第216話ギデオンからの報告
「ニーナ様! 遂に来ました! ライオン騎士がやって来たのです!!」
「まあ、ギデオン、どうしたのですか? 少し落ち着きなさい、貴方らしくないですよ」
ナレッジ大公となったエリクの補佐の一人として、そしてナレッジ大公領の外交官として、そしてそして勿論貿易関係の官僚として、あっちこっちの領へと毎日のように転移しているギデオンが慌てた様子でニーナの前に現れた。
ただしギデオン本人は、自分の仕事が補佐官だったり官僚だったり、外交官だとは全く思っていない。
商人の端くれ。
その程度の感覚だ。
そして普段は商人らしく、人受けする優しい笑顔を浮かべているギデオンの表情が、今日は硬く険しい。
その上少し……いや、だーいぶ怒っている様にも見える。
ギデオンが平民という事で、馬鹿にするような態度や言動を見せてくる愚かな貴族に対しても決して怒ることのないギデオン。
そのギデオンが今は怒りを隠す気もないらしく、ふんすふんすと鼻息荒くニーナの前に登場したのだ。
ニーナがたしなめる言葉を掛けるのも当然と言えよう。
今日はオフショア領に行くからと、ニーナに預けていた計算型魔道具人形のギガも、主であるギデオンの怒の感情に触れ「ギャギャギャー!」と興奮した様子でニーナとギデオンの周りを走り回る。
そんな可愛い様子のギガを見て、ギデオンも少し落ち着きを取り戻したようだ。
何と言ってもギデオンは、目に入れても痛くない程ギガを可愛がっている。
見た目は気持ち悪いとも取れる呪い人形のようなギガだが、ギデオンにとっては可愛い子供でしかないのだ。
そしてそんな普段見せないギデオンの慌てた様子に、ニーナはただ事ではない事をすぐに理解し、ギデオンとギガをソファへと座らせ話を聞く事にした。
ザナから前以ってある報告を受けていたため、「ライオン騎士がやって来た」とのギデオンのその言葉で、どんな話かは大体予想が付いている。
その為、今日はニーナの補佐として屋敷に居たグレイスを呼び出し、ギデオンへと冷たいお茶を入れて貰う。
弟大好きなギデオンがグレイスのお茶を飲めば、もうその様子は普段を取り戻していた。
隣に可愛いギガが居る事も平静を取り戻すのに大きな役割を果たしている。
ゴクリ、ゴクリとグレイスの淹れてくれた美味しいお茶を飲み干し、乾いた喉を潤したギデオンは、オフショア領で出会った ”とある人物達” の話をニーナに伝えた。
そう、ライオン騎士が率いる聖女救援要請一団の一行の話を……
「ウフフフ……まあ、まあ、思ったよりも随分と早かったですわねー。最低でもあの国は五年は持つかと思いましたけど……アランを追い出してからたったの二年足らず……あちらの方たちの能力がそれだけで良く分かりますわねー……」
「ええ、ニーナ様の予想通り、あちらはかなり困窮しているようで、私が会った救援要請の一団の方々はかなり疲労困憊した様子でした……」
「ウフフフ……それはそうでしょうね……これまで指輪に守られていた強い守りが国からすべてなくなったのですもの……アルホンヌやクラリッサ並みの騎士が数名でもいれば何とかなったでしょうけれど……あの子達並の騎士だなんてそうはおりませんからね」
「ええ、確かに、挨拶をしたアーサー・ストレージという代表の方も、こちらの騎士団では普通騎士程度の実力と見受けられました。あのメンバーだけで魔獣だらけの道を進んで来たと思うと、きっと大変だったことでしょう、そこだけには多少同情はいたしますけどね……」
ギデオンがあちらの者たちにもいつもの優しい気遣いを見せたことで、落ち着いてきたのだろうとニーナはホッとする。
グレイスの兄ギデオンは、弟想いな面が強力にあり、グレイスと末弟のゲルマンの丁度間ぐらいの年齢であるアランの事も本当の弟のように可愛がり、愛情をたっぷりと注いでいる。
そんな可愛い弟同然のアランが、母国で受けた酷すぎる仕打ちを聞き、ギデオンは静かなる怒りを燃やしていた。
ニーナから必ずアランの国は、このリチュオル国へと助けを求めて来るだろうと聞いてからというもの、オフショア領へ行く度に「まだかまだか」と目を光らせていたのだ。
オフショア領内にベンダーホテルを建てたのも、あちらの情報を一早く掴むため、という理由もある。
お陰様でその罠に聖女救援要請一団の一行が捕まってくれたのだが、余りにもボロボロな一行の姿を目の当たりにし、人の良い、心優しいギデオンは少し同情をしていた。
まあ、だからと言って可愛いアランに犯した仕打ちをギデオンが許すはずもない。
実行犯ともいえる王と王妃には、弟想いのギデオンだけでなく、ニーナ軍団全員が絶対に許さないと強い怒りを向けているのだった。
「ニーナ様、ただいま戻りました」
ニーナとギデオン、そしてグレイスとギガが寛ぐその部屋に、一瞬でやって来たのはグレイス兄弟の転移の師匠でもあり、そしてニーナ一の補佐官でもあるファブリスだった。
ニーナに挨拶を済ませ、きちんとした礼を取ると、懐からスッと手紙を取出しニーナに渡す。
その手紙は闇ギルドのギルド長カルロからの手紙だった。
カルロは笑いの元ネタとしてだけは信頼するミューにその手紙を預けることなく、本当のニーナ一の補佐官であるファブリスに手紙を託した。
ファブリスはニーナの補佐官として毎日研究所や闇ギルド、そして王都などに顔を出し、ニーナへの連絡を受けて戻るという役割を果たしている。
既にその転移の実力は世界一ともいえるほどで、ニーナによって開花させられたファブリスのの真の実力ともいえる能力だろう。
ニーナはそんなファブリスにお礼を言いながら、【緊急】と書かれているカルロからの手紙に目を通した。
そしてその内容に一つ頷くと、森の中で金目の魔獣でも見つけた時のような、それはそれは可愛らしい笑顔を皆に披露した。
その八歳児らしからぬ恍惚とした表情を見て、ファブリス、ギデオン、グレイスがごくりと喉を鳴らす。
ニーナ様、激おこですか? と、そう感じるほどの圧を、ニーナから感じたからだ。
ニーナはそんな人に恐怖を与える可愛らしい笑顔のまま三人へと視線を送ると、「遂にこの時が来たようですわ」と言ってのけた。
それはつまり王位奪還。
アランを王位に就ける、と言う事だ。
カルロからの手紙を大切に封筒に戻したニーナは、ファブリスに「アランを呼んできて頂戴」と言った。
これからアランの為の戦いが始まる。
ニーナにとってアランは既に子も同然。
「畏まりました」といって、一瞬で消えたファブリスを見送りながら。
ニーナは誰もが逃げ出したくなる程の闘志を燃やしたのだった。
「フフフ……しっかり反省していただかなくてはね……」と呟きながら……
この恐ろしくも可憐な少女の怒りを、ラベリティ王国の王族たちはまだ知らない。
彼らがニーナと出会う時。
それはもしかしたら断罪の瞬間なのかもしれない。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
やっとここまで話が繫がりました。長かった……でも次章はディオンの学校でのお話になるのでまた暫くラベリティ王国には行けないですね(;'∀')皆様もう暫く無駄話にお付き合い下さいませ。
あ、この章はもう二話続きます。m(__)m
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