第217話アランとの緊急会議

「ニーナ様、お話があると聞きやって参りました」


 ニーナに呼ばれ、部屋へとやって来たアランは、剣の稽古をしていたのだろう。


 少し汗をかき、息を弾ませていた。


 今アランはアルホンヌと共にナレッジ大公家の騎士団を死ごいて……ゴホンッ、教育を担当してくれている。


 王子として幼い頃からマナーを学んできたアランは、息をするのと同じぐらいの気軽な感覚で、品のある佇まいを振る舞うのが得意中の得意だ。


 なので野生児アルホンヌが手の届かない痒い部分を、アランが受け持ち、指導している。


 ナレッジ大公家の騎士団にはドラゴンに負けない程の強さだけでなく、王城の近衛騎士に引けを取らない品格を身に付けさせている……途中なのである。


 エリクの側近となったチャラチャラなオーイーとオッチャを見てもらえれば分かる筈だが、一朝一夕とはいかないのがマナーなのだ。


 それでも元平民達が、アランのお陰で騎士らしい挨拶は出来るようになっている。


 アランの功績は素晴らしいとしか言いようがない。


 流石ベンダー家に馴染んだだけあると言えるだろう。


 そう、アランはもう弱々しい王子ではないのだ。



「ニ、ニーナ様……はぁ、はぁ、な、何か緊急なで、でき事でも、はぁ、はぁ、あったのですかぁ?」


 幼児に興奮している変質者ではなく、アランの走る後を追って来たであろうベルナールが、どうにも整わない息遣いでニーナに話しかける。


 二人ともニーナから、いつかラベリティ王国がリチュオル国に助けを求める時が必ず来るだろうと聞いていただけに、母国の情報が齎されたのだろうと、何となく分かっていた。


 ニーナはそんな汗だくな二人にサッと魔法を掛ける。


 綺麗好きなニーナが何の魔法を二人に掛けたかは、ご想像にお任せしよう。


 そして以前はボロボロで座るのも戸惑われたが、今はナレッジ大公領の繁栄のお陰で新品になった、ニーナお気に入りのソファへと二人を促す。


 その間に気が利くグレイスが冷たいお茶を皆に用意し、ファブリスはニーナの補佐としていつもの定位置、そう、ニーナの後ろに立つ。


 お茶を飲み、息が落ち着いた二人を見て、ニーナは笑顔のまま口を開いた。



「ギデオンの情報ですが、ラベリティ王国の一団がナレッジ大公領の隣、オフショア領に到着したようなのです……」


 ニーナの言葉を聞き、グレイスと並んで立つギデオンにアランとベルナールの視線が向く。


 ギデオンは黄色い狸……ではなく、町で ”ネズミ先輩” 呼ばれ可愛がられているギガを肩に乗せ、「本当です」という意味を込めてコクンと頷いてみせる。


 クエリの町で ”可愛い? ネズミ先輩” と噂されているのは、バーソロミュー・クロウではなく、この鼠型魔道具のギガだ。


 呪いの人形にしか見えないギガだが、ナレッジ大公領の子供達はきっと耐性が……いや、目が肥えているのだろう。


 可愛い可愛いとギデオンやガイアスと一緒に町を回るギガの事を、アイドル視して可愛がっている。


 なのでこの真面目な話し合いの中でも、ギガが「ギャギャ」と鳴けばアランとベルナールも自然と目尻が下がる。


 ナレッジ大公領以外の子供達が目にすれば、本物の魔獣だと勘違いされそうなギガなのだが、ベンダー家では愛される家族なのだった。



「それからこちらが、先程カルロから届いた手紙ですわ」


 ウフフッと可愛らしい笑みを浮かべ、周りにいる者に恐怖を与えながら、ニーナがカルロからの情報をアランに差し出した。


 今アラン達の母国ラベリティ王国は荒れに荒れている。


 それはある程度は想像していたが、これまで指輪に守られていた王族たちは、余りにも無能過ぎて対処が遅れているようだ。


 下手をしたらアランデュカス・ラベリティ王がいた時代以前よりも、国内は酷い有様になっていることだろう。


 魔獣が蔓延り、国民達は満足に外も出歩けない生活。


 日照りが続く町があるかと思えば、雨が降り注ぎ、川が氾濫する町もあるらしい。


 そして何よりも重大な情報が、カルロの少しクセが有りながらも、美しいと見えるその文字で書かれていた。


 それは……


