第215話母と娘の秘め事
「たっだいまー」
ニーナに作って貰ったシェリーの一番の宝物である ”空飛ぶラグ” での夜のお散歩から帰宅したシェリーは、母親であるアルマの部屋へと文字通り飛び込んで来た。
領主であるエリクと、その妻であるアルマの私室は隣同士、だが寝室は一緒で、コネクティングルームと呼べる形になっている。
エリクは新大公という事で、最近は夜遅くまで仕事をしていることが多い。
まあその一番の理由は、ナレッジ大公領の急激な発展……というものがあるのだが、もう一つの大きな理由としてエリク自身に……
そして子供たちにもあった。
そう、とにかく目を引く容姿をしているナレッジ大公家の人々。
そしてその代表として矢面に立っているエリク。
たった一度の夜会に出席しただけで、多くの令嬢を虜にし、第二夫人、はたまた妾でも良いから傍にいさせてくれと、そんな手紙がわんさかナレッジ大公領に届くようになってしまった。
勿論直接的な言葉でそう言ってくる強者がいる訳ではない。
茶会や夜会の誘いの中に、是非我が娘と話をしてみませんか? と、なーんとなくお誘いが書かれているのだ。
だが、そこはエリクの補佐官となった純愛の鬼と呼べるルナーがしっかりと目を通し、手紙を選別し、殆どを(邪な物は全て)お断りとして対処としている。
エリクは妻であるアルマを愛している……そう、ぞっこんなのだ。
彼女以外の女性は虫にしか見えない……と遠回しな? お断り文面を書き、そういったお誘いの手紙に対応していた。
だが、それとは別に、子供たちへのお見合いの申し込みもたっぷりと届く。
貴族たちの前に顔を出した事があるのはニーナだけなのだが、なにぶんエリクも、アルマも、そして見た目だけは幼いニーナも無駄に顔が良い。
その上エリクは大公となり、ニーナ自身は最年少男爵だ。
そしてナレッジ大公領の大発展。
王家よりもナレッジ大公家とお近づきになりたい! と思う困った輩が、リチュオル国の貴族内にはわんさか出ているのだ。
「エリク様、余りにもしつこい者は無視しても宜しいと思いますよ……なんならニーナ様にお伝えして消して(抹殺)頂いても宜しいかと……」
ルナーの言葉はもっともだ。
だがエリクは数年間眠っていただけに、今は働くこと、そして人と関わり合う事が楽しくって仕方がない。
それに他貴族とも出来るだけ良好な関係を気付き、跡取りであるディオンの役に立ちたいとも思っている。
自分たちの味方は多い方がいい。
ナレッジ大公領、いや、元ベンダ-家は狙われやすい家でもあるのだ。
それを十分に知っているだけに、エリクは出来るだけの努力はしたいとそう思っていた。
「ルナー、心配してくれて有難う……だけど私は皆の為に働くことが今は何よりも楽しいんだ。それに注目されているのは今だけ、物珍しさもあると思う。だからこそ尊大にはなりたくはない……子供たちの代でまたこの家が呪われることは嫌だからね……」
エリクは何よりも恨まれることを危惧していた。
ぽっと出の大公家。
富んで富んで仕方がない領地。
忠誠心が厚すぎるほどの領民たち。
才能あふれる騎士や、使用人。
その上可愛い息子に娘。
そして女神のように美し過ぎる妻。
逆恨みされても仕方がないだけに、エリクはどんな相手にも誠心誠意心を込めて対応していた。
まあ、妻以外は虫扱いは十分に失礼なのだが……そこはアルマのあの魅力だ。
仕方がないと言えるだろう。
と、言う事で……
そんな愛され妻のアルマは夫(エリク)が部屋に戻って来るまでの間、三人の子供たちと過ごすことが多い。
その中でも一番アルマの傍に来てくれるのが、同姓であるシェリーなのだが……
シェリーは度々屋敷を抜け出し、妊婦で動けないアルマの為に土産話を持ち帰っていた。
実はニーナには内緒の話もあったりもする……
似た者同士のシェリーとアルマ、二人だけの秘密のお話。
そう、シェリーは今日はちょーっとラグを飛ばし過ぎて、知らぬ土地まで行ってしまった事は、心配症のニーナには内緒なのだ。
ニーナが気付かないうちに、もっと魔法が上手になって驚かせたい。
妹大好きなシェリーと、娘大好きなアルマは、そんなサプライズを考えているのだ。
まあ、二人の一番の目的は ”ドラゴン王子探し” だったりもするのだが……
それを知っているニーナも、流石に夜な夜なシェリーが出かけているとは、気づいて……いるかは神のみぞ知る、と言ったところだろう。
「お母様ー、今日ね、ライオンさんが変身したみたいなお兄さんに会ったんだよー」
「へー、ライオンさん? それはカッチョいーねー。どうだった? ライオンさんは強そうだったー?」
シェリーが部屋にやって来た事で、ザナが二人にお茶を入れる。
今日はシェリーが遠出をしたらしいので、夜だが、シェリーにはパウンドケーキのおやつも付けて出す。
ザナもこの母と娘の秘事には関与しているのだが、ニーナを驚かせたいというシェリーの気持ちを汲み、ニーナには何も伝えてはいない。
ただし、ニーナの真の補佐官であるファブリスが、屋敷の事で知らない事があるとはザナには思えない。
なので危険が無いから今のところニーナも口出していないだけなのでは? と、ザナはそう思ったりもしている。
それに空飛ぶシェリーを見て天使だと思わない人間は、この世のどこにもいないだろう。
そんな天使に悪事を働く者も……多分いない筈。
まあ仮にいたとしても、今のシェリーならば軽く逃げ切れる。
姉の成長の為に、ニーナはあえて口出していないのでは?
