リチュオル国とラベリティ王国の友好の架け橋

第232話ラベリティ王国からの要請

 ラベリティ王国の聖女要請支援団の一行がリチュオル国のオフショア領に到着したその日、警備隊長の迅速な行動もあり、すぐさま早馬が出され王城へと連絡が入った。


 王の補佐官が書状を受け取り大急ぎで王の下へと駆けつける。


 友好国であるラベリティ王国の危機。


 リチュオル国にとっても一大事だ。


「陛下! た、た、大変でございます!!」


 緊急時故に普段の優雅さとは程遠い動きで、王の補佐官は国王の執務室へ入って行く。


 そして部屋中に「何事だ?!」と緊張が走る中、王の補佐官は国王へと今届いたばかりのホッカホカな書状を差し出した。


「陛下、ラ、ラベリティ王国からでございます……目を通しましたが、ラベリティ王国は今かなりの危機的状況に陥っているようです……」

「うむ、分かった。それにしてもオフショア領に着いてからここまで連絡が来るまでに随分時間が掛かったなー。ああ、そうか、オフショア領は元田舎町だから郵送魔道具が無いのかー。宰相、その采配はどうなってるんだっけ?」

「はい、ラベリティ王国との国境沿いにあるオフショア領ですね。ユージン様からは暫くはオフショア領には何もしないようにと承っております。かの方が目立っても大丈夫な年齢になるまでは手出しをするなと……」

「……目立つなって……それもう無理すぎるだろう?」

「いえいえ、オフショア領にはかの方の魔法が使われておりますから、何の問題も無いと……」

「ああ、そうか、そうだったなー」


 緊急事態だと伝えたにもかかわらず、落ち着き払っている国王と新宰相の会話に補佐官はポカンとする。


 そう、まるで二人ともとっくのとうにラベリティ王国の情報を知り得ていたかのような様子だからだ。


 それに差し出した書状をチラッと見ただけで、内容も全て分かっているかのような表情まで浮かべている。


 すると別の補佐官? らしき人物がいつのまにか書状を届けた補佐官の隣に立っていた。


 王の補佐官が今まで見た事も無い、全く知らない補佐官。


 だが国王も宰相も「ああ、ファブリス、今日の連絡か?」と、ばかに親しげな様子で話しかける。


 ファブリスと呼ばれたその補佐官は「あの方からです……」と腰に付けた小さな鞄から、どう見ても鞄とはサイズが合わない手紙を取り出し国王に渡した。


「ああ、皆、少し下がっていて貰えるか?」


 ラベリティ王国からの重要な手紙の時は人払いなどしなかった国王が、ファブリス補佐官からの手紙には何故か人払いを要求した。


 そして勿論、書状を届けた補佐官にも下がるようにと声が掛かる。


 だがしかし……と補佐官は勿論引き下がる。


「陛下、補佐官は全員話し合いに参加を願います!」


 火急の時なのだ自分も補佐官として話し合いには参加するべぎだ! とそう思ったからだ。


 だが国王は補佐官に可哀想な物でも見るような目を向けて来た。


「ゴホンッ、あー……では補佐官、我が国の最年少男爵の名は分かるか?」

「はっ? 最年少男爵? ですか?」

「うむ……」


 こんな時なのに国王が突然訳の分からない質問をして来た。


 だが宰相も、そして新顔のファブリス補佐官も、陛下の問いかけに納得顔で補佐官の答えを待っている。


 もしや何か試されているのか?


 これは記憶力の問題なのか?


