第214話パッセロからの情報

「カルロ様、ミューちゃ……様、パッセロ、ただ今戻りました」

「おお、パッセロ、ご苦労さん、ちょうどお茶の時間だ、お前も一緒にどうだ? あー、それで……あちらの様子はどうだったんだ?」

「はい、頂戴いたします。ええ、あちらの様子ですが、ニーナ様が睨んだ通り、今や国は荒れ、それはそれは大変な目にあっておりました。暴動が起きてもおかしくない……そんな状況です。この危機をどうにかしようと、支援団が秘密裏に出発したとかしないとか……フフッ、こちらに何かしらの支援を申し込んでくるのも、もう間もなくのことかと思われます……」

「ふむ……そうか……やはりニーナ様の予想通りの展開だな……クククッ」


 パッセロの言葉を聞き、カルロは満足気に頷いてみせる。


 便利屋こと闇ギルドのギルド長の部屋にある、ギルド長専用トイレは、実はニーナの手によって魔法陣が引かれ、各闇ギルドへと流れる(転移)ことが出来るように変えられていた。


 これには魔道具技師のダンクの力も大きい。


 ギルド長専用の便器を魔道具に改良し、転移が出来る魔道具にダンクが作り替えたのだ。


 この世界初の転移魔道具。


 まだ実験段階だが、闇ギルドで問題なく使えているため、間もなく商品化されていく事だろう。


 ただし、ニーナの魔法陣が無ければ転移場所を数箇所も指定などは出来はしない。


 つまり各闇ギルドに流れていけるのは、カルロ専用の便器だけ。


 他の闇ギルドからは、カルロの便器にしか流れてこれない。


 つまりカルロのこの便器は世界でも唯一のもの。


 ニーナがいるナレッジ大公領内の、クエリの町の闇ギルドのギルド長の部屋のトイレだからこそ、これ程の高価な魔道具を設置できていると言っても過言ではない。


 国宝級。


 普通ならばそう呼ばれる程のレベルの便器なのだが、残念ながら(綺麗好きな)ニーナは一度も使いたいと言ったことはない。


 多分商品化し、販売する際には、便器の形にはしない代物になるだろう。


 まあ、あのダンクが作り上げるものなので、”呪い型” になることだけは覚悟していてもらいたいとは思う。



「それで、あちらの闇ギルドは、特に問題なしか?」

「ええ、こういう時ですからあの国のあちらこちらで物資が不足しております。ですがオモルディア様は儲かって儲かって仕方がないと、笑顔で手もみをしておりましたよ。フフフ……どんなに値を釣り上げても商品は売れてしまいますからねー。それに……」

「ああ、ここから品を送っているのだ、あそこの闇ギルドは永遠に物資不足にはならないだろうからなー」

「ええ、その通りでございます」

「これもニーナ様の魔法陣とダンクの魔道具のお陰だなー」

「ええ、便器様様でございますねー」


 クックック、ハッハッハッ、アーハッハッと、カルロとパッセロは黒い笑みを浮かべ、まるで悪代官か何かのように笑い合う。


 話を横で聞いていたミューも、なーんとなくは内容が分かる為、アハハー、なる程ねーと笑い、うんうん、そうだよねーと相槌も打つ。


 ただしミューはパッセロがどこの闇ギルドから転移してきたのかも分かってはいない。


 その上二人の会話に出る ”あちら” がどちらかも分かっていない。


 そして勿論、オモルディア様という人物が誰なのかも分からない。


 知ったかぶりはミューの得意中の得意。


 迷探偵ミューの特技ともいえる。


 これでニーナ様一の補佐官だとのたまっているのだ。


 自意識過剰とは彼の事を言うのかもしれない……



「カルロ様、オモルディア様からの情報ですが……」

「ああ、なんだ?」

「実はあちらの王城ではアラン様を探し、見つけ出そうとしているらしいのです」

「ハハハッ、そうか……ニーナ様もいずれそうなるだろうと仰っていた、まあ、アランを探すのは ”アレ” 目的だろうがな……」

「ええ、王城に勤めている子雀が、王の側近達が何かを必死で探しているようだと言っておりました。きっとアレを探しているのでしょう……残念ながらどんなに探しても見つかるはずはございませんが……」