と、そう思っているザナにも実は一つだけ憂いがあった。
そうそれは、シェリーとアルマのサプライズ披露の際に、ニーナの驚く演技が少し心配がある……という事だった。
年頃の女の子の演技。
それはニーナが一番苦手とする部分だからだ。
「うんとねー、ライオンお兄さんはまあまあ強そうだったかなー。多分ベルナールのお兄ちゃんよりは強いと思うよー。もしかしたらあのお兄さんは、まだ百獣の王様じゃないのかも知れないねー」
シェリーが会ったライオンお兄さんとは、多分ラベリティ王国一の騎士と言われているアーサー・ストレージの事だろう。
アーサーと比べられたベルナールは、アランの傍付き。
いわば非戦闘員。
それと比べては騎士であるアーサーが気の毒過ぎて可哀想なのだが、普通の騎士以上のレベルを既に持ってしまっているベルナールが相手なので、「多分」 とシェリーに言われても、そこは仕方がないだろう。
そもそもナレッジ大公領のメンバー達が異常過ぎるのだ。
アーサーがもしナレッジ大公領の騎士団メンバーならば、普通レベル。
それ程ニーナ教官に死ごかれている面々は、人として? 成長しているのだ。
決してアーサーが弱い訳ではない事を、誰かシェリーに教えてあげて欲しい。
まあシェリーが知ったところで、アーサーはドラゴン王子ではないのでどうでも良い事だろう。
だが、アーサー・ストレージはラベリティ王国一の騎士。
そこだけは覚えておいて欲しいものだ。
「それでね、お母様、そのライオンお兄さんに、ドラゴン王子様の情報貰ったんだよー」
「ドラゴン王子様?! やっぱり居たんだ! シェリーやったねー、すっごい情報じゃない!」
「うん! そうなの! えっとね、古代竜? ってドラゴンさんが王子様に変身できるんだってー。だから私、明日からは古代竜の王子様を探してみるのー。それで戦ってみて良い子だったらお友達になって、悪い子だったら皆んなで食べちゃうんだー。ニーナもドラゴンさんの素材? ってやつをまた使ってみたいって言ってたから、内緒で見つけてプレゼントするのー。だってニーナにはいっつもプレゼント貰ってばっかりだからね、私もプレゼントしたいんだー。ねえ、お母様、きっとニーナは喜んでくれるよねー? ニコニコ顔になるよねー?」
「シェリーってば! もう! なんて良い子なの!! うん、うん、ニーナはきっと喜ぶよー! はっちゃけて踊っちゃうかもよー! シェリー、私も赤ちゃん産んだら一緒にドラゴンさん探すからね! 二人でニーナを喜ばせようね。一緒にドラゴン王子様探し、頑張ろねー」
「うん! お母様、一緒に頑張るよ!」
茶器を片付けながら、ザナはこの危険な秘事を流石にニーナに伝えるべきか……と悩んでいた。
架空の存在とも言える古代竜。
ザナの敏感な第六感が、シェリーとアルマならば絶対に探し出すだろうと言っている。
美味しい物には超絶鼻が効くシェリーなのだ。
必ずドラゴンを見つけ出す(だして食べる)、そんな気がする。
それに誰をも魅了してしまうアルマ。
ドラゴンだってメロメロになりそうだ。
ザナはそんな気がしてならない。
そしてそれ以上にザナが気になる事は……
”ライオンお兄さん” とシェリーが言った人物だった。
シェリーの話から、ライオンお兄さんが騎士らしい事が分かる。
そしてその人物がアランの国、ラベリティ王国の者らしい事も……
明日にでもニーナ様にお伝えしなければ……
二人の会話を聞きながら、ザナはそんな決意をしていたのだった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
皆様、七月、七月ですよっ!信じられません!一年早すぎでしょう!
ニーナのお話、年内に終わるかしら……(;'∀')無理そうです。てへっ。
今日はシェリーとアルマのお話です。この二人、とても良く似ています。見た目も、そして思考も……天然トラブルメーカーの気質を持っているともいえるでしょう。
ニーナもこの二人にはメロメロなのできついことは言えません。世界最強は実はこの二人? なのかもしれません。ドラゴン王子には是非逃げて頂きたいです。色んな意味で食べられる前に……
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