 そう考えついた補佐官は数年前に最年少男爵になった少女を思い浮かべた。


 だが何故かその少女の顔がまったく思い出せない……


 記憶力には自信があったのだが、数年前の事だからそんなこともあり得るか……とどうにか記憶を辿ってみる。


 最年少男爵の髪の色は、瞳の色は、年齢は、家族は……


 と、補佐官が考えても考えてもぼんやりとしか思い出せない。


 そしてたった一言、ある文字が頭に浮かんだ。


「ナ……」

「ナ?」


 何となく出た言葉を陛下に拾われ汗が出る。


 最年少男爵などこの国でも歴史的な事、王の補佐官でありながら「分かりません、知りません、覚えていません」では通らない。


 何とか何とか記憶を辿っていく補佐官。


 するとなーんとなく、なーんとなくだが何かを思い出した。


「ナ……、そう! 確か、ナーニ・イッテンダー、ナーニ・イッテンダー男爵です!! この国の最年少男爵はナーニ・イッテンダー男爵、七歳(※本当は八歳です)です!」


 補佐官の答えを聞き、国王も宰相もそしてファブリス補佐官も、とっても良い笑顔でニッコリと笑った。


 どうやらそれが答えだったらしい。


 残念ながら王の補佐官は名前の登場もないまま、国王の執務室から人払いされてしまったのだった。







「それで陛下、ニーナ様はなんと? またラベリティ王国に関する報告でしょうか?」


 新宰相となったライム・サイダーは、年齢の割に皺のある顔を国王であるアレクに少し近づけ問いかけた。


 実はこのライム・サイダーは、元宰相のユージンに認められる程の天才。


 そしてあの研究馬鹿のチャオと同い年という若さながら、今回宰相に抜擢された程の能力をもつ逸材。


 貴族学校時代、常に学年トップの成績を誇っていたライムだが、同学年の変人チャオにはどうしても敵わない科目があり、チャオに対しライバル心を持っていたりもする。


 なのでそのチャオがいるナレッジ大公領からの連絡だと思うと、自然と眉間に皺がよってしまうのだが、アレクはそんな事には気が付かない程手紙に集中していた。


「話があるそうだ……それも火急の話が……」

「話……でございますか? ではニーナ様が王城へいらっしゃると?」

「ああ、そうだ、明日こちらへやって来ると書かれている」

「それは一大事ではありませんか!」

「ああ……一大事だ……」


 自分は余り目立ちたくは無いと、父であるナレッジ大公が目醒めてからは、王城へと正面切って顔を出さなくなってしまったニーナ。


 それが突然、王との謁見を貴族令嬢として……いいや、ニーナ男爵として申し込んで来たのだ。


 これは何かある! アレクとライムが構えてしまうのも突然の事だった。


「ファブリス、お前はニーナ様が何を話そうとしているのか知っているのだろう?」


 ニーナ一の補佐官であるファブリスは、肯定も否定もせずただ笑顔でアレクの言葉を受けた。


 ファブリスはニーナの第一補佐官だ。


 当然ニーナが何の為に王城へとやって来るのかを知っている。


 だがニーナのゴーサインが無ければファブリスは答える事などしない。


 どっかの思い込みの激しい補佐官とは格が違うのだ。


 アレクとライムの二人には、それがよーく分かっていた。


「ニーナ様は皆様に一緒にお伝えしたいそうです……喧嘩が起きないように……」


 喧嘩と聞いて心当たりしかないアレクは苦笑いを浮かべる。


 皆というのは、セラニーナの弟子達である自分達のことだろう。


 ニーナからの手紙が届かなかった事で、以前アレクが拗ねてしまったことは忘れようの無い思い出だ。


 なんて言ったってこの城が……いや、この国が潰れかけたのだから。


「ファブリス、分かった。お待ちしておりますとニーナ様にお伝えしてくれ、それとラベリティ王国からの書状が今日やっと届いた事も一緒にな……」

「はい、畏まりました」


 その言葉が余韻として残るかのように、ファブリスは返事と共に執務室から消えていた。


「……陛下、ニーナ様のお話が大した事では無いと良いですね……」


 励ましのようなライムの言葉に頷きながら、ニーナからの話で大した事がなかった事などあっただろうか……と、物思いに耽るアレクなのだった。





☆☆☆





こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

新章なので新宰相の登場です。名前悩みました……コークかサイダーか……白猫のその時の気分で決まりました。

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