第225話ディオンの初めてのお友達
「と、と、とにかく逃げようっ!!」
「「えっ?」」
最初に我に返ったのはオシェイだった。
ディオンに吹っ飛ばされのびている先輩達をそのままに、オシェイはディオンとデイゴンの手を取ると全速力で走り出した。
悪いのは勿論イジメをしていたあの三人組だが、ディオンもデイゴンも男爵位の為(※ディオンは本当は大公位です)、何かあった時家格差で二人が罰を受ける可能性は高いだろう。
オシェイはとにかくディオンとデイゴンを守りたいと思い、誰もいないであろう場所へと無我夢中で進んでいった。
そして普段から学園内を一人でブラブラとしていたことが功を奏したようで、どうにか空き教室を見つけると、三人でそこへと転がり込んだ。
地べたに倒れ込み「はぁはぁ」と息切れしているのはオシェイとデイゴンだけ。
ディオンはと言うと……三人で手を繋いで走ったことが楽しかったのか、目に入れると痛いほど楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「追いかけっこしてるみたいだったねー、楽しかったー」
そんな可愛らしい言葉を聞き、「うっ……」と胸を押さえ心臓が痛くなるオシェイ。
隣を見ればデイゴンもやはり胸を押さえ赤い顔になっていた。
二人は「ディオン君の笑顔って破壊力満点だよねー」と出会ったばかりだというのに、思わず目と目で会話が出来てしまう。
やはりデイゴンも、入学した瞬間から人目を惹くほどキラキラとしていた可愛いディオンに憧れがある様だった。
「俺達これで友達だよね! 一緒に悪者と戦った仲間だ。あっ! これってもしかして戦友っていうのかなぁ?」
「「えっ……?」」
「えっ? えええっ? 違うの? 俺達友達じゃないの? 俺そうなったと思ってたんだけど―……」
オシェイとデイゴンが否定したと思ったのか、ディオンの表情が曇る。
シュンとして寂しそうな顔をするディオンは、まるで土砂降りの雨の中に捨てられた子犬のようで、二人共針で刺されるように良心がチクチクと痛んでしまう。
なので勿論オシェイとデイゴンは高速で首を縦に振った。
友達です! と大アピールだ。
可愛いディオンを悲しませるだなんてそんな事は出来ない。
それにディオンの1ファンとして、可愛いディオンにはいつも笑顔でいて欲しかった。
「お、お、おう、俺達友達だよなっ!」
「う、うん、そうだね、あの、二人共助けてくれて有難う! やっぱり持つべきものは友達だよね!」
焦ったオシェイとデイゴンがそう答えると、ディオンが今日一番の笑顔を振り撒いた。
もうこの笑顔は世界を救えると、二人の脳裏にはそんな考えが浮かぶ。
「やったー! 友達ゲットしたー! 俺、ディオン・ベンダー。悪い人間じゃないよ。二人とも宜しくねっ!」
ディオンの至近距離からの笑顔と握手付きの自己紹介のせいで、オシェイとデイゴンはまた胸が痛み出す。
今度はずきゅんずきゅんと変な音がした。
だがここで倒れてはディオンを悲しませるだけ、オシェイとデイゴンは「ぐふぉっ」と変な声が漏れながらも、親友となったディオンの為、どうにか踏ん張り攻撃に耐えて見せた。
「ゴホッ、お、俺はオシェイ・リルゲンガだ……よ、宜しく……」
「知ってるよ! 俺達同じクラスだよね。オシェイって本当美味しそうだなっていつも見てたんだ。リンゲルガって最高の味してるよね! 今度捕まえて来るから、オシェイ、一緒に食べよう。宜しくね!」
オシェイは自己紹介をするといつも怖そうだと言われ怯えられたが、美味しそうだと言われたのは生まれて初めてだった。
それにどうやらディオンは魔獣のリンゲルガが好きらしい。
その上食べたこともある様で、オシェイを見る目がキラキラと輝いている。
これまでオシェイはリルゲンガと言う家名が大っ嫌いだったのだが、今は愛おしいとそう思えた。
ご先祖様感謝いたします!!
