第233話婚約のご報告

「アレクお久しぶりね。変わりはないかしら?」


 ニーナがベンダー家一行を連れて王城へとやって来た。


 ディオンとシェリーは早速ウィルフレッドとアンジェリカの下へと向かい、一緒に遊ぶ予定だ。


 くれぐれも城の外へは出ないようにとニーナに注意されたのは子供達に前科があるからだろう。


 今はラベリティ王国から流れてくる流民も増え始めている為、剣や魔法が達人レベルで使えるディオンやシェリーはともかく、普通の王子と普通の王女であるウィルフレッドとアンジェリカを落ち着かない状態の街へと向かわせる訳にはいかない。


 ニーナの言葉に「はーい」と可愛く二人が返事をしたのをしっかりと確認はしたが、それでも兄姉には過保護なニーナはゲルマンに「危険がないようにお願いね」と見張りをお願いした。


 ニーナに鍛え上げられたディオンとシェリーに何があるとは思えないが、とにかくベンダー家の子は無駄に可愛すぎるので、予期せぬ犯罪に巻き込まれる可能性はなくも無い。


 それに王都民をディオンとシェリーの溢れんばかりの魅力から守る意味も兼ねている。


 被害者は出来るだけ少ない方が世の為だからだろう……



「ママン……ゴホンッ、ニーナ様、お久しぶりでございます。王城はお陰様で平和でございます。それにナレッジ大公領の活躍のおかげでこの国の税収は鰻登り、それに様々な発明品のお陰で今まで付き合いの薄かった他国からも声が掛かるほどですよ」

「まあ、それは良かったですわね。ナレッジ大公領の発展はお父様とルナーの頑張りによるものですもの、私も嬉しいですわ」


 ニーナに活躍を褒められたエリクとルナーが笑顔でアレクに頭を下げる。


 領地発展の為に様々な物を作り上げたのはニーナであっても、実際にその品をどう展開させていくか頭を捻らせたのは領主であるエリクやその補佐であるルナー、そしてナレッジ大公領の街を任されているガイアスやギデオンなのだ。


 アレクもニーナからの定期報告で彼らの活躍が分かっているため、素直に頷き感謝する。


 ナレッジ大公領の発展は今やリチュオル国の強力な外交の武器となっていた。


 国王であるアレクが感謝するのは当然のことだった。



「それで……ニーナ様、今日のお話とはなんでしょうか? 弟子たち皆を集めるほどの話です、ラベリティ王国の案件についてでしょうか?」


 今日のこの会議場にはニーナの弟子とも呼べるメンバーが揃っている。


 国王でありセラニーナの息子同然のアレクは勿論の事、ベランジェ、シェリル、アルホンヌ、クラリッサ、そして闇ギルド長であるカルロもいる。


 そしてシェリルの横には前宰相であるユージンもおり、ベランジェとクラリッサの間には何故か補佐官のグレイスも座らされていた。


 そんな中今日の会議がラベリティ王国の案件だとアレクが思ったのは、ニーナの横にアランが座っていたからだった。


 アランはラベリティ王国の第一王子。


 当然ラベリティ王国の要請の件はニーナから聞いている。


 そしてそんなアランの従者ベルナールも、アランの補佐として少し離れた場所でこの会議の話を聞いている。


 それに何よりラベリティ王国からの使者がこのリチュオル国に到着し、そしてその使者からの書状が届いた途端にニーナからのお話したいとのお誘いだ。


 どう考えても何かある、アレクにはそうとしか思えなかった。



「実はねアレク……私、アランと婚約いたしましたの」



「は?」

「へ?」

「ん?」

「え?」

「あ?」


 誰からともなく……いや、弟子たち全員から間抜けな声が漏れる。


 ニーナは理解できていない様子の弟子たちに淑女らしい笑みを浮かべ、子供たちに話を聞かせるかのように優しく話しかけた。


「ですからね、私、ニーナ・ベンダーは、ラベリティ王国の第一王子であるアランデュール・ラベリティ王子と婚約いたしましたの。森で命の危機にあったアラン王子を聖女の素質があった可愛らしい少女ニーナが、人を助けたいという強い思いから才能を開花させ、魔獣に襲われ弱っていたアラン王子に癒しをかけお助けしたの。その出会いがきっかけで二人は自然と惹かれ合い、一緒に過ごす未来を望むようになった……父であるナレッジ大公も、優しく領民思いなアラン王子に胸打たれ幼い娘の初恋を応援する事に決めた。そしてそんな父の後押しもあり、幼いニーナが成人したら二人は結婚をしようと約束をした。ラブラブな二人に年齢差など関係ない。これは誰も邪魔する事が出来ない熱烈な恋の物語なのよ……例えラベリティ王国の王族であってもね……ウフフ……」



