


 今頃あの可愛いメイドは海の中か魔獣の腹の中だろう……と、流石のイアンもメイドに同情するが、だからといって今後もメイドに手を出す事を止めるつもりはない。


 中々の美人だったのに惜しいことをした……


 と、イアンの頭の中は自国の平和より、そんな事だけなのだった。




「王妃、他国の使者様に対しそのような言いようはやめて下さい。これは冗談では通りません、国際問題どころか国の存亡にかかわります。聖女支援はこちらから要請しているものなのですよ」


 まるでリチュオル国から支援されて当然だと、上から物申すエリザベーラに流石の補佐官も口を出す。


 だがエリザベーラはその補佐官をチラッと見ると、自分の護衛に指示を出し無理矢理どこかへ連れて行かせた。


 自分に意見を言う者など邪魔なだけ、この国で一番尊い女性は自分、そうこの国の王妃は自分なのだと、連れ出された補佐官に見向きもしないエリザベーラ。


 そしてイアンもまた自分の補佐が連れて行かれたというのに、心配するどころか何も口を出さない。


 それは自分の頭を使って考えるよりも、エリザベーラの言いなりになっている方が楽だからだ。


 きっとあの生意気な補佐官はどこかに幽閉されるだろうが、そんな事はイアンにはどうでもいいのだ。


 そう王である自分の補佐官になりたいものなど幾らでもいる。


 ラベリティ王国の王イアンにとって何よりも大事な事は、自分が平穏でいる事だけのようだった。




「まったくたかだか補佐官のくせに王妃であるこの私の言葉に口を挟むなど、躾がなっていない事……一体どこの家の者なのかしら、しっかりと教育をし直さなければなりませんわねぇ」

「う、うん、そうだねー。まあ、奴もエリザベーラの素晴らしさに気づきすぐ反省するだろう。もうあんな奴の事はどうでもいいじゃないか、それよりエリザベーラ、疲れているだろう? お茶でも飲まないかい?」

「まあ、陛下、陛下がそんな風にお優しくし過ぎるから周りが勘違いするのですよ! 宜しいですか、貴方はこの国の王なのです。軽々しく部下を甘やかしてはなりません! それから……勿論……メイドも、です」

「あっ! うん、うん、そうだねー! 私はこの国の王だからねー。エリザベーラの言う通り厳しくいくよ、うん、勿論だ、うん、今後メイドとは口もきかない、約束するよ……」

「オホホホ、そうですか、なら宜しいのです、オホホホ」


 一体この夫婦はこの国の危機的状況中に何をやっているんだ……


 部屋にいる他の補佐官や事務官皆がそう思ってはいるが、そこは皆が皆賢く黙っている。


 先程連れて行かれた補佐官のように幽閉されるなど真っ平ごめん。


 国の危機よりも自分達の命がなにより大事。


 今イアンやエリザベーラの周りにいる者達は、そんな考えの者ばかりだった。


 ラベリティ王国がここまで危機的状況に陥ったのは、まさにこの二人のせいであると言えるだろう。


 はてさて自らの過ちにこの二人が気付くかどうか……


 それはもう間もなく分かるだろう。




「では、その使者とやらに会いましょうか、私の父も丁度城に顔を出しておりましたの、ですから一緒に参りますわ。陛下、宜しいでしょう?」

「ああ、勿論だ。ションシップ前侯爵がいるなら心強いなー、宰相も騎士団長達も何を考えているのかまったく城に戻って来ないからなぁ、今前侯爵だけが頼りだ、心強いぞ」

「ええ、そうでございましょう、私の父は頼りになりますもの、陛下、次の宰相は是非我父にして下さいませ。きっと役に立ちますわ」

「ああ、そうだな、そうしよう! ションシップ前侯爵が宰相! エリザベーラの考えは素晴らしい、流石王妃だ!」

「まあ、それは当然のことでございますわ」


 あはは、オホホと笑い合うイアンとエリザベーラ。


 もしションシップ前侯爵が宰相になれば、この国の王は今以上にお飾りの王となるだろう。


 それに気付かないイアンはある意味幸せなのかもしれない。


 ただし国王としては無能どころか失格である事は確かだ。


 間もなく聖女であるニーナがこの国にやって来る。


 その時この無能な王はどうするのか……


 ラベリティ王国の平和の為にも、そして彼自身の平穏の為にも、素直にアランに王位を譲ることを祈りたいものだ。




☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

お休み長引いてしまい申し訳ありません。引き続きマイペースで更新させて頂きます。ああ……腰が痛い。(笑)


さてこの章はこれで終了です。次回から新章になります。やっとニーナが出陣でしょうか。アランの婚約者のフリ頑張って貰いましょう。

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