第230話その頃の聖女救援要請一団
ラベリティ王国からやって来た聖女救援要請一団の一行は、オフショア領にあるベンダーホテルで落ち着いたひと時を過ごしていた。
ラベリティ王国の城を出発してから、気の置けない毎日を過ごしていた聖女救援要請一団の一行。
途中天使に会えた事でどうにか旅を続ける事が出来たが、あの助けが無ければ今頃聖女救援要請一団の一行は魔獣の腹の中で今日を迎えていたかもしれない。
命の危機の危険ギリギリの旅路をずっと過ごしていた聖女救援要請一団の一行は、ベンダーホテルの心地よさに命の洗濯をし、ベンダーホテル自慢のコーヒーを味わい、すっかり違いの分かる男となっていた。
そんな中、美味しい食事と、数ヶ月ぶりのお風呂に十分に満足したアーサー・ストレージは、鍛え上げられた裸体にふわもこのバスローブを羽織り、ラベリティ王国から持ってきた大判の地図を広げていた。
「無い、無い……やはり地図には載っていないな……」
アーサーが地図を広げ、探しているのは噂のナレッジ大公領だ。
オフショア領の警備隊長から聞いた凄い発展を遂げているナレッジ大公領。
アーサーはラベリティ王国を出立する前に、騎士団長としてリチュオル国の領地を調べ直していた。
その時でさえナレッジ大公領など目にも耳にも入って来なかった。
あれだけ時間をかけて調べ尽くしたのにだ。
(もしやそれ程我が国は遅れているということだろうか……)
支援を願う友好国の大領地の領主を知らぬなど、笑われてもおかしくないほど恥ずかしい事だ。
それにアーサーは若いながらも第二騎士団の騎士団長であり、ラベリティ王国一の騎士だと周りから呼ばれるほどの身。
そしてナレッジ大公が ”大公位” だと言うのならば、元王族か王族の親類である可能性が高い。
知らなかった……では済まされない現実に、座り心地が抜群に良いソファへと腰掛けながらアーサーは頭を抱えていた。
「アーサー様、地図を入手して参りました!」
「でかしたぞ! よくやったッ!」
部下の一人が朝一番に街に出てこの国の地図を入手してきてくれた。
アーサーはふわもこバスローブがはだけ自慢の裸体がチラ見えする事も気にせず、部下から新しい地図を受け取ると、まるで勇者がマントを翻すかのようにバサっと地図をローテーブルに開いてみせた。
【オフショア領】
この町で購入した地図だからか、オフショア領が地図のど真ん中に描かれている。
アーサーはそのオフショア領を鍛え上げられたごつごつした指でなぞってみる。
するとオフショア領のすぐ横に、巨大な森とそれを包み込むかのようにナレッジ大公領と描かれた領地を発見した。
だがそれだけだ……
他の領地のように詳しいことは何も書かれていない。
ナレッジ大公領は大きな領地に大きな森がある……ただそれだけだ。
オフショア領と描かれた場所には主要な街や、リチュオル国の王都まで向かう道の名、そして大きな川や山々の名前がきちんと書いてある。
ナレッジ大公領だけがあからさまにおかしい。
アーサーは当然首を傾げた。
「おい、これは不良品ではないのだよな……?」
アーサーの口から思わずそんな言葉が漏れる。
どう見てもナレッジ大公領の領地だけ描き損じてしまった……そんな地図に見える。
アーサーが自らの鍛え抜かれた裸体を自慢するかのように、腕を頭の後で組み考え事を始めていると、アーサーの部屋で朝早くからの仕事で食べ損ねた朝食を口いっぱいに頬張った先程の部下が、モグモグと満足気な咀嚼音を立てながら答えてくれた。
「ふあへっひはいほーほーふぁ、ひゅーひょーひゃひゃふぇもひょひゃありゅひゃら地図ににょヒェらへぇにゃヒィヒャピーふぇヒュよー」
「……」
アーサーは部下に優しい男だ。
だからせっかく楽しんでいる食事を邪魔したくなくて、とりあえず分からない言葉に笑顔で頷いた。
