第213話ナレッジ大公領の便利屋(闇ギルド)

 ナレッジ大公領の商業都市クエリに、成熟の色ともいえるマルーンカラーの落ち着いた佇まいだと呼ばれる店がある。


 その店の名は、町の便利屋(クエリ店)。


 またの名を ”闇ギルド” と言う。


 そんなクエリの町に新しく出来た闇ギルドのギルド長は、勿論ニーナと共に働きたいとずーっと前から言っていた、ニーナの友人カルロだ。


 闇ギルドの総帥、元締めとも言えるカルロは、王都の闇ギルドをカルロの補佐官だったルーカスに、全てを喜んで任せ。


 自分はこれから栄えるであろうナレッジ大公領にすっ飛んでやって来た。


 これはカルロらしい行動の速さだと言える。


 そして急に王都のギルド長となったルーカスが、カルロと別れる際に泣いていたのは、実は寂しいからではなく、ギルドの仕事を押し付けられたからだということは、有る一部の者だけが知っている事実だったりもする。


 可哀想だが大出世したルーカスには、頑張って貰うしかないだろう。




 それから間も無く二年。


 カルロの狙い通りクエリの闇ギルド、いや、クエリの町の便利屋は大繁盛店となっていた。


 表の顔である ”便利屋” としても、王都からの来店客で引っ張り凧なのだが、クエリで開催される特別な闇オークションは、ニーナ教官率いる死ごき部のメンバーたちが手に入れた、摩訶不思議な素材のお陰で常に大盛況なのだ。


 今では信頼出来る紹介状がない者はこの闇オークションには参加出来ないほど、クエリの町だけの特別オークションは大人気なのだった。


 そして可哀想なルーカスが率いる王都の闇ギルドには、クエリの町で販売されている、貴重なニーナ商品を特別に卸している。


 なので王都の便利屋も、そして闇ギルドも、クエリの町の闇ギルドが繁栄すればする程、儲かって仕方がない状態なのだ。


 まあ、カルロが居た時よりも店が忙しくなってしまったルーカスには、やはり頑張って貰うしかないだろう。


 そんな楽しいことを追求するのが大好きな、笑いの探求者カルロは、今商売が楽しくて仕方がない。


 だって面白い人材が近くに沢山いるんだもん!


 そう、お笑い大好き、面白いこと大好きなカルロは、今、人生で最高に楽しい毎日を過ごしているのだった。




「カルロ殿ー、今日の品を持って参りましたよー」

「ああ、ミューか、ご苦労様。どうだ、時間があるならお茶でも飲んで行くか? 折角なんだ今見て来た町の様子でも教えてくれ」

「はい、カルロ殿! もちの論でございます! このバーソロミュー・クロウ、クエリの町の隅から隅まで知っております! 噂の ”千里眼ネズミ先輩” とは実は私の事……フッフッフ……カルロ殿、超越的英知の持ち主このバーソロミュー・クロウにクエリの町の事ならなーんでも聞いてください! なんてったって私はニーナ様一の補佐官ですからね! アーハハハハッ!」

「ハハッ、それは頼もしいなー。じゃあミューに色々教えて貰おう……」

「はい! 我にお任せあれ!」


 大切な友(天然コメディアン?)が来たため、ご機嫌な様子で中二病的な発言を繰り返すミューにカルロ自らお茶を入れる。


 クエリに来てからの忙しい仕事の合間に、ミューの話を聞くのが実はカルロの楽しみでもあった。


 そう、先日も、ある(面白い)事件があった。


 実は王都でも評判となり始めているこのクエリの町に、ガラの悪い者たちが ”良い品(ニーナの品)” 目的でやって来たのだ。


 ニーナの真の恐ろしさをしらず、金目の物に欲と、目が眩み、クエリの町にやって来た愚かな者達。


 兵士達の目を潜り、人波に紛れて ”盗む品” を探し回っていたその物達は、気がつけばニーナの一の補佐だと勝手にのたまう、ミューに何故か因縁をつけていた。


「おい、おい、おまえー、今わざと肩をぶつけてきただろう?」

「骨が折れたかもしれねーなー、こら、慰謝料出せやー」

「その服装はピエロのまねか? それとも変質者か? はんっ、どっちでもいい、金を出しやがれー」


 と、ミューのその悪目立ちする服装と顔から、目立ちたがり屋のアホな商人だとでも思ったのだろう、愚かな輩達はそんないちゃもんをミューに押し付けて来た。


 それにいち早く気が付いたカルロは、物陰に隠れ、ミューの動向を見守ることにした。


 だってこんな面白い事件、見逃せないでしょう?!


