第234話アラン王子の決意
ニーナとアランが婚約。
その報告を聞きセラニーナの弟子達はそれぞれ恐ろしいことを想像していたが、アランをラベリティ王国の王に就けるだけのことだと聞き、今安堵の息を腹の奥底から吐いていた。
そんな皆の姿を見ながら、ニーナはクスクスと可愛く笑う。
どうやら弟子たちの慌てる姿が見れてニーナは大満足の様だった。
「フフフ……それと、皆様アランの事を心配しているようですが、アランと私の婚約は仮初の婚約ですのよ。安心してくださいませ。私は今のところ誰とも結婚する予定はございません……魔獣程殿方に面白みを感じませんからね。まあ、でも……そうね、研究よりも楽しい方にお会いしたら、これから先はどうなるかは分かりませんけどね……フフフ……」
アランを国王にすることに納得していたニーナの弟子達。
そしてこの婚約が仮初である事を聞き、尚更安堵の笑みが深くなる。
誰とは言わないが、アランに視線を送り「良かったな!」と心の中で同情するものもいる。
そしてある者はガックリと肩を落とし、ニーナの子供にすぐには会えない事にショックを受けている。
そしてまた別の者は、これから益々楽しくなるぞ! と心の底から喜び。
そしてリチュオル国の国王アレクは、ニーナの考えを一瞬で理解していた。
「ニーナ様……もしや、ニーナ様自身がラベリティ王国に聖女として赴くつもりですか?」
「あら、アレク、よく分かりましたわね。ラベリティ王国からの聖女要請支援の手紙がやっと届いたでしょう? 聖女の誰かがラベリティ王国へと行かねばならない。ならばこの私がアランの婚約者として……そして聖女の代表としてラベリティ王国へと向かいます。アランを国王にする為の最短の良策。これ以上ない作戦だと私は考えておりますのよ……」
フフフとまた可愛く笑うニーナに、アレクは 「しかし、それは……」 と言い掛けた。
追放されたアランが堂々と国へ戻るには、聖女の婚約者というネームバリューは絶大な力を持つ事だろう。
それにニーナはこう見えて悪魔ではなく大公家の娘であり、そして何よりもニーナ本人が最年少男爵になる程の異端児……いや天才児でもある。
その肩書を持つものを婚約者にしたアラン王子。
どんなにアランの事が気に入らないとしても、今の国の現状を思えばラベリティ王国の王族達は文句なしで受け入れるしかないだろう。
だがニーナは周りから見れば、天使と間違うほどの美貌を持つ幼い少女。
力の無い少女に向けて、腐敗しきったラベリティ王国の者たちが何かしてきてもおかしくはない。
それにニーナはその見た目で確実に侮られることだろう。
そして何より……アランを狙う者もがいる。
アレクはニーナをラベリティ王国へと送り込むことは、色んな意味で心配でしかないのだった。
「……ニーナ様……ラベリティ王国にはまず我が国の大聖女セーラと騎士団長が向かい、そしてある程度魔獣が落ち着いてからアランをラベリティ王国へと入国させてはダメでしょうか? アランは確実に命を狙われます。せっかくこの国へ来て幸せを掴んだのに……これ以上アランが辛い思いをするのは私は見ていられません……」
アレクはリチュオル国の国王としてよりも、アランの父親代わりの一人としてアランを気遣った。
国を追い出されたアランの受けた傷の痛みは、同じ様に王子時代があるアレクにはよく理解出来た。
アレクの場合は母を早くに亡くし、そして妻も同じ様に早くに亡くしてしまった。
王であるが故にその悲しみに浸る時間は持つことが出来なかった。
出来ればアランにはまだ王ではなく、一人の男でいて欲しい。
そしてこのままこの国で出来るだけ長く幸せに生きていて欲しい。
何故ならばラベリティ王国へ帰れば必ず辛い思いをする事は想像に容易いからだ。
自分の家族を断罪しなければならない。
アランが王になれば確実にその選択をしなければならないだろう。
アレクには優しいアランが傷つく事が何よりも辛かった。