部下が何故アーサーの部屋にそのまま残り、その上当然顔でこの部屋で朝食を摂っているかには少しだけ疑問を感じたが、きっとアーサーに報告したい事でもあるのだろうと我慢をした。
すると部下はそんなアーサーに気付くことなくモシャモシャと口を動かしながら、ホテルの従業員に食事のお代わりのお願いした。
「ほはぁわりー」
「はい、畏まりました」
従業員には部下の言葉が何故かハッキリと分かったようで正しい返事を返してきた。
すると従業員は今度はアーサーへと視線を送ってきた。
アーサーだって騎士団長とはいえ、そこは ”年頃の男の子?” 可愛らしい従業員に見つめられれば悪い気はしない。
もしかして自分の筋肉に興味があるのか? そう気がついたアーサーは既にはだけて広がっていたバスローブの胸元をもう少し広げ、自慢の筋肉を従業員にお披露目してみた。
そして従業員がアーサーに近づきやすいようにと笑顔で声を掛けてみる。
筋肉好きならもっと近くで見たいだろうと、心優しいアーサーはそう思ったからだ。
「ゴホンッ、あー、君、私にもお茶を頂けるかなー? 温かいもので頼むよ」
「あ、はい。畏まりました」
「あー、君はもしかしてコレ(筋肉)が気になるのかな? 良かったらもっと近くで見ても良いし、なんなら触ってくれても構わないが……」
「本当ですか?!」
アーサーが胸の筋肉を動かしながら『触っても良いよ』と従業員を誘ってみれば、可愛い従業員はそれはそれは嬉しそうな笑顔を浮かべアーサーへ近づいてきた。
一夏の恋のランデブー。
いやこの場合 ”旅の恋の思い出” と言うべきか。
この従業員との一時の恋をアーサーが思い描いていると、従業員が触ったのはアーサーの胸筋……ではなく、部下が買ってきた地図だった。
「これはナレッジ大公領が載っている最新の地図ですね……まあ、こんなにも詳しく描かれているだなんて、こちらは最新でありその上一級品の地図ですわ。もしかしてお高かったのでは無いですか?」
えええっ、これが詳しい地図?!
えっ、それより俺の胸筋に触りたかったんじゃないのーーー?!
アーサーが2つの事に同時に驚いていると、どうにか一回目の朝食を終えた部下が満足気な笑顔で答えた。
「分かりますぅ? さっすがこの街の人だなー! 実はナレッジ大公領の名が載ってる地図ってーこれしかなかったんすよー、他のは名もなき土地が広がるだけ、別のを見た時はそこに砂漠があるかと思ったっすよー」
「まあ、お客様、それは仕方ない事ですわ。ナレッジ大公領はこの国一の重要な領地ですもの、誰もが手に出来る街の地図には詳しい事は描かれておりませんの、ああ、でも、領地の方は皆魅力的な方達ばかりで……一度領主様がご家族でこのホテルを見にいらしたのですけれど……もうそれはそれは美しくって……」
お盆を片手に従業員はうっとりとする。
ナレッジ大公一家はどうやら顔が良いらしい。
従業員は仕事中だと思い出すと「すぐにお食事をご用意いたしますね」と顔を赤らめて部屋から出て行った。
残された無駄に胸が見えまくりのアーサーの肩を、部下がそっと叩き「残念っすね」と慰めた。
だけどアーサーは従業員にフラれたことよりも、ナレッジ大公領のことが益々気になったのだった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
今日は蒸し暑かった……出勤しただけで汗だくでした……マスクも交換しました。
久し振りのアーサー登場です。部下君は今の所名前がありません……カルピー・スーとかリアル・コールドとかにしようかなーなーんて考えていました。悩み中です。
何かいい名はないかなー。
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