ディオンと友人になれた事で、リンゲルガを倒したご先祖様に初めて感謝したオシェイだった。
「あ、あの僕は一年Dクラスのデイゴン・チャットボットです。あの、さっきは危ないところを――」
「……ドラゴンチャントアソボット……?」
「えっ……? えっ? な、なに?」
「デイゴン君!! スッゴイカッコいい名前だねっ!」
「えっ? えっ? な、なにが?」
「最強! 最高の名前だねっ!!」
「えっ? えっ? どこが?」
「俺、デイゴン君と友達になれてすっごく嬉しいよ! 有難うー!」
「えっ? えっ……う、うん?」
デイゴンはディオンが喜ぶ理由も、そして強そうだと言われる理由も全く分からなかったが、余りにも喜ばれたのでもうどうでもよくなった。
ディオンが喜べばそれでいいじゃないか。
それにこの見た目で強そうだなんて言われたことは生まれて初めてで、何だか照れ臭くっ恥ずかしくって、その上嬉しくってムズムズした。
オシェイとデイゴンが自己紹介をしただけなのにディオンに褒められて恥ずかしがっていると、ディオンがそんな二人にもっと驚くような事を言ってきた。
「ねぇ、ねぇ、二人とも今日時間ある? 良かったらウチに遊びに来ない?」
「「えっ? ええっ?! いえー?!」」
「そう、俺の家。二人の事を妹達に紹介したいんだ! シェリーもニーナも二人に会ったら絶対に喜ぶと思うんだ! 俺の親友二人とも最高っ! ってそう言ってくれると思うんだよねー。俺ね、二人と知り合えたことが本当に嬉しんだー! だから妹たちに会ってくれる? ねえ、どうかな? ダメ? 忙しい?」
オシェイもデイゴンもディオンに期待がこもった瞳で見つめられると、もう断る事など出来なかった。
それに妹たちに紹介したいと言って貰えたことは素直に嬉しかった。
ディオンと本当に友達になれた。
何故気に入って貰えたのかは全く分からないが、とにかく好まれている。
その事実が何よりも嬉しいオシェイとデイゴンだった。
「ディオン!!」
「えっ? ウィル? どうしたの? なんで俺の教室にいるの?」
ディオンがオシェイとデイゴンと一緒に自分たちの教室がある東棟へと戻って行くと、何故かウィルフレッドが一年Bクラスの前で待っていた。
ウィルフレッドはディオンを見た瞬間に目を輝かせたが、その次の瞬間ディオンがオシェイとデイゴンと手を繋いでいる事に気が付き愕然とする。
思わず自分がこの国の王子だということも忘れ、その手を睨みつけてしまう。
ディオンと一番の友人になるのはこの自分! そう思っていたから手を繋いで歩くなど羨まし過ぎたのだ。
突然の王子の登場にオシェイとデイゴンが「ひぃ……」と息をのむ。
ディオン君てばなんで王子様と知り合いなのー? と二人してディオンを見つめる。
それに「ウィル」とかって気軽に呼んでるしーっ!! と心の中で悲鳴を上げていたのたが、それさえもウィルフレッドには仲良さげに映ってしまう。
するとそんな様子に気が付いたからか何なのか、ディオンが友人たちの紹介を始めた。
「ウィル、この二人は俺の親友だよ。こっちの美味しそうなのがオシェイで、こっちのドラゴンっぽいのがデイゴン。二人とは拳と拳で語り合った戦友でもあるんだ。ウィル、宜しくね」
「し、親友で……戦友……だと……」
その言葉にウィルフレッドはガクガクと震え、試合に負けたかのように肩を落とす。
ディオンの親友になろうと頑張って東棟までやって来たのだが、美味しそうな奴とドラゴンみたいな奴にその座を奪われてしまったようだ。
どうにか手を差し出し「……よろ、しく、な……」と握手をしてみたが、まったく力が出ない。
ウィルフレッドは初めて失恋したようなそんな気持ちになっていた。
「それでね、オシェイ、デイゴン、これが俺の兄弟みたいな友達のウィルフレッド。妹とも仲が良いんだ。二人も仲良くしてね」
その言葉を聞いた瞬間、ウィルフレッドは復活した。
しゃっきりとした素敵な王子に戻ることが出来た。
『兄弟みたいな友達』
もうそれって最高じゃないかっ!
遠慮気味に「よろしくお願いします……」と頭を下げるオシェイとデイゴンに「気軽にウィルと呼んでくれ!」とご機嫌なことまで言ってしまう。
『妹とも仲がいい』
それはウィルフレッドとシェリーの事を示すのか、それともディオンとアンジェリカの事を示すのか……ディオンの心の内は分からなかったが、”仲がいい” という事がウィルフレッドにとっては何よりも重要だった。
学園での友人以上の存在。
家族みたいな関係。
ウィルフレッドは、それってもう婚約したも同然だよね! とそんな風に感じていた。
「あ、そうだ。ウィルも今日俺の家に遊びに来る? オシェイもデイゴンも遊びに来る予定なんだー」
「い、い、い、家に?」
「うん、王都の家ならウィルも来たって大丈夫でしょう? 今日はね、シェリーとニーナが俺の様子を見に来る予定なんだー。だから良かったらウィルも遊びにおいでよ。シェリーもきっと喜ぶよ」
「行くっ!!」
ウィルフレッドは誰にも相談せずに速攻でそう決めた。
王子だから外出許可が必要だとかもうそんな事はどうでも良かった。
お爺様の友人であるニーナ様のいる家ならば、自分が遊びに行っても問題は無いだろう、と一緒んでそう考えついたからだ。
それになによりシェリーに会える。
ウィルフレッドに断る理由などどこにもないのだった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
ディオンのお話もう暫く続きます。ウィルフレッド……なんとか無事ディオンに会えました。良かった良かった。それにしても……美味しそうな友達って……シェリーが食べちゃいそうで怖い。(;'∀')
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