第221話ディオンの楽しい学園生活

「ゲルマン、おはよう!」

「ディオン様、おはようございます。今日も元気いっぱいで素敵ですね」

「うん、ありがとー。だって今日も学校があるからね。俺、マブダチ作り、すっごく楽しみなんだ」

「はい、ディオン様ならきっと素晴らしいマブダチをゲットできますよ。師匠のアルホンヌ様も応援して下さっています。今日も頑張ってくださいねっ」

「うん! 俺、頑張るよ!」


 ベンダー家の長男、ディオン。


 ディオンは良い成績で試験を通り、無事にリチュオル国の貴族学校への入学が決まった。


 そして今現在、王都にあるニーナの屋敷でゲルマンと一緒に暮らしている。


 ゲルマンはニーナ一の補佐ファブリスに指導を受け、兄グレイスと同じように転移の力を手に入れた。


 なのでディオンとゲルマンは学園がお休みになる週末は、ナレッジ大公領へと転移で気軽に戻り、今までと変わらず家族と生活をしている。


 学園には寮も有るのだが、ディオンの男性さえ惹きつけてしまう程の恐ろしい魅力と、そして気軽に帰省出来ることを考慮し、王都の屋敷でゲルマンと仲良く生活することに決めたのだ。


 もしディオンが学園の寮で生活していたとしたら……


 お年頃で異性に目覚めるはずの男子生徒達は、同姓であるディオンへの愛に目覚めていたかもしれない……


 寮内には各個室にバスとトイレもついてはいるが、部活動等での先輩後輩の交流を図る為、大勢で入れる大浴場なる物も完備されている。


 もしそこに、無駄に人を惹きつけ、そして無駄に顔が良いディオンが足を運んでしまったら……


 考えるだけでも恐ろしい程の被害者が出ていただろう。


 それに男子と女子は寮の棟が違うとはいえ、ディオンが傍にいると知ってしまった女子生徒たちは、ディオンの事が気になって気になって夜も満足に眠れなくなっていたかもしれない。


 下手をしたら、ディオンの部屋へと忍び込む可能性もあるだろう。


 そんな危険を考慮し、ニーナとシェリルが相談の上で決めた王都の屋敷生活。


 もはやそれは学生たちの命を二人が守りきった……妙案だとも言えるだろう。


 そんな事に全く気が付かない天然男子なディオンは、始まったばかりの学園生活に胸を弾ませていた。


 そう、師匠であるアルホンヌ直伝の ”マブダチの作り方” を実践できるからだ。


『いいか、ディオン、男の友情ってやつはなー。体と体のぶつかり合い、それと拳と拳で語りあう……それが大事なんだ! 男同士の友情ってやつには言葉はいらねー。大事なのはここ! (アルホンヌ、胸をドンと叩く) 熱いハートだ! 友情ってもんは作るもんじゃねー。戦いの中で生まれるもんなんだ。良いか、ディオン、気になるやつが居たら思いっ切りぶつかってみろ。それだけで心の友、マブダチってやつが出来るはずだ。ディオン、お前なら大丈夫。だってお前は俺の弟子なんだからなっ!』


 入学前にアルホンヌからそんな指導を受けてしまったディオンは、素直に言葉を聞き入れ、早く学園の生徒とぶつかりたくって仕方がなかった。


 だけど今の所、ディオンにぶつかって来てくれる同級生はまだ居ない。


 だったら自分からぶつかって行くしか無いだろう。


 脳筋師匠のアルホンヌの言葉を真に受けてしまったディオンは、そんな危険思考に陥っているのだった。



「そうだ、ゲルマンは従者のお友達は出来たの?」

「いえ、私もまだ友人は出来ていません。何しろ私はディオン様が勉強中は学園には残らず、いつも転移で屋敷に戻っていますので、残念ながら今の所 ”友人” と呼べるほどの人物はいないですねー。ですがミューちゃん様からは友人作りの心得を教えて頂きました。ですのでこの屋敷にディオン様のご友人が集まれば、自然と私にも友人が出来るそうなのですよ」

