第222話ディオン無双

「ベンダー男爵家のディオン・ベンダーです。宜しくお願いします!」


 リチュオル国貴族学校の入学式の翌日。


 とあるクラスで一人の少年が大注目を浴びていた。


 そう、その少年こそ、ベンダー家の長男、ディオン・ベンダー。


 いやいや、本当の名はディオン・ナレッジ。


 そんなディオンは若葉香る学園内で、光り輝く危険な笑顔を放ち、同級生たちを魅了していた。


 そして同級生たちからの熱い視線を多いに集め、元気よく自己紹介をしたディオンが配属されたクラスは、一年Bクラス。


 リチュオル国の貴族学校では高位貴族、低位貴族が身分関係なく交流できるようにと、一年時だけは成績と家格を考慮し、どのクラスも同じレベルになるようにクラス分けされている。


 今年度は王子であるウィルフレッド・リチュオルがAクラスにいる為、次に位の高い男子であるナレッジ大公家のディオンは、必然的にBクラスになったのだ。


 そしてコロケーション侯爵家のザカライはCクラス、ナンデス家のクリスはDクラスとなっている。


 全部で6クラスもある一学年は、A、C、Eクラスが西棟、そしてB、D、Fクラスが東棟となっており、西、東の各棟に分かれた3クラスが交流しやすい形になっている。


 そして2学年に上がる際はクラス替えがあるのだが、その時は一番に成績が考慮され、成績順のクラス分けとなる。


 つまり一学年の内に高位の貴族と接点を持たなければ、幼い頃から優秀な家庭教師に教育を受けている高位貴族の子供達とは、普通に考えて低位の貴族家の子は同じクラスになる事は難しくなるのだ。


 元々貴族間では高位と低位の貴族ではそれほど交流がない。


 この学園にいる間に伝手を作っておくことが重要になる。


 低位の子供たちが優秀ならば、学年が上がっても高位の貴族家の事同じクラスになることはたやすいが、それ程優秀な子は各学年に数名いるかどうかの確率だろう。


 本人が飛び抜けて優秀で無ければ、高度な教育を受けて来た高位の貴族家の子とずっと同じクラスでいることは難しいだろう。


 なのでこの平等に分けられる一年次こそ、低位の子にとっては大事な一年で有ったりもするのだ。



 そしてそんな平等に分けられたクラスの中で、生徒たちの視線を一身に浴びながら、ナレッジ大公家の息子……ではなく、今まで通りベンダー男爵家の子息だと名乗っているディオン。


 そこは意図したものではなく、習慣で 『ディオン・ベンダー』 だと言ってしまっただけで、ディオンに罪はない。


 普通ならば自己紹介で ”男爵家の子息” などと名乗ったものならば、相手にされない物だったりするのだが、そこは輝く魅力が溢れ出て、無駄に顔が良いベンダー家の長男ディオンだ。


 このクラスに……いや、この学園に一歩足を踏み入れた瞬間から周りの皆を魅了していた。



 あの子は誰?


 ベンダー男爵家なんて聞いた事もないわ。


 あの輝き、もしかして天使? 天使なの?


 あの笑顔! ずっと見ていたい!


 同じ空気を吸えるだけで幸せだわ!



 と、男女問わずディオンに釘付けで首ったけだ。


 そしてそんなディオンと同じBクラスになってしまった被害者達……いや、生徒達は、自分の全人生の幸運を全て使いきってしまったかもしれないが、それでも悔いはない! とディオンと同じクラスになり、そのキラキラと輝く笑顔を見て心底喜んでいた。


