第223話ディオンの気になる同級生

「ディオン! ディオンはいるか? 昼休みだ、一緒に食堂へと行こうではないかっ!」


 リチュオル国の王子ウィルフレッド・リチュオルことウィルが、昼休みの長い休み時間を利用して、やっと……やーっとディオンがいるBクラスへとやって来た。


 休み時間の度にAクラスの生徒達にまとわりつかれるウィルフレッド。


 皆未来の国王とどうにか仲良くなろうと躍起になっているため、わらわらとウィルフレッドを取り囲み、ウィルフレッドの都合など何も考えず、傍へと寄って来てはどうでもいい話を話しかけてくる。


 本当はそんな輩達は蹴って蹴って蹴り飛ばして、大事な友人であるディオンの下へと走って行きたかったのだが、そこはウィルフレッドもやはりリチュオル国の立派な王子。


 貴族学校の中とはいえ他貴族の子供たちを無下には出来ないし、見苦しい姿を見せる訳にもいかない。


 いずれ彼らはウィルフレッドの家臣となる子供たちなのだ。


 王子として憧れられる存在でいなければ、忠誠心など消えてしまうだろう。


 それにウィルフレッドの行動は逐一チェックされ、彼らの親へと報告されているはずだ。


 一度でも馬鹿王子などと評価されてしまえば、ウィルフレッドの治世に乱れが起きる可能性も無くはない。


 なので勿論ウィルフレッドは王子として笑顔で皆の対応をしていたが、それでも長い休み時間だけは絶対にディオンに会いに行こうとそう心に決めていた。


 だがそこでウィルフレッドの邪魔をしてきたのが幼いころから良く顔を合わせているコロケーション侯爵家の子息ザカライだ。


 ザカライはウィルフレッドの隣のクラスであるCクラスなのだが、昼休みになると必ずウィルフレッドの前に現れ、「ウィルフレッド様ー、今日も一緒にお昼を摂りましょうよー」と当然顔で誘って来るのだ。


 ウィルフレッドの希望としては、ディオンと仲良く二人きりでお昼を摂って、シェリーの話で盛り上がりたい! という物だったのだが、親の知り合いの子であるザカライを無下には出来なかった。


 仕方なく誘われるたび、一緒にお昼を摂ってはいたが……それももう限界。


 ウィルフレッドはディオン欠乏症を起こし始めていた。


 それなのにザカライは毎日毎日嫌がらせのようにウィルフレッドを誘いに来る。


 そして同じクラスに友人がいないのではないか……? とウィルフレッドが心配になるほど、ザカライは休み時間のたびにまとわりついてくるのだ。


 同情はするが、ディオンとの友情が一番大事。


 そう、この学園生活中にディオンの心の友になりたいと願うウィルフレッドは、流石に痺れを切らした。


 こんなに近くにディオンがいるのに、入学からまだ一言も口を利いてはいない!


 それにもし自分より仲の良い友人が、ディオンに出来てしまったら……


 そしてその友人が気軽にナレッジ家の屋敷に招待され、あの可愛いシェリーと仲良くなってしまったら!


 そんな事は絶対に耐えられない!!


 それに死んでも死にきれない!


 絶対に嫌だーーー!


 という事で……今日のウィルフレッドは強い決意を固めていた。


 そう、絶対にあのしつこいザカライが来る前に自分の教室を出てみせると……そう決めていたのだ。


 そして無事に脱出に成功したウィルフレッドは、ディオンの教室である、東棟の一年Bクラスに飛び込んだ。


「ディオン、ディオンはどこだ? 誰かディオンを呼んでくれーーーー!」


 この国の王子が突然自分達のクラスに飛び込んで来た為、困惑し固まる一年Bクラスの生徒たち。


 それも呼び出して欲しいと言っている相手は、クラスのアイドルディオン・ベンダーだ。


 皆ディオンの魅力に敗北し、同じクラスの仲間以上に仲良くなれていない中、王子は既にディオンと友人関係の親しさがあるようで羨ましい。


 だけど何故男爵家のディオンと、ウィルフレッド王子が友人なのかが分からない。


 二人は一体どうやって知り合ったのだろうか?


 もしかしてディオン君はすれ違っただけでウィルフレッド王子を魅了しちゃったのだろうか?


