第239話リチュオル国の夜会
リチュオル国、王城内。
今宵久しぶりに盛大な夜会が開かれる為、王城内で働く使用人達は目まぐるしい忙しさで動き回っていた。
そんな中、一粒の清涼剤とでも言おうか、いや、大量の強力剤と言った方が正しいか……
前日から王城へと訪れているとある美しい一家が、厳選された使用人達が見守る中、夜会に向けていそいそと準備を始めていた。
それは勿論ベンダー男爵家の一家……いや、ナレッジ大公家の一家、ニーナ軍団だ。
ニーナお手製のドレスやタキシードに身を包んだベンダー一家は、それはそれは眩しいほどに無駄に輝き、見守る使用人たちを全て攻略し、被害者を増産していた。
そしてその被害は夜会が始まれば益々増大する。
まず加害者代表は、ナレッジ大公ことエリク・ナレッジ。
妻アルマが妊娠中という事で自宅でお留守番中と聞きつけたエリクを狙うご婦人やご令嬢たちは、どうにかエリクの目に入ろうと奮闘する中で、ほぼ全ての女性達がエリクの笑顔の餌食となり、魅了され、無力化されていた。
そしてそんな無駄に美しいエリクの子供であるディオン、シェリーは、両親から引き継いだその輝くような美しい顔で、無邪気に笑顔を振りまき被害を拡大していた。
そしてそして、そんな親子に付き従う従者や騎士達。
クロウ家の長男バルテールナーは、クロウ侯爵家の中で美男子ネズミ部門一位の座につくだけあって、その浮かべる笑顔には品がある。
愛するザナの側で生活しているからか、以前よりも尚更若々しくなったバルテールナーも、エリクの補佐だから……ではなく、その若々しい笑顔で会場内を騒がす一人となっていた。
そしてニーナに見出された、新人従者で双子のオーイーとオッチャ。
彼らは教育を兼ねた初めての夜会という事で、緊張を誤魔化すためなのか無駄にお愛想を振り撒き人目を集めている。
美しい青年の可愛らしい笑顔。
本人達は田舎者だと気付かれないようにとどうにか誤魔化そうとしている笑顔だったのだが、それもまた会場内の参加者を騒がす一因だった。
そしてニーナの弟子であり、この国の有名人である、ベランジェ、シェリル、アルホンヌ、クラリッサ。
ただその場にいるだけで注目を集めてしまうこの国の有名人たち。
そんな目立つ存在ばかりが見目麗しいナレッジ大公と一緒にいるため、目立たないはずがない。
そしてシェリルにそっと寄り添う、ユージン・ナンデス元宰相。
王城にいた時からは想像出来ない程穏やかな表情を浮かべている。
元から若く見えていたユージンのその顔は、まるで何かの魔法にでもかかったかのように艶があり美しく、色んな意味で女性達に注目されていた。
そして……
今日一番のざわめきが会場内にこだまする。
それは知る人ぞ知る、ある青年が登場したからだ。
その人物の名は、アランデュール・ラベリティ。
ラベリティ王国の第一王子だ。
賢王と名高いアランデュカス・ラベリティ王を知っている者ならば、誰もが知るラベリティ王国の王族の色を色濃く受け継いだアランデュールの存在にすぐに気づいた。
何故他国の王子がこの夜会に?