「そうなんだ! じゃあ俺頑張ってマブダチになりたい子にぶつかってみるよ。ゲルマン、楽しみにしていてね」

「はい。ディオン様、楽しみにしておりますよ」


 アハハと可愛く笑い合うディオンとゲルマン。


 友人の作りの心得を聞いた相手が悪かったばかりに、二人は大きな勘違いをしているようだ。


 自称ニーナ一の補佐であるミューちゃん曰く……


『宜しいですか、ゲルマン。従者の友情とはですね、主あっての物なのです。ですから主の友は従者の友。そして主の敵は従者の敵。ディオン様に害をなそうとする生徒がいたならば、切って切って切り捨てて、そして主を守りきって下さって良いのですからね。良いですかゲルマン、ディオン様に邪な想いを持ち近づいてくる学生がいたとしたら、なんの遠慮もいりません。ナレッジ家は大公位、誰にも文句は言えない程の家格を持ち合わせている家なのです。ですから愚かな生徒など問答無用で切り捨ててしまいなさい! それにもし困った事が有ったとしたならば、このバーソロミュー・クロウを呼んでください。ニーナ様の一の補佐としてディオン様をこの私が守り切って見せますよ! 私にお任せあれっ! ハーッハッハッハッ!』


 ゲルマンはミューちゃんの言葉がいまいち良く分からなかったが、取り合えずディオン様に攻撃を仕掛けて来る者にはなんの遠慮もいらないと……それだけは十分に理解した。


 そしてディオンに友人が出来たならば、ゲルマンはその従者と仲良くなりなさいと、貴族学校をうん数年前に卒業したミューからはそんな指導を受けた……のだと、多分理解した。


 つまり主の友は自分の友。


 それぐらいの感覚でいけと、ミューちゃんはそう言っているのだとゲルマンは受け取った。


 という訳で……


 ディオンもゲルマンも学園生活が始まる前から大きな間違いを犯していた。


 友人はぶつかっていけないし、従者が生徒を切り捨てるなどもってのほかだ。


 そう、ディオンとゲルマンは、本当に相談した相手が悪かったのだ。


 だがディオンはアルホンヌを師と仰ぎ。


 ゲルマンはミューを先輩? として尊敬している。


 それでも出来ればディオンはアランかクラリッサに、そしてゲルマンはルナー辺りにでも相談し、指示を仰げばよかったのだが……


 まだ若い二人の主従は、どうやら一番身近な人物に相談する、という形で手を打ってしまった様だ。


 ああ……二人の相手となる、学生及びその従者が不憫で仕方ない。


 ここは出来るだけ被害が少ない事を、祈るしか出来ないだろう。




「あ、ディオン様、今日はニーナ様がこちらに来るそうですよ。シェリー様も一緒に遊びに来られるとか……ファブリスさんがそんな事を仰っておられました」

「ニーナが? ええ、何かあったのかなぁ?」

「なんでも国王陛下にご用事があるようですよ」

「アレクおじさんに?」

「はい、大切なお話があるとか……ですのでお城のご用事の前にこちらにいらっしゃるようです。お城には明日にでも登城されるらしいですよ」

「うわー! じゃあ頑張って友達作らなきゃ、ニーナに自慢出来ないよね」

「はい、きっとニーナ様もディオン様のご友人に会えば、学校生活を楽しんでいると安心されると思いますよ」

「うん! ゲルマン。俺、頑張るよ」


 ニーナ訪問の話を聞き、妹大好きなディオンは友人作りに気合いを入れてしまった。


 もう普段以上に瞳がキラキラと輝き、危険信号が感じられる。


 危険、危険、危険過ぎるが、この屋敷にそれに気付く者はどこにもいない。



「ディオン様、ゲルマン様、朝食の準備が整いました」

「はーい、フレーべ、シュナ、有難うー。今行くよー」


 ブリキ人形のフレーべとシュナに声を掛けられ、ディオンはゲルマンと共に食堂へと向かう。


 王都での生活は皆のおかげで順調だ。


 後は友達を沢山作るだけ。


 そんな気合いを入れてしまった為に、普段以上に無駄に顔が良く見えるベンダー家の長男ディオンは、今日こそ! 今日こそは絶対にっ! と、友人を作る為にぶつかって見せると恐ろしい決断を固めたのだった。


 ああ……リチュオル国の貴族学校が平和であることを祈りたいと思う。




☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

やっとディオンの登場です。ディオンはアルホンヌを尊敬しています。そしてゲルマンの指導係はファブリスですが、勿論ミューちゃんも先輩風を吹かせて余計な事をゲルマンに教えています。素直なディオンとゲルマン。皆の指導は有難く受け取るしか無いでしょう。

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