 そんな正解であり当たりのような疑問を皆が頭の中で考えていたため、王子であるウィルフレッドの質問に誰もが素早く動くことができなかった。


 そんな中「ディオン、ディオン」と五月蝿いウィルフレッドの声に、やっとこさハッとした生徒が一人生まれた。


 王子と会話をするなど一生分の奇跡をまた使ってしまうかもしれないと焦る少年。


 実はこのクラスの生徒たちは皆ディオンに大注目している為、ディオンがどこにいるかをほぼ把握できていた。


 いや、正確には ”ディオンがどこかへ行った事を知っている”……程度と言う方が正しいだろう。


 一年Bクラスのラッキーボーイは自己分析の奇跡を使い、一生話など出来ないと思っていた王子であるウィルフレッドの質問に緊張しながら答えた。


「ウィ……ウィルフレッド殿下、ディオン君は……そのー、授業が終わったあと、こ、この窓から出ていきました……」


 その言葉を聞いたウィルフレッドはその場に崩れ落ちた。


 一年Bクラスの生徒たちはウィルフレッドのその行動を心底理解できた。


 ディオン君に会えないって、本当辛いよね……


 ウィルフレッドのそんな心境が良く分かる一年Bクラスの面々は、倒れ込んだウィルフレッドをどうにか支えて上げたのだった。


 可哀想だがベンダー家の被害者であるウィルフレッドには、もう少し頑張ってもらうしか無いだろう。


 負けるなウィルフレッド!


 君にもきっと春は来るはずだ。





 そしてそんな騒ぎを自分のクラスに引き起こしているとは全く知らないディオンは、クラスの窓から抜け出し、ある生徒の後をこっそり付けていた。


 入学してその生徒と同じクラスになってから、ずっと彼の事を気にしていたディオン。


 どうにか友達になりたいと毎日チャンスを狙っていたのだが、その少年は休み時間になるといつもどこかへ消えてしまうのだ。


 その事で尚更その少年の事が気になりだしたディオン。


 もしかして彼は消える魔法とかを使えるのかもしれないとそう思った。


 そしてそんな気になる彼と友人になる為には、拳と拳、それか体と体をぶつけ合わないといけないらしい……


 なのにディオンがぶつかりたくても、彼はいつもどこかへ行ってしまう。


 友達になりたいのに、ぶつかるタイミングが全然無い!


 流石に野生児ディオンだって授業中や、教室内でぶつかってはいけない事ぐらいは分かる。


 なのでディオンは考えた。


 本当に真剣にアルホンヌの言葉を考えた。


『友情ってのはな、戦いの中で生まれるもんだ!』


 そうか、そうなんだね、アルホンヌ師匠! 一緒に戦うだけでも友情って芽生えるものなんだねっ!


 ならば彼より先に教室を飛び出し、休み時間のたびに彼がどこへ行くのか調べれば良いだろう。


 そして彼がどこにいるかが分かったら、そこでぶつかり友情を深めれば良い。


 それにもし彼が敵に囲まれているのならば、一緒に戦えばそれで友情は生まれるはず。


 アルホンヌに余計な事を教わったことで危険思考に陥っているのだが、それにまったく気が付かない純粋なディオンは、その作戦に自信満々で頷いた。


 なので教室の窓から抜け出すと、屋根を伝い廊下側へとスイスイッと移動した。


 そして魔法で自分の存在を出来るだけ消すと、気になる少年の後をひっそりと付けて行った。


 これだけ目立つ容姿のディオンが廊下を歩いていても、ニーナ直伝の魔法のおかげで気がつく者は誰もいない。


 なんとなく誰かが廊下を歩いている。


 今のディオンの存在はその程度の感覚だ。


 なのでディオンは遠慮なく気になる少年の後をつけた。


 その少年はディオンと同じ一年生でありながら、とても背が高く、三年生と間違われるほど立派な体躯をしている。


 それだけでもディオンの気を引いて仕方がないのだが、彼の髪の色がオレンジ色と、またとても目立つ色をしていた。


 そして彼の顔付きは、ディオンと同い年とは思えない程男らしく、キリッとしてギュッとしてパッとしてカッコイイ。


 他の同級生からみれば彼の顔は怖そうな顔付きに思えるのだが、ディオンは怒り狂った時のアルホンヌやクラリッサの姿を思い出し、彼の事を一目見てカッコイイ! とそう思ったのだ。


 その上ディオンの気を引いた一番重要な事があった……そう、それはディオンが気になるその少年の名が、オシェイ・リルゲンガと言うことだった。


 美味しいリンゲルガ。


 クラスの自己紹介中に彼の名がそう聞こえたディオンは、オシェイの事が超絶美味しそうに見えて仕方なかった。


 絶対に美味しいリンゲルガ君と……ううん、オシェイ・リルゲンガ君と友達になろう !


 彼の美味しそうな名を聞いて、そう決めたディオンなのだった。




☆☆☆





こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

ディオンの友人予定のオシェイ・リルゲンガ君登場です。美味しいリンゲルガ、彼が何故そんな名になったのかは次回出てくるはず? とにかく早く友達を作ってニーナに自慢してもらいたいです。(話が進みませんからねー)ディオン、ファイトー。

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