リチュオル国貴族学園

第219話コロケーション侯爵家の悪巧み

 リチュオル国の五大侯爵家の一つ、コロケーション家。


 そのコロケーション家の当主であるカワウソによく似たウォッタ・コロケーションは、貴族学校への入学を控えた息子、ザカライを部屋へと呼び出していた。


「ザカライ、ウィルフレッド殿下との仲はどうだ? うまくやっているか?」

「はい、父上、学園の御学友となる前に、私は幼馴染としてウィルフレッド殿下には仲良くして頂いております。先日もウィルフレッド殿下主催のお茶会に招いて頂きました。その際私はずっとウィルフレッド殿下のお傍に侍る事が出来ました。ウィルフレッド殿下からの信頼は厚いと確信しております」

「ハッハッハ、そうか、そうか、流石我が息子だ……クックック……これで王家とコロケーション家の繋がりは一層強いものになるだろう……」

「はい!」


 父に褒められ、自慢気な表情を浮かべ胸を張るザカライ。


 年齢はベンダー家の長男ディオンと同じ12歳。


 今年から貴族学園へと通う予定だ。


 そんなザカライは、父ウォッタに良く似たカワウソチックな容姿をしており、まん丸というよりは少し楕円に近い輪郭に、茶色いふわふわな将来薄毛になりそうな髪をしていて、見る人によっては可愛い系男子ともとれるが、少し間抜け面だ……ともとれる微妙な顔立ちをしている。


 母親に似れば……と実は本人も周りもそう思ったりもしているが、それは父親(ウォッタ)には内緒だ。


 そしてそんなザカライは、五大侯爵家のコロケーション侯爵家の嫡子として、幼いころから同い年のウィルフレッドの良い遊び相手として城へと通っていたため、本人的には親友ポジを手に入れたと自信満々に思っていた。


 なので勿論 ”親友だと” 当然顔で父の質問に答えたのだが、ウィルフレッド側からするとザカライは ”父親(国王)の仕事関係の知り合い” 程度の認識だったりする。


 何故ならザカライはウィルフッドに気に入られようと、「そうですね」「いいですね」「殿下の仰る通り」と、肯定しかしないイエスマンに成り下がっているため、ウィルフッドからは余り好かれていないのだ。


 一緒にいても大して面白くない相手。


 それがウィルフレッドのザカライへ対する評価だったりする。


 その上今のウィルフッドは、ベンダー家の可愛い天使ディオンとシェリーに夢中だ。


 たまにしか会えない、ものすっごい美貌を持つ超絶タイプな大切な友人。


 その上自分を王子としてではなく、同等と見なしてくれる友人でもある。


 そして遊べば常に刺激を与えてくれる相手こそディオンなのだ。


 そして何より……ウィルフッドはディオンの妹であるシェリーに本気で惚れている。


 なのでシェリーの兄のディオンともっと仲良くなりたい! と思うのは当然の事。


 つまりザカライの媚びを売る行動など、ウィルフレッドは歯牙にもかけていない。


 認識の違いとは恐ろしいものだ。


 ある意味幼馴染な親友ポジをゲットしたと勘違いしているザカライも、ベンダ-兄姉の被害者なのかもしれない……


「ザカライ、ウィルフッド殿下と仲良くなることは当然のことだが……学園ではもう一つ……」

「ええ、父上、ナレッジ大公家の子供ですね」

「ああ、そうだ……ナレッジ大公家の子息とは友人になることを前提に、出来れば真の友となりナレッジ大公家の子息の二人いる妹のどちらかをお前の妻に迎える事が出来れば一番理想的だ……」

「えっ……? ですがアンジェリカ王女殿下は宜しいのですか?」

「ああ、ここだけの話、アンジェリカ殿下には既に想い人がいるらしく、近々婚約になるのでは……と噂されている……ならば、今劇的に発展を遂げているナレッジ大公家と縁を結ぶ方が我が家の為になる。ナレッジ大公家には二人も娘がいるのだ、一人ぐらいお前の力でどうにか出来るだろう……」

「なる程、まだ幼い少女ならば少し優しくすれば私に懐くかもしれませんね。それにナレッジ大公領はとても田舎だと聞きます。王都育ちの私の紳士的な態度を見れば、すぐに気持ちを寄せてくるかもしれません。父上、この作戦は楽勝かもしれませんよ。妹に会わせて欲しい。ナレッジ大公家の子息に会ったらそう話してみます」