「アレク叔父様……いえ、リチュオル国国王陛下、私への暖かな気遣い、有難うございます。陛下が私を心配して下さるお気持ち……私は充分に理解しているつもりです……」
「アラン……」
「ですが私はラベリティ王国の王子として生まれました。これまでは妾妃の息子であった為、自らに甘えがあり覚悟がたりなかった……そう思います。私はこの国に来て、ニーナ様に会い、そして皆様に会った事で自分の足りない部分が良く分かったと思います……」
「アラン……」
アランは第一王子ではあるが、母親の位が低かった為王位につくことはないと、周りからも言われそして自分自身もそう思い込んでいた。
だがアランは立派な第一王子だ。
民を思い、国を憂い、導いて行く力と、そして使命がある。
その事から無意識で逃げていたアラン。
だが命の恩人であるニーナの、何にでも立ち向かって行く姿を見て自分のこれまでの行動を改めた。
そして自らの運命に立ち向かう為に必要な力を身に付け、やるべきことを理解したアランには、今は何の迷いもないようだった。
「アレク陛下、私の父や義母そして弟は、王族として進んではいけない道を歩んでいます。それを止めるのはニーナ様やアレク陛下ではなく、ラベリティ王国の王子であるこの私でなければなりません。私は自分の力でラベリティ王国を住み良い国へと変えていきたい。ナレッジ大公領のように民にとって素晴らしい土地を自分の力で作り上げていきたいのです」
そう言い切ったアランの決意は固いものだった。
裏切られ、追い出された国のことなど無視をし、リチュオル国でこのまま幸せな暮らしを送る選択もアランには出来たはず。
だがアランはどんなに辛い未来があると分かっていても、国に戻る事を決意した。
ニーナやその仲間達が傍に居てくれるから……
だからアランは立ち向かう勇気を持てた。
そして何よりもアランは、生まれた国である自国を愛しているのだと、今強く感じていた。
「アラン、本当にあの国へ戻るのだね……」
「はい……確かにラベリティ王国では嫌な思いもしましたし、辛いこともたくさんありました。いずれ私は伯爵家に婿養子に入る予定でしたので、使用人達にも舐められていたこともありました。ですがそれは彼らだけでなく弱い私にも責任があった。それに常に悪い事ばかりでも無かった……少なくとも私を応援してくれる者達も確かにいた。私はそんな彼らを救いたいとそう思うのです」
ラベリティ王国は今荒れに荒れている。
アランが国へ戻るとしたら危険しかない事はわかり切っている。
それでもアランはラベリティ王国へ戻ると決意した。
ならば他国の王であるアレクが、もうアランに問う事は何もないのだった。
「フフフ……アレク、心配し過ぎですわ」
「ニーナ様!」
「この私がアランの婚約者としてラベリティ王国へと一緒に行くのですよ。どんな敵が来ようともアランの爪の先程だって傷つけさせなど致しませんわ。この私が必ずアランを必ず守ってみせます。アレク、安心してアランを送り出してくださいませ」
「ニ、ニーナ様……」
ニーナの楽しげな笑顔がアレクの不安をより一層募る。
それはアランを心配する先程と同じ気持ちではなく……あちらの王族の行く末をちょっとばかし可哀想に思ってしまったからだ。
逃げるようにと手紙を送ってみようか……
そんな心配をしてしまう程ニーナの笑顔には破壊力があった。
ラベリティ王国の王族達が、生きている事を後悔するような結末が起きないようにと……アレクは祈ることしか出来ないのだった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
アレクの心配はアランの事と、ラベリティ王国の王族の行く末ですね。断罪されるのは決定事項。命だけは助けてあげて……そんな風に思っているようです。はい。
時間があったらもう少し修正したいなー……たぶんそのまま行くと思いますが。(;'∀')
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