第243話選ばれし者

「実はミューにお願いがあるのです……」

「はい、ニーナ様、何でしょう? 私に出来る事ならば何でもお申し付けください! 何と言っても私はニーナ様のナンバーワン補佐官でございますからね! ニーナ様の為ならば火の中でも水の中でもなんでもござれでございますよ!」

「フフフ……まあ、流石ミューですわね、頼りになりますわ。ミューへのお願いというのは、貴方に私達より先にラベリティ王国へと視察に行って貰いたい、という事なのです……」

「ふぇえ? わ、私がですか?!」

「ええ」


 ニーナが王城にてへっぽこ演技を披露する少し前、ネズミ顔のある一人の男がニーナの部屋へと呼び出されていた。


 その男の名は勿論、バーソロミュー・クロウ。


 生まれ持った天賦の才能をニーナに見出され、ベンダー家へと意気揚々と引き抜かれたこの国一の逸材……では勿論無く。


 ひょんなことからベンダー家が渋々引き取る事となった三十路の男……それがバーソロミュー・クロウだ。


 ミューはベンダー家に来てからも相変わらず大好きなピンク色のフリフリシャツを好んで着ており、クエリの町やゼロディの町ではまさにご当地キャラかのように『ミューちゃんさまー』なんてあだ名で呼ばれ子供たちに人気を博している。


 特技は特にないのだが、最近ではニーナの弟子たちに鍛え抜かれた事で、防御力だけが異常に発達したという不思議な人間になりつつあるバーソロミュー・クロウ。


 ニーナがそんな不思議人間ミューを、ラベリティ王国へと派遣する一つの要因として、実はその ”殺そうとしても死なない” という防御力が含まれていたりもするが、一番の理由は他にある。


 なので突然のことに驚くミューに、ニーナは笑顔でミューを選んだ理由を素直に伝えた。


「まず、ラベリティ王国へと出向いたならば、王城へと聖女支援を受け入れるリチュオル国からの書状を届けて頂きたいの……この国の王の補佐官の経験があるミューならば問題なくこなせる仕事だと思いますの、いかがかしら?」


 そう、ミューにはリチュオル国の使者として、正々堂々とラベリティ王国へと出向いてもらう。


 他のベンダー家のメンバーではその役は中々に難しい。


 ニーナの本当の補佐官であるファブリスにしてもそうだし、有名人であるニーナの弟子たちを使者として向かわせる訳にもいかない。


 それにしっかり者のグレイス一家は、平民という事でこの役目を受けるのは難しいだろう。


 そう考えれば必然的にミューか、その兄であるバルテールナーが適役なのだが、ルナーはニーナの父エリクの筆頭補佐官なので屋敷を離れる訳にはいかない。


 そう考えるとベンダー家から暫くいなくなっても何の問題無いミューしかこの仕事を受けれないのだが、ニーナに 「お願い」 されてしまったことで、ミューの悪い癖であるヒーロー症候群がミューの心の中でふつふつと湧きあがり始めていた。


「それはつまり、この私がリチュオル国の代表としてラベリティ王国へと出向く……という事なのですね?」


 ニーナはミューの言葉に肯定も否定もせず笑顔を返す。


 ベンダー家の他のメンバーでも良いのだが、消去法でミューしかいないことは口には出さない。


 それにナレッジ大公領内にある闇ギルドから、ベンダー家の関係者以外をラベリティ王国へと秘密のトイレを使って送るわけにはいかない。


 かと言って本当に王城から使者を出せば、その旅の途中で使者が死者に変わる可能性はかなり高い。


 そう考えるとやはりミューしかいないのだが、ニーナの笑顔を見た思い込みの激しいミューには答えはそれで十分だった。


「はい! ニーナ様、この不肖バーソロミュー・クロウ、この大役必ずややり切って見せましょうとも! クロウ家の名に懸けて大切な書状を必ずや届けて見せましょう! 是非ご期待していてくださいませっ! アーハッハッハッハッハ!」


 胸を張り英雄になりきるバーソロミュー・クロウ。


 確かに国の大事な書状を届ける重要な役目なのだが、魔獣の蔓延る旅路を使う訳ではなく、闇ギルドからの転移で移動するという簡単な旅なので特に命に危険はない。


 なのでハッキリ言って誰でも出来そうな役どころなのだが ”ニーナに選ばれた” ”お願いされた” というのは、ニーナの補佐官であるミューにとってはとーっても重要な事なのだった。




「ミュー、あちらではラベリティ王国の王都の闇ギルド長であるオモルディアと、それから貴方もよく知っているパッセロと行動を共にして頂戴。必ず二人の話を聞いてから動くのですよ」

「はい、パッセロと……えーと……オモルディア? ですね?」

「ええ、二人にはあちらでの案内を頼んであるの、あの二人はラベリティ王国に詳しいですからね、ミューが迷子に……コホンッ、無事に王城へと着けるよう二人が準備してくれていますから、二人に従って動いて頂戴ね」

「はい、畏まりました!」


 ラベリティ王国へ一度も行った事の無いミューだけでは絶対に不安なので、そこはニーナがカルロに連絡し、ラベリティ王国になれているオモルディアとパッセロを補佐に付けた。


 どちらかというとオモルディアとパッセロの二人の方が、ニーナの本当の指令を受けている重要人物なのだが、二人共貴族では無いため城にはミューの補佐官としてしかついていけない立場なのだ。


 なのでミューにはどうしてもラベリティ王国へと行って貰うしかないのだが、ミューは自分に補佐が付くというニーナの言葉を聞いて 「期待されている!」 のだと益々勘違いをしてしまった。


「ふーむ、なるほど、なるほど……その二人を使ってラベリティ王国内を調査しろと……ニーナ様はそう仰っているのですね?」


 ニヤリとニヒルに笑うバーソロミュー・クロウ。


 オッサンの厭らしい笑みに見えるが本人的にはドヤ顔だ。


 ラベリティ王国の調査など、とっくにオモルディアとパッセロが済ませているのだが、ニーナは敢えて何も語らない。


 そう、ニーナがミューに一番期待することは、ラベリティ王国内で何か事件を起こすこと。


 バーソロミューの歩くところには常に問題あり。


 厄介事を自ら引き起こす男、それがバーソロミュー・クロウ。


 きっとミューならばこちらが期待する以上の何かを起こしてくれる。


 ニーナはそんな期待を密かにミューに望んでいるのだった。


「ウフフ……ミュー、貴方の活躍にはとても期待しておりますわ。私達が着くまでにラベリティ王国内をしっかり調べておいて頂戴ね」

「はい! ニーナ様、ナンバーワン補佐官のこのバーソロミュー・クロウにお任せあれ! 必ずや素晴らしい情報を手に入れて見せましょう!」

「まあ、オホホホホ……」


 ドンッ! と胸を叩き、自信満々にそう答えるバーソロミュー・クロウ。


 まだ何もしていないのだが、既にラベリティ王国を救った英雄のような気持ち爆発だ。


 そしてミューは鼻息荒く、カルロのいる闇ギルドへと向かう。


 旅の荷物は大丈夫か? と心配になるが、そこはあとからグレイス辺りが荷造りをしてトイレから送ってくれることだろう。


 今のミューはもうラベリティ王国のことしか見えていない。


 隣国を救う英雄となるため、突き進んでいくバーソロミュー・クロウ。


 そんな彼のラベリティ王国での活躍に是非期待したいものだ。





☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

忙しくって遂にストックが無くなりました……(;'∀')次回お休みになるかもしれません。済みません……ううう。

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