第208話ニーナ研究所

 呪いが蔓延っていたセラの森は、ニーナに魔法を掛けられ浄化された事で、他の森では見かけない摩訶不思議な草花や、希少な魔獣が現れるようになっていた。


 そんな ”神の領域” とも世間で呼ばれ始めたセラの森に、ニーナは自分自身の夢と希望と趣味がたーっぷり詰まった、ニーナ研究所なるものを作り上げた。


 所長は勿論有名研究家のベランジェ。


 ニーナが大人になるまでは、ベランジェが研究所をまとめ上げる……予定だ。


 まあ、本当の所長はニーナで有り、ベランジェの妻(補佐官)のグレイスかもしれないが、そこはやはりベランジェのネームバリューは絶大で、あのベランジェ様の研究所だと世間では認識され、王城の研究所よりもニーナ研究所の方が就職先として人気となる程だった。


 そんなベランジェは今、セラの森の魔獣の生態を意気揚々と調べ回っている。


 糞ボマーとして名を馳せるベランジェとて、流石に一人での森歩きは危険なため、ニーナに頼まれたファブリスが同行することが多いのだ、ベランジェはちょっと目を離すとあちこちへ行ってしまう為、ファブリスは苦労していた。


 それに加え、王城で呪い課の課長だったブラッドリーまでもが、自身が惚れ込んだニーナが作り出したニーナ研究所の一研究員になるため、ナレッジ大公領へと押し掛けて来たため、ファブリス一人で危険な二人の面倒を見なくてはならず、かなり大変だったりもする。


 いつもそんな手のかかるベランジェだけではなく、同じ様に問題児であるチュルリやチャオなどの、他の研究員の世話(補佐です)を一手に引き受けているグレイスの凄さを、ファブリスはベランジェと一緒に森へ行く様になって尚更よく分かった。


 小さな子共よりタチが悪い大人の集団。


 それがニーナ研究所の研究員達だ。


 まあ、ニーナ自身もそういう傾向が多少はあるので、致し方ないだろう。


 とにかくそんな研究界の第一人者であるベランジェが、ニーナ研究所の所長となった事で、リチュオル国では今この研究所の研究が注目を浴びている。


 あのベランジェ様の事だ、きっと素晴らしい成果を上げるに違いない。


 そんな期待を一心に背負ったニーナ研究所で作りだした、ニーナお手製の新ニーナポーションは、他のポーションとは違うと高値で取り引きされ初めている。


 そしてそれと共に、ナレッジ大公領の名もまたリチュオル国にて広がっているのだった。




「グレイス、ベランジェ達はまだ森から戻らないのかしら?」


 ニーナが転移して研究所へとやって来た。


 研究を楽しみにしているニーナだが、今のニーナはとにかくとても忙しく、残念ながら研究所には1日おきにしか来れていない。


 ベランジェが散らかした書類をテキパキとまとめていたグレイスは、ニーナの姿が見えるとその手を止め、すぐにお茶を準備する。


 グレイス一人で研究員皆の母親役……ゴホンッ、補佐官を受け持っているのだが、グレイスはそれを苦も無くやり熟し、こうしてニーナに気を使う事までも出来ていた。


 グレイス無しではニーナ研究所は回らない。


 ニーナがそう感心するほど、グレイスもまた成長しているのだった。



「ニーナ様、ベランジェ様とブラッドリー様とファブリスさんはまだ森の中です。多分私の予想だとあと45分後に帰って来ると思われます。フフフ……だってオヤツの時間ですからねー」

「まあ、グレイス、流石ですわねー、ベランジェの事を良く分かっている事……やっぱりベランジェの補佐官は貴方でないと務まりませんわねー」

「有難うございます。フフッ、でも私が凄いのではなくって、ベランジェ様がおやつの時間通りに戻るのは、ニーナ様がお作りになった本日のデザートの威力だと思います。スライムゼリーだなんて凄いです。ベランジェ様、昨日から楽しみにしていたのですよー」


 ”スライムゼリー”


