第212話ナレッジ大公の側近たち

「クラリッサ、ルナー、オーイー、オッチャ、おはよう。今日も宜しくね」

「はい、エリク様、おはようございます。本日もよろしくお願い致します」

「エリク様、おはようございます」

「「オハヨウゴザイマス」」


 ここはナレッジ大公領のナレッジ大公の執務室。


 銀ギラ銀にさりげなくキラキラと輝きながら、今日もその美しい顔に笑みを浮かべ、爽やかな初夏の風のように皆に声を掛けるのは、勿論ニーナたち三兄姉妹の父、エリクだ。


 醜悪なミラの呪いからニーナの魔法によって解かれたエリクは、すっかり元気を取り戻し、無駄にギラギラと、懐中電灯の明かりがこちらを向いたかのように眩しい程に輝きながら、領主としての仕事に精を出していた。


 王都の夜会への出席は、領地立て直しと、体調を考慮して、まだ一度きりしか参加してはいないのだが、実はエリクのその見た目の危険さから、国王であるアレクに「王都にはたまに来ればいいんじゃないかなー? エリクの顔って本当心臓に悪いよねー。だって同姓でも惑わされそうだもん」と特別に許可を貰い。


 今は領地運営に力を注いでいる。


 そんなエリクの補佐官は、クロウ侯爵家の長男であり、粘着質な男代表でもある、バルテールナー・クロウ。


 ルナーは元々クロウ侯爵家の跡を継ぐため、元王女であったキャロラインからの厳しい教育を受けていたため、急に大領地の大公位に就いたエリクの補佐官としてとても役に立っていた。


 それはあのニーナが認める程の実力で、他領の詳しい情報などこのルナーから齎されていた。


 まあルナーとしては今も恋人未満お友達状態の愛しいザナに、少しでもカッコいい姿を見せ、惚れ直して貰いたいというそんな欲まみれな想いからの行動ともいえるのだが、ルナーが兼ね備えていた本来の能力を、このナレッジ大公領に来てルナーは開花させた。


 愛の力。


 そう言っても過言では無ほど、ザナが傍にいる事でルナーは暑苦しい程のやる気を見せていたのだった。




 そして、そんな輝く大公閣下であるエリク付きの護衛騎士は、高嶺の花と王城の騎士たちの間で呼ばれていた炎の騎士、クラリッサだ。


 クラリッサは、元はセラニーナ付きの護衛騎士であった。


 勿論兄弟の様に育ったアルホンヌも、同じセラニーナ付きの護衛騎士だった。


 セラニーナが亡くなってからは、アレクの指示で王城所属の騎士となってはいたが、実は魔法を使い、暗殺からの警戒を行う仕事が得意中の得意だったりもする。


 もしニーナの父エリクに攻撃を仕掛けようとする愚かな輩いたとしたら、クラリッサに一瞬で丸焼きにされた後、串刺しにされる事だろう。


 アルホンヌの力を使う剣技とは違い、クラリッサは魔法を使いながらの剣技が得意だ。


 そして何よりも女性騎士という事で、クラリッサはそこにいるだけで美しい。


 直視するのが辛いほど夏の太陽のように輝くエリクのそばに立ち、守りを固めていても遜色ない存在なのだ。


 グレイスがそんなカッコイイクラリッサの姿を見て、惚れ直した事は言うまでもない。


 そう炎の騎士クラリッサは、グレイスやニーナの側で愛を知ったことで、年頃の女性らしく満開の花のように輝いていた。




 そんな気高き美女クラリッサと共に、エリク付きの護衛騎士に大抜擢された少年が実は二人いる。


 呪いが解けたナレッジ大公領にひょっこり現れた見目麗しき双子の男の子。


 その者の名は ”オーイー” と ”オッチャ” と言い、銀髪に青い瞳を持ち、美しい顔立ちをしている。


 オーイーとオッチャに親はおらず、孤児として育った二人の産まれは詳しく分からないのだが、エルフの血が薄くでも入っているのではないかと思われる程、クラリッサと同じくエリクの傍に立っても存在感が消える事はない。


