第220話侯爵家のご令嬢
クローディア・マイグレーションは、今父のウオルフ・マイグレーション侯爵と向き合っていた。
このマイグレーション侯爵家は、リチュオル国の五代侯爵の中の筆頭侯爵家。
これまでは現国王であるアレクの妻だったエレオノーラの実家である、ウォーターフォール家がライバルとも呼べる相手だと(勝手に)思っていた。
だが、ウォーターフォール家は表立って争い事を好む家柄ではなかったため、ハッキリ言って五大侯爵の権力はマイグレーション侯爵家の一人勝ちとも呼べる形であった。
それなのにユージン・ナンデスが宰相に就くと、ナンデス家が台頭をあらわし、あっという間に伯爵位から空いていた侯爵位に就いてしまった。
生意気だ、蹴落としてみせる! とどうにかナンデス家を貶めようと策を練っているうちに、今度は馬鹿にしていたクロウ侯爵家までもが力を取り戻し、その上ナンデス家もクロウ家もポッと出ながらも王からの信頼が厚いナレッジ大公家といつの間に縁を結んでいた。
このままでは筆頭侯爵家ではいられなくなる!
と、ウオルフが焦るのも当然と言えるだろう。
マイグレーション侯爵家は元々筆頭侯爵であったシェアード侯爵家が没落した事で、結果的に筆頭侯爵家に繰り上がっただけで実力があった訳ではなかった。
これまで侯爵家として無難に領地運営をし、どうにか国に貢献してはいるが、抜きん出たものが何かある訳では無かったマイグレーション侯爵家。
だがそんな中、一つの希望がマイグレーション家に現れた。
それが娘のクローディアだ。
クローディアは、ちょっと鼻が尖った狼似のウオルフには似ず、美しい妻に似た事で可憐だと称される程の美貌を持った令嬢として産まれた。
王女のアンジェリカが百合の花のようだと例えられるならば、娘のクローディアは薔薇の様な華やかさのある美少女なのだ。
未来の王であるウィルフレッド王子はきっとクローディアを気にいるはず。
ウオルフはそう思い、貴族の子供達の集まりには何度もクローディアを参加させ、ウィルフレッド王子に会わせてみた。
だが、今現在二つも年の差があるためか、ウィルフレッド王子はクローディアの魅力に気がつかない。
クローディアが未来の王妃になるためにはどうしてもウィルフレッド王子に気に入られなければならないだろう。
そんな中、同い年のアンジェリカ王女とクローディアとの間に友情が結ばれた。
きっと年頃になればウィルフレッド王子も、その縁から妹の友人としてクローディアに興味を持つようになるはずだ。
ウィルフレッド王子がクローディアの魅力に気が付くのももう間もなく。
未来の王妃は絶対にクローディアしかいない。
筆頭侯爵家の地位を保つためにも、クローディアを絶対に王妃にして見せる!
可愛い娘と向き合いながら、マイグレーション侯爵は娘にそんな大きな期待を掛けていた。
「クローディア、間も無くウィルフレッド殿下の入学を祝う夜会が王城である。ウィルフレッド殿下とアンジェリカ王女殿下と歳の近い子供達は皆参加予定だ。その時おまえの美しさで今度こそウィルフレッド殿下の気を引くのだ。ウィルフレッド殿下も学園に入るお年頃だ。流石におまえの魅力に気がつくはずだからな」
「……はい……お父様、努力いたしますわ……」
「ハハハ、なに、心配するな、クローディア、おまえは美しい。ウィルフレッド殿下には普通に笑顔で話しかければ大丈夫だ。きっとウィルフレッド殿下はお前に夢中になるはずだからな」
「……はい……」
クローディアは父の言葉に頷いてはみたが、気持ちはとても沈んでいた。
幼い頃から父に言われ、ウィルフレッド殿下にアプローチを試みてはいるが、全くもって成果がないからだ。
それに父は自分とアンジェリカ王女が友人だと思っているが、ハッキリ言って友人と呼べる程の関係にはなっていない。
高位貴族令嬢ということでアンジェリカ王女から話し相手だとは認識されているが、兄(ウィルフレッド殿下)に下心あって近づく令嬢だと思われている為、アンジェリカ王女に本当の意味で心を開いて貰えていないことはクローディアにも分かっていた。
(それに……ウィルフレッド殿下の心にはもう……)
ずっとウィルフレッド殿下だけを見てきたクローディアには分かっていた。
向日葵の花を見るとウィルフレッド殿下が誰かを思い浮かべている事が分かる。
きっとウィルフレッド殿下の心を占めているのは、向日葵の花の様な可愛らしい令嬢なのだろう。
クローディアはどちらかというとキツメな顔立ちだ。
ウィルフレッド殿下の好みが向日葵の花のような令嬢ならば、クローディアは全くタイプではないということだ。
昔から付き合いがあり、これまで散々アプローチをしてきたクローディアが、どう足掻いてもその令嬢には勝てはしないだろう。
話しを終え父の応接室を出たクローディアは小さなため息を吐いた。
未来の王妃などそんな期待をされても憂鬱なだけだった。
夜会など行きたくはない……