「はい?」

「ふへ?」

「んん?」

「ええ?」

「ああ?」


 他人事のように……いや、まるで物語の様に自分の婚約を話すニーナに、弟子達からは困惑の声が漏れる。


 もう一人の当事者、いや、その幼い恋の物語の主人公であるアランは、ニーナの中身を知っている人間からすれば無理がありすぎる設定に苦笑いを浮かべている。


 そして婚約の話を前もって聞いていたファブリスやグレイスは、笑顔を貼り付け事の成り行きを見守っている状態だ。


 父親であるエリクも勿論ニーナから報告を受けていたので、驚く顔を浮かべて困惑中の弟子たち皆を見て笑わないように気をつけている。


 ニーナの婚約。


 それはセラニーナを良く知る弟子達にとっては衝撃的な言葉だった。


「えっ? 何故? えっ? 本当に? えっ? なんで? アラン王子、気が狂ったの?」


 最初に大きな動揺を見せたのはどんな時でも落ち着いていなければならない国王であるアレクだった。


 セラニーナ時代、数ある結婚話をケリに蹴りまくっていたニーナが齢8歳にて婚約をする……それを知るアレクはもうパニックだ、困惑しかない。当然だろう。


「えっ? ニーナ様、まさかアラン王子を使ってラベリティ王国を乗っ取る気なのですか?」

「えっ? もしかしてラベリティ王国全てをニーナ様の研究所にするつもりですか?」


 声を揃えこれまたニーナに企みでもあるかのような事を言ったのはアルホンヌかクラリッサか……ニーナならやりそうな事、二人はそれを考えたようだ。この勘違いは普段のニーナの行いのせいだろう。


「ニーナ様、もしかしてラベリティ王国にニーナ様が欲しい毒草があるという情報でも入ったのですか? アラン様を人質に……いや、そんな事をしなくてもニーナ様ならば簡単に脅して……」


 ニーナと言えば毒草。


 ベランジェはそう思ったようだ。


 アランと婚約をしラベリティ王国の毒草を独り占めする。


 ニーナなら出来なくはない……まさにベランジェらしい思いつきだといえるだろう。


「ニーナ様……ぐすっ、ぐすっ、おめでとうございます……ニーナ様のお子をこの手に抱けるだなんて……私のこれまでの人生でこんなに嬉しい日はございません。ニーナ様、10人でも20人でも安心してニーナ様そっくりな可愛い子をお産みください。この私が全ての教育を受け持ちますわ。この私が元大聖女の名に懸けてニーナ様のお子を立派な天使に育てて見せましょう!」


 シェリルは嬉しさのあまり、涙を流しながら子育てを受け持つ宣言をする。


 ただアランと婚約したと報告しただけで、シェリルにはもう子沢山なニーナの姿が見えているようだ。


 ニーナは現在8歳の少女。


 どう考えても出産はまだ無理なのだが、シェリルはすぐにでもニーナの子供が欲しいようだった。それは隣に座るユージンも同様で、二人でニーナの子を可愛がろうと手を繋ぎ盛り上がっている様だった。



「ウフフフ……皆様が私をどう見ているのかがよーく分かりましたわ。ウフフフ、安心してちょうだい、何も私はアランごとラベリティ王国を手に入れようとしている訳ではないのですよ」

「「「「そうなのですか……?」」」」

「ええ、勿論ですわ」


 その言葉にガックリと肩を落としたのは楽しい事好きなカルロだ。


 他の皆はラベリティ王国の民の平穏無事を思い、ニーナに攻撃されないことにホッとしていたりなんかしていた。


 ニーナは楽しげな表情で皆を見渡すと、アランとの婚約の一番の理由を伝えた。


「荒れ狂うラベリティ王国に平穏を……私はアラン王子の婚約者として、アラン王子をラベリティ王国の新国王に致しますわ!」


 ラベリティ王国を簡単に滅ぼすこともできるであろうニーナの宣言に、弟子たち皆が 「それぐらいなら良かったと」 ホッとした顔で頷いたのだった。 





☆☆☆





こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

ご想像通りニーナとアランの婚約の報告会でした。弟子達はセラニーナが結婚に興味が無かったことを知っているだけに、幼いニーナが婚約したと聞いて驚きしか有りません。

ただシェリルとユージン夫妻はもうニーナの子供の子育てを想像して楽しみしかない様でしたが、残念ながらその夢は当分は叶う事はないかもしれませんね……まあこのままアランと結婚しても良いかもしれませんが。

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