 ただし、まだまだナレッジ大公領内での二人の剣技は半人前。


 つまり世間一般的な騎士程度の実力しかない。


 なのに何故人材ハンターニーナに大抜擢されたかと言うと、それは二人が生まれ持った希少な能力のお陰だった。


 そう、オーイーとオッチャの二人はお互いに思いを念話出来る、以心伝心の能力を持っていたのだ。


 この世界には電話などない為、二人の能力はとても貴重なものだ。


 領主として人前に立つことが多くなるエリクには、この二人の能力は絶対に必要だとニーナは思っていた。


 それに母のアルマが一緒に夜会に参加する時は、色んな危険から両親だけでなく周りも守る為にも欠かせない存在だろう……


 そんなオーイーとオッチャはエリクの補佐官であるルナーに教育を受けながら、領主の騎士兼補佐として今猛勉強中なのだ。


 その為、言葉使いなどもルナーから 「黙っていれば貴族の子息にしか見えない」 と暗に 「人前で口を開くな」 と嫌味を言われるぐらいのレベルでしかない。


 文字も読めはするのだが、書くのは苦手。


 騎士としてのマナーも剣技もクラリッサに習い中。


 ナレッジ大公領の下っ端兵士になる為に応募したはずの二人は、その能力と見た目で大大大出世をしていた。


 次の夜会には二人も出席予定。


「おはようございます。」


 などの挨拶以外の言葉も普通に話せる様に……いや、せめて自己紹介が出来る程度に、と今頑張っている最中なのだった。



「オーイー、オッチャ、今日は午後からシェリル様とユージン様の下へ行って来なさい。マナーを教えて下さるそうだ」

「「ウイーッス、エリクさまー、わっかりやしたー、イエーイ」」


 二人の美しい顔に似合わないチャラい返事に、ルナーの眉根に皺が寄る。


 ゴホンッと咳払いされれば、双子もやらかした事に気づき、「「しょーちしましたー。ウイッ」」と返事を言い直す。


 まだまだ成長途中な二人だが、これでも会ったばかりの頃よりはだいぶ成長している。


 そう、体を揺らさず普通に立っていられるだけでも、オーイーもオッチャも別人級と呼べるほどに変わっているのだ。


 次の夜会までには二人を何とか表に出せる程にしなければ……


 と、軽すぎる態度の二人の様子に一人頭を痛めているのは、ニーナに教育を頼まれたルナーだけなのだった。


 ルナー、頑張れー。



「オーイー、オッチャ、勉強頑張っておいで、帰ったらみんなで一緒にオヤツを食べよう。今日はニーナ特製のスライムゼリーだよ」

「うえっ、マジっすか、俺ちょー頑張るっす!」

「よっしゃ、俺も、あれやこれも完璧にしてくるっすよ!」

「うんうん、二人共良い子だね。しっかりと頑張っておいで、あ、ルナーは後でザナから全員分のオヤツを受け取って来てね。ザナが待ってるよ」

「はい! 畏まりました。このルナー、命にかえてもスライムゼリーを受け取って参ります!」

「ハハハ、有難う。それからクラリッサは後でグレイスと一緒に研究所に顔を出してきて貰えるかなぁ?」

「グ、グレイスと一緒に、ですか?」

「うん。グレイスは今こちらに来ていてニーナの仕事を手伝っているから、後でゆーっくりと歩きながら研究所への道を送って上げて欲しいんだ。ほら、森へ行く途中でグレイスなら何か新しいもの見つけるかもしれないだろう? クラリッサにはグレイスと手を繋いで貰って危険から守って貰えると助かるんだよねー。護衛対象の私はここから動かないから安心して行っておいで」

「は、はい! 畏まりました。グレイスとはぐれぬようしっかりと手を握っておきます!」

「うん、宜しくねー」


 ナレッジ大公領の領主エリク。


 実はエリクは人を甘やかすのが得意であった。


 妻のアルマを筆頭に、身内となった人物には、兎にも角にもご褒美を無意識で上げたがる人たらしなエリク。


 天然タラシとは、まさにエリクの事だろう。


 ニーナが周りの人々の心を心配するのも当然のことだった。


「「にしてもー、この職場最高っすねー」」


 そんな双子の言葉に、部屋にいる皆が頷いた。


 ここにいる全員がニーナ教官の死ごき部にも入隊しているが、エリクからのご褒美があるから苦にならない。


 ナレッジ大公執務室。


 そこはエリク付きの側近全員が、領主の傍にいるだけで幸せを感じる職場なのだった。




☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

近衛騎士長はクラリッサです、一の補佐官はルナー、オーイーとオッチャはその両方の補佐って感じでしょうか? ニーナが屋敷に居る日はエリクの守りは気軽になる日です。ですのでオーイーとオッチャは新婚夫婦の下へ行ったり、クラリッサはグレイスと見回りという名のデートに出かけたりしています。

因みにオーイーとオッチャはとあるお茶からお名前を頂きました。(笑)

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