クローディアは暗い気持ちのまま自室へと戻って行ったのだった。
「お父様、ナレッジ大公家……ですか?」
「ああ、エリノア、ナレッジ大公家の子息だ。おまえが嫁ぐとしたらそこしか無い。いいか、今度の夜会でナレッジ大公家の子息を探ってみるんだ。使えそうなのか、どうかをな……あまりにも無能であれば、諦めろ、おまえの結婚相手の第一候補はコロケーション家のザカライだ。だが、エリノア、おまえはザカライが嫌なのだろう? ウィルフレッド殿下でも無くはないが……結婚相手としては血が近すぎる。それにウィルフレッド殿下がもしお前を王妃にと望んでも、きっとマイグレーション家が苦言を指す。そうなると残念ながらザカライぐらいしかお前の相手がいないのだ……私も気乗りはしないのだがな……」
「お父様……私は結婚相手として、ザカライ様だけは絶対に嫌ですわ……」
「ああ、エリノア、分かっている。だからこそナレッジ大公家の子息を探るんだ。それしか無い」
父の言葉にエリノアは渋々頷く。
国王アレクの妻であり若くして亡くなってしまったエレオノーラは、このウォーターフォール家の出身の為、ウィルフッドとアンジェリカとエリノアは、再従姉妹関係となる。
その為ウィルフッドと血が近すぎるため、未来の王妃としてはエリノアは好まれない。
それにエリノアには生まれた頃からひっきりなしに縁談が持ち込まれている。
王家と縁のあるウォーターフォール家の娘なのだ、王女アンジェリカには申し込めない貴族の子息たちも、エリノアには小さな可能性を求めて婚姻を申し込んできていたりする。
だが家格を落とさず、その上良い嫁ぎ先……となると実はエリノアにはあまり選択肢がない。
性格に難ありとエリノアが認識している、コロケーション家のザカライぐらいしか相手が居ないのだ。
その上ザカライの顔が、エリノアはあまり好きでは無かった。
まだ丸顔なら良かったのだが、あの楕円形の顔がどうしても受け付けないのだ。
だが実はあの宰相だったユージンのナンデス家が侯爵家となり、そしてそのユージンの弟で子供がいるオーブリーがナンデス家の当主となった事で、オーブリーの子供であるクリスもエリノアと年の頃が合う子息になったのだが、そこはナンデス家は侯爵としては新参者、その上オーブリーは実力で侯爵位に就いたわけではない。
ウォーターフォール家とは歴史が違うナンデス家とでは、家格が違い過ぎるとウォーターフォール侯爵は取り合わない。
王妃を輩出した程のウォーターフォール侯爵家が、下手な家と縁を結ぶわけにはいかない。
ならばエリノアを他国へ嫁がせた方がまだマシだ。
そう考えると新規大公家とはいえ、あの聖女セラ・ナレッジを祖にもち、故レオナルド王子の血脈をも引くナレッジ大公家は、ウォーターフォール侯爵から見ても家柄的に何の憂いも無い。
そして今ナレッジ大公家は誰もが羨むほどの繁栄を見せている。
娘の嫁ぎ先としてこれ以上の家はない、ウォーターフォール侯爵はそう思っていた。
「お父様……分かりましたわ。ナレッジ大公家の子息ですわね……ですが、余りにも粗野で乱暴な子でしたら私は話しもしたくはありませんわ……」
「ああ、勿論だ。ナレッジ大公領は田舎だと聞いているからな。エリノアがどうしても嫌であれば、仕方がない、時間がかかっても結婚相手は他国から見つけ出すしかないだろう……エリノアは私にとって大切な宝なのだからな……」
ナレッジ大公家の領地がど田舎らしいことはエリノアも情報を得ていた。
そしてこれまで王都にも顔を出さず、そのど田舎に引きこもっていた家系らしいことも聞いている。
どう考えても都会育ちで洗礼された令嬢である自分とは合うはずがないとエリノアはそう思っていた。
「野暮ったい方と結婚なんて絶対に嫌ですわ……」
ディオンを知らないエリノアはそう呟く。
それは当然の見解……とも言えるだろう。
エリノアの憂鬱なこの思いはディオンと会って一体どうなるのか……
ディオンは確かに田舎者だ。
ただし……
無駄に顔が良すぎる田舎者で有ることは確かなのだった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
今日が七月最後の投稿ですね。早いものです……
クローディアは派手めな顔立ちですが、実は大人しい女の子で本当はウィルフレッドにアプローチとかしたくはありません。父親に言われて無理矢理話しかけている……そんな感じです。
そしてエリノア、エリノアはちょっと気位が高い女の子です。王女アンジェリカを除けば自分が令嬢の中では一番地位が高いと思っているぐらいです。なのでザカライの事もちょっと馬鹿にしています。顔がどうしても苦手なようです。好みは人それぞれなので仕方ないですよねー。
夜会での二人の活躍に期待したいです!(笑)
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