 あのミューなら何やるかわからないじゃなーい?!


 それに、見た目はピエロのようでも、ミューだって一応はニーナ軍団の一人だしー。


 と、カルロの心の中ではそんな自問自答? が繰り広げられていた。


 王の元補佐官、バーソロミュー・クロウ。


 彼は見た目通り攻撃力は低いのだが、それでもどうにか死ごき部の訓練にも耐えられるだけの実力がある人物だ。


 そう、ミューは、いや、このミューだけは、アルホンヌやクラリッサからの攻撃を受け、吹き飛んだとしても、何故かいつも無傷でいられる実力の持ち主。


 守備だけが特化した、死ごき部の一員。


 自身の攻撃力は全く無いのだが、どんな鋭い相手の攻撃も、何故かこのミューは無効化してしまうのだ。


 その上、バビューンやドッカーンなど、効果音付きで吹っ飛ばされることが出来る芸人体質。


 押すな押すなと言いながら、押される為に存在する男。


 ミューのそんな不思議な力がどこまで世間に通用するのか、カルロはそれを見極めたかったのだ……


 そう、決して面白がっていた訳ではない……と思う。




 そして案の定、ミューは「私こそニーナ様の一の補佐官なるぞ!」と言って売られた喧嘩を強気で買い取った。


 だがその啖呵も相手には笑われてしまう残念なミュー。


 そしてゲラゲラと笑い出したガラの悪い男達は、ミューを馬鹿にしたまま遠慮なく攻撃を始めた。


 だが殴られるたび、ミューは吹っ飛ぶだけで傷一つ付かない。


 そしてミューに手を出した男達は、ミューを殴るたび傷だらけになっていく。


 殴った手が擦り切れ、そして折れ、蹴った足が腫れ上がる。


 気がつけばこの騒ぎを聞きつけた兵士達がミューたちを囲むように集まっていたが、彼らが何もしなくても男達はのびていた。


 守備力特化型補佐官ミュー。


 カルロの笑いは止まらなかったらしい。



「ハッハッハッ、お前達、この私には立ち向かってくるなど百万年早いわー! ハーハッハッハッ!」


 まったくかっこいい勝ち方では無いのだが、確かにミューは町を守り、一時的な英雄となった?


 そんな出来事を思い出し、カルロの口元が思わず緩む。


 ミューはその様子を見て自分の話が面白いのだと勘違いをする。


 フリフリピンクシャツの襟を正し、ドヤ顔でカルロを見つめる。


 今日も私の見回りのおかげでこの町は平和だった。


 ミューが鼻息荒くそう話すたび、カルロは面白くって仕方がないのだった。


「ではミュー、特に町の様子に変化は無かったんだな?」

「うむ。カルロ殿、この私がいる限り、この町は永遠に平和だ! ハハハッ、平和過ぎて腹で茶を沸かせるほどなのだぞー!」

「ハハッ、そうか、ミュー様様だな」

「うむっ!」


 ミューの自慢話を聞きながら、カルロの口元がまた緩む。


 このクエリの町はハッキリ言ってガイアスが取り仕切っているのだが、ミューは何故か自分の力でこの町が守られていると、勘違いをしている。


 本当に面白い思考回路を持つ男だとカルロが感心していると、闇ギルド長の室内にあるトイレが急に輝き出した。


 そして中肉中背、特に特徴がない、普通で平凡な、どこにでもいるような男に見える人物が、そのトイレから飛び出してきた。


 だがカルロもミューも、その不思議な現象に特に驚きはしない。


 そう、そのどっかにいそうな男こそ、噂雀の代表パッセロだったからだ。


 パッセロはいつもの人受けする笑顔を浮かべ、カルロの下へとやって来たのだった。





☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

カルロさんとミューちゃんのお話でした。カルロさん毎日が楽しくって仕方がありません。ミューちゃんは段々と本性が出て来ています。ヒーロー症候群ですかね。三十過ぎの良いオッサンですが……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る