「ハハハッ、我が息子殿は頼もしいなー。将来は私に似て女泣かせになるかなー? ん~?」

「ハハハハッ、いいえ、父上、私は父上のような妻を愛する当主となります。それが目標ですからね。まあでも侯爵家の子息として寄ってくる女性たちの相手は多少はしてあげなくてならないでしょうが……」

「ハハハハッ、お前も罪作りな男だなー」

「ハハッ、私は父上似ですから仕方がないですよー」


 コロケーション侯爵家の当主ウォッタ・コロケーションは息子の心強い言葉に、ハハハッとご機嫌な様子で笑う。


 この作戦が成功した暁には、コロケーション侯爵家が五大侯爵の中の筆頭侯爵家の地位に就くだろうと、気合十分だ。


 落ち目であったクロウ侯爵家がいつの間にかナレッジ大公家と縁を結び、今やこの国で一目置かれる存在となっている。


 クロウ家子息の中でも優秀であったバルテールナー・クロウが、見目麗しいナレッジ大公と一緒に夜会に現れた時は、他家の侯爵家含め、ウォッタも、そして会場に集まった貴族たちも大きな衝撃を受けたものだ。


 そして宰相だったユージン・ナンデスが職を辞し、侯爵の爵位を弟に譲り渡した時、他の侯爵家はこれでもうナンデス家は終わりだろうと腹の中で笑っていた。


 だが開いてみれば、ユージン・ナンデスは大聖女だったシェリルと結婚し、ナレッジ大公領に移り住んでいた。


 新当主となったオーブリーはそのお陰もあってか、シェリルを姉と慕う国王陛下から身内のように可愛がられている。


 コロケーション侯爵家をこの国一の大貴族に!


 そう思い色々と手を尽くしているが、ウォッタが当主となって以来他家の侯爵家には引き離される一方だ。


 このままではコロケーション家は侯爵家ではなく伯爵位に降格する可能性も無くはない。


 二代続いて国へと何の功績も与える事が出来なければ、侯爵とは名乗る事などできなくなるのだ。


「ザカライ、コロケーション侯爵家の未来はお前の肩にかかっているからな!」

「はい! 父上、私にお任せくださいませ!」


 盛り上がる親子に、子供にそんな重荷を背負わせてどうするんだ! と突っ込む者はこの部屋にはいない。


 それにザカライは、すっかりウィルフッドを攻略出来ていると思いこんでいる。


 そして残るはナレッジ大公家の娘との婚姻のみ。


 年下の少女の心を掴むことなど、ザカライの手に掛かれば容易いこと。


 そんな自信があるコロケーション侯爵は、残念ながらこの作戦の一番の問題に気が付いていないようだ。


 そう、狙っている獲物であるナレッジ大公家の娘の一人が、あの恐ろしい悪魔(天使)ニーナ・ベンダーであるということをコロケーション侯爵は何故かすっかり忘れているのだ。


 その上その悪魔(ニーナ)が姉と兄を溺愛していることを、コロケーション侯爵は全く知らない……


 そう、コロケーション侯爵だけでなく、このリチュオル国の多くの貴族達が、最年少男爵と大々的に披露されたニーナ・ベンダー男爵の事を、まるで誰かに忘却魔法でも掛けられたかのように、彼女の存在自体をぼんやりとしか覚えていないのだ。


 下手をしたら名前は ”ナーニ・イッテンダー男爵” だったかも? とそんな程度の記憶となっているのだ。


 そんなニーナに手を出そうとする作戦を立てるとは……


 知らないとは恐ろしい事だろう……


 はてさて、一応都会的で洗礼された少年だと自負している年上男子ザカライに声を掛けられた時、ニーナは、そしてシェリーは一体どうなるだろうか……


 それは今は誰にも分からない事だろう。


 だが、この作戦が愚策であることは、ニーナを良く知る人間たちには分かり切っている事なのだった。


 コロケーション侯爵家に明るい未来があることを祈りたいものである。




☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

皆様お待たせいたしました。今話から新章になります。ディオンの学園のお話です。ナレッジ大公家は今や飛ぶ鳥を落とす勢いで発展していますのでリチュオル国で大注目を浴びています。欲がある貴族家はお近づきになりたいと色んな作戦を立てています。それはコロケーション家だけではないはずです。でもディオンには……効く気がしませんね。(笑)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る