第238話友好の懸け橋
「ストレージ騎士団長、それに皆も、頭を上げてくれ、ここは無礼講だ、気軽にしてくれて良い。この場は我が国の重役が集まる会議の場では無いからな、ハハハハハ」
「ハッ、アレク国王陛下、有難うございます」
ニマニマと楽し気な笑みを浮かべ、何かを期待しているかのような様子で再会の場へとやって来たリチュオル国の王、アレクサンドル・リチュオル。
その後ろからついて来た新宰相のライムもまた、普段の様子では考えられないような、口元を緩めたアレク国王と同じような表情を浮かべている。
ニーナはそんなアレクとライムのいたずらっ子のような子供っぽい二人の姿を見て、(この子たちったら全くもう、楽しんでいるわね……)と内心呆れ顔になる。
そして素直なアランの方は(アレクのおじさん楽しそうだなー)と、まるでラベリティ王国の面々にどっきり大作戦でも仕掛けているかのような、いい大人の男二人の楽し気な様子にアランまでも同じように楽しくなり。
そして被害者ともいえるラベリティ王国の面々は、フレンドリーなアレクの姿に自国の王とのあまりの違いを感じ、アレクへの尊敬を益々高め、それと共に誰にでも優しい国王の度量の大きさに、また感動を覚えていた。
「それで、ニーナさ、ゴホンッ、あー……ニーナ譲とアラン殿下の婚約の話は、きちんとラベリティ王国の皆たちに伝わったのかな? ん? どうかな?」
ワクワクした表情で問いかけてくるアレクに頷く素直なアラン。
「そうかそうか(あの演技に騙されたのか……)」と、アレクの笑いを耐えようとしている変顔につられ、アラン自身これまで耐えていた笑いが込み上げて来たため、アランは無言で頷くしかない。
だがそんなアレク国王の姿は、涙をこらえ、幼い子供を聖女だからという理由で戦地へ送るしかない王の辛さのようにアーサー達には何故か映り。
そして自国を救える嬉しさと、愛する人を危険にさらす辛さから、複雑な心境であろう自国の王子アランの心も、アーサー達には苦悶に満ちたその表情から見て取れるきがした。
(このお二人は我々の事を……いや、ラベリティ王国のこの危機を、真摯に受け止めてくれている!)
ただ笑いをこらえ、俯くアランやアレクの姿は、天然名男優の演技のお陰かアーサー達に良い誤解を与えていたのだった。
「アレク……コホン、アレク国王陛下、私とアラン殿下の婚約のお話は恙なくお伝え出来ましたのよ。全く問題ありませんわ、オホホホホ」
楽しんでいるアレクに、ニーナはさっさと仕事に戻りなさいとでもいうかのように、自分の演技は完璧だと自慢げにそう答える。
心配しなくっても、私ちゃんと幼い子のフリが出来ましたのよ! とどや顔だ。
アレクは予行練習の時のニーナのへっぽこ演技を知っているだけに、あんなものにさえ騙されるラベリティ王国の面々の疲労度の深さに同情を覚える。
それほどラベリティ王国は荒れているのか……
どう考えてもニーナ様が行くしか無いだろう。
その事に対しても同情しかないアレク国王。
そしてそんなアレクとニーナのやり取りは、危険な旅路に子供を送り出したくない国王と、そして初恋の婚約が自分達聖女要請支援の一団に認められない可能性もあるのだぞと、前もってアレク国王にそう言われていたであろうニーナが「大丈夫だったもんっ」と拗ねるような可愛らしい少女の姿に映っていた。
思い込みとは本当に恐ろしいもので……
ニーナの演技はどこまでもへっぽこなのだが、リチュオル国の対応の素晴らしさや、国王の器の大きさに感動しっぱなしのアーサー達には、全てが良いように映っているのだった。
可愛そうに……
「そうか……ゴホンッ、では、少し今後の話をさせて頂こうか……ライム」
「はい」
アランとの感動の再会と、そして婚約者披露(疲労かも)は無事に終わったと確認できたので、アレクがライムに指示を出し、アーサー達に今後の行程表を渡す。
それを見てアーサー達は度肝を抜かれた。
何故ならリチュオル国から旅立つ聖女一団の面々の名に、他国の人間であるアーサー達でも知っている程の有名人の名がずらりと並んでいたからだ。
先程アランの口から聞いていた元大聖女のシェリル然り。
そしてリチュオル国を代表する有名な研究家のベランジェ。
それとリチュオル国の双璧だと呼ばれている金の騎士アルホンヌと炎の騎士クラリッサ。
そのうえ元宰相のユージン・ナンデスの名前まで書かれていたためアーサー達が目を丸くするのも当然で、それはリチュオル国を代表するような者たちばかりの名だったからだ。
これ程に我が国の事を気に掛けて頂いているのか!! とまたまた良いように勘違いし勝手に感動するアーサー達。
だが実際は(ニーナ様について行きたい、絶対に! 楽しいから~!)と敬愛するニーナとの夏の旅行を楽しみにしている面々の代表者だったりもする。
そして他にも、チュルリやチャオ、グレイスやベンダー兄弟の名前も書かれているのだが、その名はまだ有名ではないためアーサー達はこの聖女一行がどれほどの戦力かは気付いてはいない。
そしてそのメンバー表には、アーサー達が目を奪われる一人の人物の名が書かれていた。
それは勿論国王アレクの孫、ウィルフレッド・リチュオルだった。
ディオンの友人枠で夏の旅行を楽しむためにラベリティ王国へと行くウィルフレッド。
だがアーサー達には時期王太子をラベリティ王国の危機に出陣させるラベリティ王国の強い想いが感じられた。
絶対に助けて見せる。
ラベリティ王国はリチュオル国の友好国なのだから!