今日は確かウィルフレッド殿下の入学の祝いであったはず。
そんな疑問が多くの貴族達の脳内に浮かんだ瞬間、リチュオル国の国王一家の入場の時間となった。
「皆、今宵はよく集まってくれた」
国王アレクサンドル・リチュオルは穏やかな表情で話を始めた。
だがそんな国王アレクよりも、そして王太子のレイモンド・リチュオルや、本日の主役であるウィルフレッド王子よりも、一際目立つ存在が壇上に浮かんで……いや、たぶん立っていた。
それは見た目だけはまだ幼い少女。
現大聖女であるセーラの横に、とても聖女見習いとは思えない堂々とした様子で立っている一人の少女。
小さな女の子ならば緊張から強張るであろうその表情も、まるで皆から注目を集め、見られる事も、屁でも無いかのように美しい笑顔を浮かべ、余裕が見える可愛らしい少女。
そしてここが一番不思議なのだが、あの少女を見ると……
『なーんかどっかで会ったことがあるような?』
『なーんか重要な事を忘れちゃっているような?』
『なーんか有名人だったような?』
と、まるで今やろうとしていた事を忘れたかのような、気持ち悪い不思議な気分になってしまうのだ。
それはまさに、おでこに眼鏡を乗せながら「眼鏡眼鏡」と探すような感覚。
または温かいお茶を飲もうとしたら冷たいお茶だった……というようなちょっとした間違えをしてしまったような何とも言えない感覚。
ニーナの姿を見て、この国の最年少男爵である ”ニーナ・ベンダー” だと気付く者は、残念ながらこの場にはいないようだった。
「さて、先ずは我が孫であり、この国の王子であるウィルフレッド・リチュオルが無事学園へと入学する事が出来た……」
ウィルフレッド王子が一歩前に出て、立派な態度で挨拶を始める。
するとあの不思議な少女がそれはそれは優し気に微笑む。
まるで孫でも愛でているようなそんな様子なのだが、貴族達はニーナの笑顔を見て勘違いを始める。
もしかしてあの少女はウィルフレッド王子の婚約者なのか?
いや、もしかして秘密にされていた姫様で、ウィルフレッド殿下の妹なのかもしれない。
そんな考えを持つ者もいたが、その憶測は裏切られ、ウィルフレッドは無難なく挨拶を終える。
当然拍手喝采で賑わう会場内。
だがあの少女への『何者だ?』という疑問は益々高まって行く。
そして今宵の主役ウィルフレッドだけではなく、王族皆が笑顔で拍手に応える。
だが、国王アレクが片手を上げた瞬間、その拍手がピタリと止まった。
何故なら王であるアレクの浮かべる表情がガラリと変わり、険しいものへと移ったからだ。
そしてアレクはその表情のまま、一人の青年を壇上へと呼び寄せた。
それは勿論、アランデュール・ラベリティ王子だ。
貴族達皆の注目が今度はアランに集まり、会場内にまたざわめきが起こる。
そしてアレクが片手を上げ、そのざわめきに終止符を打つと、アラン王子のとある事情を話し出した。
「皆も知っているとおり、ラベリティ王国の第一王子であるアランデュール王子が、我が国へと魔法研究の為に留学して早いもので数年がたった……」
えっ? そうだっけ?
アラン王子、留学に来てたんだっけ?
とそんな疑問の声は勿論上がらない。
何故なら高位の貴族であるナレッジ大公一家や、その傍にいるニーナの弟子達が、当然顔で頷いているからだ。
知らなかった。
聞いていなかった。
忘れちゃっていた。
なーんて言葉を、とてもじゃないが吐ける雰囲気ではない。
貴族らしく、体裁を整え「当然知っていましたとも!」とお澄まし顔で皆頷いてみせる。
そしてアレクはそんな貴族たちの様子に満足気な笑みを浮かべると、「ラベリティ王国の使者殿をこちらへ……」と聖女支援要請一団の代表であるアーサーと、その補佐官を呼び出した。
アレク王は二人が壇上へと登った事を確認すると、集まる皆が知らぬラベリティ王国の危険的状況を話だした。
「実は先日……ラベリティ王国から救援要請が届いた」
その言葉を聞き、会場に集まる皆が息を呑む。
隣国の一大事なのだ、下手をしたらこの国にも影響があるはず。
だが今のところ何の危険も現れていないのは、きっと聖女様のお陰だろう。
貴族たちがそんな思考へと進んでいると、アレク王があの誰もが気にしていた少女を、壇上中央へと呼び出したのだった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
投稿遅くなりましたー!すみません。今日もよろしくお願いします。m(__)m
夜会がやっと始まりました。
アーサー達ですが、同じ会場にいるシェリーには気付いていません。緊張しているのか、それとも天使がこの場にいるはずないと思っているのか……もう少ししたら顔合わせさせたいなと思っています。
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