 ディオン・ベンダー。


 そう名乗っただけのディオンだったのだが、その元気いっぱいな姿と、笑顔と、可愛らしい声で、クラスの生徒たちのハートを鷲掴みにした。


 勿論、担任教師のキン・パッチオンも被害者の一人だ。


 もうディオンが天使にしか見えない。


 そんなディオンと、一年間同じクラス。


 それは途轍もない幸運だと誰もが感じているが、ある意味可哀想な生徒たち(プラス教師)だと言えるのかもしれない。






「ベンダー様、おは、おは、おはっよーう、ごじゃります」

「おはよう! あ、今日の髪飾りは花の形なんだねー。とっても似合ってるよ、可愛い!」

「ひゃいっ、ひゃ、ひゃりがとうでごじゃりますわ」


「や、やあ、ベンダー君、お、お、おは、ようん」

「おはよう! あ、肩に何か付いてるよ、花びらかな? 俺がとってあげるね」

「ぎゃっ、ははりひゃとー」


 勇気あるチャレンジャー達がディオンに話しかける。


 せめて挨拶をして近くで笑顔が見てみたい。


 そしてあわよくば、自分の顔を覚えて貰いたい。


 そんな細やかな期待からだ。


 だが皆ディオンによって返り討ちにされる。


 挨拶をしただけで死にかけるのだ。


 なので当然まだディオンには友人と呼べる人物は出来てない。


 貴族の子は笑顔であっても心の中では何を考えているかは分からないものだと、ディオンを心配するニーナやシェリルから口酸っぱくなるほど指導されてきたディオン。

 

 なのでディオンを見て顔が緩み切っている同級生を見ても、本当に自分に好意を抱いているのか良く分からない。


 もしかして挨拶もこちらの様子をうかがっているのかな? と半信半疑だ。


 まあ、ハッキリ言ってディオンに声を掛ける生徒など好意しか持っていないと思うのだが、会話にならないためディオンにそれが伝わらない。


 それにとある生徒たちの心の中にある 『ディオンとどうにかなりたい』 と、そんな邪な思いを、ディオンは本能で察知し警戒しているのかもしれない。


 だがやはり、せっかく学園に入学したのだ、そこは勿論友人が欲しいディオン。


 それは当然だろう。


 今まで同い年の子供たちとは交流など殆ど無かったのだ。


 友人に飢えていると言っても良い。


 なのでディオンは最終奥義とも呼べる、アルホンヌから教わった悪手を実践してみようと思い付いてしまった。


 はてさてディオンの本気のぶつかり合いに耐えられるだけの生徒がこの学園にどれほどいるものか……


 そしてディオンのこの見た目の可愛さに翻弄されず、友人となるために自己紹介が出来る者がいつ現れるのか。


 それは今のところ誰にも分からない事だった。








 そんな中、ディオンとは棟が離れたクラス、一年Aクラスとなったウィルフレッドは、王子として同級生達に笑顔を振り撒きながらも、一人焦りまくっていた。


 折角ディオンと毎日顔を合わせられる貴族学校に入学したのに、まさかまさかの別クラス。


 いや、クラスが離れることは王子と大公家の子息という事で、それなりに覚悟はしていたウィルフレッド。


 だが、入学したら絶対の絶対にディオンの一番の友人となり、親睦を深め、誰も間に入れない程に仲良くなり、今以上に親交を深めようとそう心に決めていた。


 ディオンの妹であるシェリーが好きだから……と言う邪な理由だけでなく、ウィルフレッド自身がディオンのことも大好きだからこそ、そう決意していたのだ。


 それに……


 とにかくディオンは、その姿を見ているだけで幸せにさせてくれる。


 その上、ウィルフレッドを王子としてではなく、一人の男の子としてディオンは見てくれる。


 それにディオンは、何と言っても強くてカッコイイ。


 ディオンにそんな憧れもあるウィルフレッドは、親友ポジを絶対にゲットしたいと思っていたのだが、今現在ウィルフレッドと仲良くなろうと躍起になっている生徒たちに、ディオンがいる東棟へと向かうのを阻止されていた。


 特にコロケーション侯爵家の子息ザカライが、休み時間の度にウィルフレッドの下へとやって来る。


「ウィルフレッド様~」と話しかけられれば、王子として無視するわけにもいかない。


 ウィルフレッドのディオン親友ポジゲットの目標は前途多難。


 そんな賑やかな子供たちが集まる学園生活は、今始まったばかりなのだった。





☆☆☆





こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

ディオンに見つめられると、心が潰れてしまうかもしれません……皆早く耐性を付けてディオンになれて欲しい。その頃にはクラス替えかもしれませんが、とにかく慣れるしかありません!


一年Bクラスの担任の先生の名は……キン・パッチオンです。てへっ、遊んでいます。いつかセリフあるかなー?

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