第226話ディオンとお友達のお友達

「ウィルフレッド様ー! お待ちくださーい。一緒に帰りましょー」


 授業が終わり、各クラスのホームルームも終わると、ウィルフレッドは優雅に見えるギリギリラインを保ちつつ教室を飛び出した。


 すると案の定、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえてきた。


 この声の主はザカライ・コロケーションだと、ディオンの家に行く事で普段よりも第六感がキレッキレに冴え渡っているウィルフレッドにはすぐに分かった。


 昼休みは結局ディオンの下で過ごしたウィルフレッド。


 ディオンから自宅へと誘われた上に、家族認定までされた為とても幸せな気分だった。


 これがシェリーならばふわふわと浮いていた事だろう。


 ウィルフレッドとしてはこのまま何ごとも無く放課後を迎えたい。


 そしてディオンの屋敷へ行き、可愛いシェリーとたっぷり話をしたい。


 ウィルフレッドはそんな期待を持っていた。


 しかしご機嫌なウィルフレッドを邪魔するヤツはやはりいた。


 それは空気が読めない男だと有名なザカライだった。


 昼休みにウィルフレッドと過ごせなかった為か、ザカライは高位貴族の子息だという恥も外聞も脱ぎ捨てて、大声でウィルフレッドに声を掛けてきた。


 勿論それでもウィルフレッドは聞こえないフリをする。


 シェリーを愛するライバルは一人でも少ない方がいい。


 ディオンの友人だと紹介されたオシェイとデイゴンの二人も、シェリーに会えば必ず恋に落ちるはず。


 あんなにも魅力的なシェリーに会って、好きにならない方が可笑しいのだ!


 だからこそザカライの声掛けにウィルフレッドは絶対に振り向きたくは無かった。


 だがこの国の王子として廊下を走って逃げる訳にはいかない。


 つまりウィルフレッドは早歩きしか出来ない訳で……


 気がつけばザカライはウィルフレッドに追いついていた。


「ウィルフレッド様ー、一緒に帰りましょうよー。それでですねー宜しければそのまま我が家にいらっしゃいませんか? 父もウィルフレッド様にお会いしたいと申しておりましたー」


 ザカライはしつこい。


 本当にしつこい。


 トイレまでも追いかけてくる。


 幼い頃から顔を合わせる機会の多かったウィルフレッドはそんなザカライのしつこさを良く知っていた。


 夜会などで顔を合わせるものならば、ベッタリとウィルフレッドに絡みついて側から離れない。


 子供だけのお茶会ではずっと話しかけてくる。


 だけど今日は……今日だけは! 絶対にザカライを引き離す!


 ウィルフレッドはそんな気合いを入れザカライに話しかけた。


「ゴホンッ、あー……ザカライ、済まないが私は大切な友人との約束がある。なのでコロケーション家にお邪魔する事は出来ない。では、これで、さよなら! また来週ー! ごきげんようー!」


 ウィルフレッドはキッパリハッキリ断って、手を振りザカライからダッシュで離れた。


 だけどザカライはやっぱり付いてくる。


 それも当然だ、帰る二人が向かう場所は昇降口。


 なので「さらば」と言ってもザカライはウィルフレッドの歩く速さに合わせしつこく付いてくる。


「ウィルフレッド様ー、ゆ、友人とは、どなたなんですか? まさか、私の知らない者ではないですよね?」


 ウィルフレッドは聞こえない。


 今は何にも聞こえない。


「あっ! もしかしてナンデス家の子息とかですか?」


 ザカライとは一緒に帰っていない。


 これはザカライの独り言、自分に話しかけているわけではない。


「それとも何者かが甘言を吐いて近づいてきましたか? 私が振り払いましょうか?」


 そんな質問をザカライは永遠としてくるが、分かれの挨拶をしたウィルフレッドは根性で取り合わない。


 ディオンに会う前にどうにかザカライを巻かないと……


 絶対にシェリーにだけは会わせるものかっ!