「ああ、それにアレを作り出せる者も、この世界にはニーナ様しかいない。あちらの者達がそれを知っているかどうか……まあ、アランを平気で追放する奴らだからな、そんな思考は持ち合わせていないと思うが……」

「ええ、確かに聖女ならば誰でも作れる品だと思っている事でしょう。あちらの王族たちは愚かすぎる様で……国民からの評判も最低でしたね……」

「さもありなん、だな」


 カルロとパッセロは、またクックック、ハッハッハと笑い、あちらの王族を馬鹿にしたような発言をする。


 勿論半分位は話の分かるミューも、ぷっぷっぷ、お馬鹿さんだよねーと、二人と共に笑って見せるが、実はどこの王族かは分かっていない。


 だがそんなミューの様子をカルロもパッセロも気にすることなく、二人は分かりあったように頷くと、カルロのとびっきりなお茶を入れ直した。


 それはセラニーナがカルロの為に作り上げた、カルロお気に入りの高級茶葉。


 カルロがご機嫌な時にだけ振る舞うお茶だ。


 本当ならばここで酒ででも乾杯したいところだが、まだまだ仕事は山積み。


 カルロもパッセロも忙しい身。


 そう簡単には酔うことは出来ない。


 それにまだ計画が全て完了したわけではない。


 今はいわば五合目まで到着した程度。


 喜ぶにはまだ早い。


 アランが王位についた時。


 それこそが作戦成功の瞬間と言えるのだから……



「それで、今の王家に不信感を持ち、アランを支援してくれる家は見つかったのか?」

「ええ、ペタバイト家、クラウド家を筆頭に、殆どの貴族家、それに商家も、アラン様が生きていてくだされば……とそう思っているようですよ」

「まあ、そうだろうな。アランはあちらでは病気で死んだことになっているんだったか?」

「ええ、一部の者しか真実は知りません」

「そうか……ではパッセロ、作戦通りに」

「はい、噂雀の代表としてこのパッセロ、完璧な仕事をして参りましょう……アラン様が生きている……ラベリティ王国でその真実を流して見せましょうとも……」

「ああ、宜しく頼む」


 パッセロは頷くと、闇ギルド長専用トイレへと戻っていった。


 そして明るい光と共に、元居た場所であるラベリティ王国の王都へと帰っていった。


 これから流す噂は ”アランが生きている” という真実だけだ。


 そしてもう少し時間が経った頃、どうしてアランがラベリティ王国から ”出て行った” のかも……分かる事だろう。


 その時、今の王や王妃に向けられる忠誠心が、いかほど残るだろうか……


 既に最低値しかない家臣たちの忠義は、消え去る事だろう。


 アランが王位につく。


 アランと初めて会った瞬間から、カルロにはそれが分かっていた。


 時は来たり!


 お気に入りのお茶をグビッと飲み干したカルロの顔には、面白いこと好きな、悪戯っ子のような表情が浮かんでいたのだった。


 ただし……


 隣にいるミューは、やっぱり良くは分かっていないようだった。





☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

パッセロさん、年齢不詳、どこにでもいそうな、それでいてすぐに忘れてしまいそうな不思議な男。実はカルロさんとは歳が近かったりもするパッセロさん。ミューちゃんともそんなに年齢離れていないんですよ。知ってました?ミューちゃん、実はいい歳したオッサンなのです。


オモルディア様はラベリティ王国の王都の闇ギルド長です。カルロが軽いから取った名なので、オモルディア様は重いから取りました。豪快な女性の予定です。その内出てきます。宜しくお願いします。m(__)m

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