そしてそんなリチュオル国の熱い思いとは裏腹に、行程表にさりげなく有名人ばかりの同行メンバーを記した気遣い。
どれほどリチュオル国がラベリティ王国を、そしてアランを思っているのか、アーサー達には痛いほどに感じ取れたのだった。
「……リチュオル国国王陛下……これ程の面々を我が国に送って頂けるのですか……」
ぽつりと零れたアーサーの言葉。
アーサーは喉の奥が熱くなり、目元に雫がたまるのを感じる。
それは他の聖女要請支援の一団の面々も同様で、中には本当に涙を流すものもいた。
アレクはそんなアーサー達を同情したような表情で見つめ、『私は貴方が止めても絶対にニーナ様について行きますからねっ!』と五月蠅かったシェリル達の事を思い出し、アレクは当然だと頷く。
その上「本当は私も……そしてライムも、一緒に行きたかったんだがな……」とアーサー達に益々勘違いからの感動を与えてしまう。
仕事なんだよねー! 悔しい! と、そんな本音が漏れ、顔をゆがめるアレクに対し、アーサー達は熱いものが込み上げてくるのをもう抑える事が出来なかった。
「……っ! このご恩は一生忘れません!! ぐすんっ」
ああ、天使が住まうリチュオル国の国王陛下は、なんと慈悲深いお方なのだろう!!
流石聖女が生まれる国の王だけのことは有る!
そして……自分たちの王、ラベリティ王国イアンディカス・ラベリティとの器の違い。
アーサー達の勘違いは只々ラベリティ王国の素晴らしさを実感するだけのものだった。
「出発前に壮行式を兼ねた夜会を開かせて頂きます。実は急でしたのでウィルフレッド殿下の入学の祝いと兼ねたものになってしまいます。ですがその分この国の貴族が殆ど集まる夜会となりますでしょう。ですので皆様への支援の声も十分に集まる事と思います」
「我々の為にわざわざ壮行式を? ですが……ウィルフレッド殿下の祝いの席ですのに宜しいのでしょうか?」
「ええ、勿論です。これはウィルフレッド殿下からの申し出でもあります。夜会で未来の王妃候補者たちと踊るよりも、今はラベリティ王国の皆様を応援したい。ウィルフレッド殿下はそう申しておりました」
「なんと! ウィルフレッド殿下はなんと素晴らしい方なのでしょう。まだ幼いながらも我々の事を思って下さる器の大きさには感動しかございません、感無量でございます!」
「ウィルフレッド殿下はアラン殿下を本当の兄のように慕っておいでですからね。それも当然の判断なのでしょう」
「あ、兄のように……」
アーサー達の視線がアランへと向く。
知らないうちに国を追い出されていたアランは、このリチュオル国でしっかりと人脈を築き、王族の誰よりもラベリティ王国の役に立っていた。
次期王とされているディランジュールとの余りの違い。
それはアーサー達にある思いを植え付けるにはもってこいの出来事でもあった。
そう、次期国王はアランデュール殿下しかいない!
そんな思いを彼らに抱かせるのに名優はその実力を十分に発揮していたのだった。
「では、この行程表通り進めさせてもらおうか、リチュオル国とラベリティ王国の友好の懸け橋。我が国の聖女一行がそうなることを大いに期待している。アラン、ニーナさ、ゴホンッ、ニーナ、そしてストレージ騎士団長、宜しく頼むぞ!」
「はい」
「ハッ!」
「カ、カシコマリマシタッワ」
こうして無事、追放された王子アランと、その可愛い婚約者ニーナと、ラベリティ王国の聖女要請支援一団の面々との会談は終わりを迎えた。
そして同じくして動き出したある人物がいた。
それはラベリティ王国内の実情を調査するため、ニーナに送り出されたとあるネズミ顔の人物。
その者がニーナたちにもたらすものは、果たして騒動なのか幸運なのか……
それは今の所まだ誰にも分からないのだった。
☆☆☆
おはようございます。白猫なおです。(=^・^=)
仕事が忙しくなり始め、ちょっと投稿ずれましたー。曜日感覚のずれもあります。申し訳ないです。投稿続けますので大きな心で受け止めて下さると嬉しいです。てへっ。
さてさて先にラベリティ王国へと行っているネズミ顔の人物とは誰でしょうか?難しい問題ですね。ヒントは騒動を自ら起こす人物……です!誰でしょう?ニーナの仲間たちにはそういう人物が大勢いるのでやっぱり難しいですねー。
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