 そう思っていたのだが、残念ながら早歩きしか出来ないウィルフレッドの願いは叶う事はないのであった……。


「あー! ウィルー! こっちこっちこっちだよー!」

「ディオン!!」


 シェリーに良く似たキラキラした笑顔でディオンがウィルフレッドを元気に呼んでくれる。


 眩しくって眩しくって目が潰れそうなほどのディオンの笑顔が凄く嬉しい。


 だがその影響なのか、帰りがけの生徒が可哀想な事に何人かフラついている。


 そしてウィルフレッドに無理矢理付いてきたザカライはというと……『驚愕』という言葉がピッタリな表情を浮かべ、固まっていた。


 ザカライはディオンの笑顔に驚いているのか、それともウィルフレッドに対する気軽な対応に驚いているのか、はたまた本当にウィルフレッドの友人が待っていた事実に驚いているのかは分からなかったが、目の端にその『驚愕』しきった顔を見たウィルフレッドは、コロケーション侯爵にそっくりだなぁとそんな呑気な考えが浮かんでいた。


 そんなザカライを顧みず、ウィルフレッドはディオンに近づいていく。


 するとディオンしか目に入っていなかったが、昼休みにディオンから紹介された二人の友人、オシェイとデイゴンも一緒に昇降口で待っていた。


 そしてもう一人、ウィルフレッドが顔と名前を良く知る少年がディオンと一緒にいた。


 彼の名はクリス・ナンデス。


 ナンデス侯爵家の子息だ。


 ウィルフレッドが気になるのは、クリスが当然顔でディオンの横にいる事だった。


「ウィル、クリスを知ってるでしょう? クリスも俺の家に誘ったんだー。クリスは俺の親戚だから絶対に仲間から外せないしね。それに妹達もクリスが来れば喜ぶし、ウィルも嬉しいでしょう?」

「あ、ああ、勿論だ……ナンデス殿、いや、クリス、ディオンの親友(・・)のウィルフレッドだ。気軽にウィルと呼んでくれ、学園では身分は関係ない。我々は同級生だ。仲良くしよう」


 ウィルフレッドは頑張った。


 ディオンとクリスの親しさがとっても気になったが、顔には出さずどうにか頑張った。


 それに親戚(・・)だと紹介されたクリスとシェリーがどれぐらい仲が良いのかもとっても気になったが、ウィルフレッドは顔に出さず気合で頑張ってみせた。


 流石この国の王子といえるだろう。


「ウィルフレッド様、有難うございます。ではお言葉に甘えてウィル様と呼ばせていただきますね。今日は親戚(・・)のディオン君にご自宅に誘って頂きました。凄く楽しみでワクワクしています。どうぞディオン君共々宜しくお願い致しますね……」


 王子であるウィルフレッドを前にしてもクリスは緊張することなくキチンと挨拶が出来た。


 叔父の結婚式で初めてベンダー三兄姉妹と会ったあの衝撃を思えば、王子と遊ぶ事などなんでもなかった。


 王子と言えど一人の人間。


 天使と比べれば何でもない。


 クリスもまたウィルフレッドと同じようにベンダー男爵家の子供たちに毒された一人なのだ。


 そんな二人はガッチリと握手をし、恋のライバルである事をお互いに感じ取っていた。


 あの可愛いシェリーは絶対に譲れない!


 シェリーをお嫁さんにするのはこの私だ!


 二人の目にはそんな熱が見てとれた。


 バチバチと恋のライバル二人の挨拶が行われている最中、ディオンは楕円形の顔に目をまん丸にして、その上口を大きく開けて真っ赤になっている少年に気が付いた。


「あの、もしかして君はウィルの友達?」


 ディオンが話しかけると、ザカライの顔はトマト以上に真っ赤になった。


 楕円形の顔とその上髪型がトマトのヘタのようなので、今のザカライは本当に真っ赤なトマトにそっくりだ。


 側で様子を見ていたオシェイとデイゴンはザカライの心境がよく分かり、ディオンの後ろで「うんうん」と頷いていた。


 それが普通の反応だよ、ディオン君を見たら絶対そうなるよねー。


 と、二人はまるでそう言っているかのようだった。


「えーと……良かったら、君も、ウチに遊びに来る? ウィルの友達は俺の友達でしょう?」


 声を無くしたザカライは、ただただ素直に頷いた。


 ディオンと仲良くなりたい!


 ザカライはディオンと出会った事でこれまで執拗にウィルフレッドを付け回していた事などすっかり忘れ、ディオンに魅了されていた。


 ディオンがどこの誰かなど関係ない。


 ただその美しい顔を見ていたい!


 ザカライは出会ったその一瞬で、あっと言う間にディオンに毒されてしまった。


 可愛そうに……ここにまたベンダー男爵家の被害者が出たようだ。


「じゃあ、皆で行こうかっ!」


 ディオンの明るいお誘いに皆が力強く頷いたのだった。




☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

来週の水曜日は投稿お休みさせて頂きます。白猫夏休みを頂きます。今年はしっかりと楽しんできたいと思います。m(__)m


さてさてザカライ君、ディオンに魅了されてしまいました。お気の毒です。

彼はこれからもっとお気の毒になって行くかもしれません……頑張れザカライ!

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