 『ラベリティ王国はアランデュール・ラベリティ王子を探している』という事だった。



 つまりアランを追放した国王と、王妃、そして弟王子は、アランが守りの指輪を持っていることに、ここに来てやっと気がついたようだ。


 セラニーナが贈ったあの守りの指輪は、真の王と認められたアランの手の中にある。


 国を思い、民を愛する、真の王がその指輪を使う時、聖女セラニーナが思いを込めた、国を守る魔法が初めて発動されるのだが、今の愚かなラベリティ王国の王族達はそんな事は何も知らないようだ。


 アランが国へ戻ることで守りの指輪を手に出来る王族たちは、今度こそアランはもう不要だと、指輪だけを奪い、アランの命を消し去ることだろう。


 そして守りの指輪の魔法をキチンと使えない結果として、ラベリティ王国が滅びて行く事は目に見えていた。



 ニーナはカルロからの手紙を読むアランへと視線を送る。


 初めて会った頃の、弱気で自信のないアランはもうどこにもいない。


 今のアランは健康的に日に焼け、しっかりとした体躯も手に入れ、ニーナやシェリルから使える学を改めて学び、金の騎士や炎の騎士にしっかりと鍛え上げられ、ラベリティ王国の第一王子だと誇れるほどの存在になっていた。


 アランの指に嵌る守りの指輪は、真の主人であったアランデュカス・ラベリティ王から離れた事で、濁ったような乳白湯の色になってしまっていたが、今はアランの魔力の色とも言える、薄っすらと白く光る ”無” の透明色に輝いていた。


 もう誰にも美味しそうな角砂糖の指輪などと、馬鹿にしたように呼ばれることはないだろう。


 あのラベリティ王国の賢王と呼ばれたアランデュカス・ラベリティ王でさえ、アランのようにここまで指輪を輝かせる事は出来なかったはずだ。


 ニーナの手によってナレッジ大公領で鍛え上げられたアランは、真の王者と呼ばれる程の実力を手に入れていたのだった。



「アラン、どう致しますか? 貴方が国に戻れば、必ず命が狙われ、危険を伴うはずです。それでもラベリティ王国の王になる為に、自分の命を懸けて国に戻りますか? アランが国に戻れば皆が期待をすることでしょう。その時貴方は自分の父を……そして家族を処罰しなければならないかも知れませんよ? その覚悟が貴方にはあるのですか?」


 そう、アランにとって一番辛いであろうことは、国に混乱を招いた家族を処罰しなければならない……という事実だろう。


 自分の命を狙われる事は、今のアランにとっては屁でもないこと。


 だが心優しいアランが、自分の家族を追い込んで平気なはずがない。


 その覚悟があるのか? と、ニーナはアランに問いかけた。


 そしてアランはその言葉の重みを受け止めた後、国の未来を担うものとして……


「はい」


 と力強く頷いてみせた。


 血の繋がりのある身内だからこそ、厳しく罰せなければならない。


 その上アランの家族は国を守る責を持つ王族なのだ。


 そして今のアランにとっての本当の家族は、アランの命を消し去ろうとしたラベリティ王国の王族ではなく、このナレッジ大公領の皆である事をアランはしっかりと理解していた。



「フフフ……アラン、貴方の覚悟、私、このニーナ・ベンダーがしっかりと受け止めました。では、皆でラベリティ王国へと参りましょう。ナレッジ大公家の実力を世界に知らしめる時ですわ」

「はい!」


 頼もしいニーナの言葉に、アランは笑顔で頷いた。


 国へ帰る。


 遂にこの時が来た。


 そして「ふぅ……」と息を吐き、逸る気持ちを落ち着かせているアランに、ニーナは思いもよらぬ事を提案してきた。


 そう……


「では、アラン、私と婚約致しましょうか……」と……





☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

アランやっと国へ帰れそうですねー。良かった良かった。頼もしい味方だらけですので、帰宅に不安はないでしょう。いや、ニーナに国を滅ぼされる不安は有るかな?大丈夫、きっとニーナは穏やかに話を進めるはずです。たぶんね……

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