 別に本物のスライムで作ったゼリーではない。


 ナレッジ大公領の次の名物菓子を作るため、ニーナが考え出したスライム型で作ったフルーツ味のゼリーだ。


 可愛すぎる兄姉であるシェリーやディオンを喜ばせたくてニーナが考えだしたおやつなのだが、なんと一番喜んだのは研究所のメンバーだった。


 特にスライムゼリーの中でもレモン味の透明なゼリーがベランジェは大好きで、ニーナが昨日のうちに準備していたそのゼリーを、今日森へ行く前からずっと楽しみにしていた。


 きっとオヤツの時間丁度になれば、ファブリスにお願いして転移で戻って来るだろう。


 そんなベランジェの思考回路と行動が予想できるグレイスは、やっぱりベランジェの補佐官(妻、いいえ母親かも)にピッタリだと言える。


 その上同じように手のかかるブラッドリーやチュルリ、チャオの面倒までグレイス一人で見ているのだ。


 百人力とはまさにグレイスの為の言葉だろうとニーナは思っていた。



「グレイス、ごめんなさいね。毎日忙しくてクラリッサとデートする時間も取れていないでしょう?」

「ふぇえ? ふえええー?! デ、デート?!」

「グレイス、休日は絶対に自分自身の為に使うのですよ。出来るだけクラリッサとは同じ休日にしますからね。二人で町にでも行ってらっしゃい」

「ふぇえーーーー?!」


 ニーナに揶揄われ、グレイスの顔は真っ赤っかだ。


 ニーナにクラリッサへの自分の片想いがバレている。


 どう見ても両想いなのだが、一向に相手の想いに気が付かないグレイスはそう勘違いしたようだ。


 残念ながら、クラリッサとグレイスの恋愛に今のところ何の進展もない。


 ただ周りの者達は二人はどう見ても両想いなので恋人扱いで良いよね、とそう思っている。


 ニーナ、シェリル、コリンナなどは、三人で二人の結婚式はどうしようかと既に何度も話し合っているぐらいだ。


 それにグレイスの弟ゲルマンに至っては、クラリッサの事を「クラリッサ姉さん」と既に姉と呼んでいる。


 ただグレイスだけはその ”姉さん” は ”姐さん” だと思っているようで、ゲルマンもクラリッサ様に憧れているんだなーと、未だに周りの想いにもクラリッサの想いにも気づかない。


 まあ、クラリッサの方も30歳ぐらいまでは恋愛を楽しもうと思って、全く結婚には焦っていないので、鈍感なグレイスと進展がないのも致し方ないだろう…


 ただし、毎晩のようにクラリッサはグレイスに会うため研究所に顔を出している。


 そしてグレイスと夕食を共にし、夜空を一緒に見つめるのが日課だ。


 クラリッサ様が自分を可愛がってくれる。


 クラリッサ様は相変わらずとても優しい。


 特別扱いされているはずのグレイスは、未だにそれに気が付いていないのだった……残念。



「あ、あの、ニ、ニーナ様! 私にクラリッサ様など勿体ないです! クラリッサ様にはもっと素敵な方が…」

「まあ、グレイスはクラリッサが他の誰かのものになってしまっても宜しいの?」

「えっ……?」

「これからクラリッサはお父様と一緒に王城へ赴く機会も増えますわ、その時クラリッサは誰かに誘われるかもしれませんのよ……グレイス、その事を良く考えてごらんなさい」

「……っ!」


 ニーナの言う事はもっともだった。


 クラリッサはモテる。


 同じ城で働いていたグレイスはそれを良く知っているはずだ。


 自分に自信がないからと言って、何も行動せずにクラリッサを誰かに奪われても良いのか? とニーナは問うているのだ。


 グレイスは平々凡々な自分とクラリッサでは釣り合わないと、最初から自分の恋を諦めていた。


 でも……だけど……


 クラリッサの優しさが自分以外の誰かに向く……


 グレイスはニーナに言われ今本気でその事を考えた。


(良くない……良くないです……クラリッサ様のあの笑顔を私が一番近くで見ていたいです……)と……


 グレイスが初めて欲を出した瞬間だった。



 まあ、ニーナの本音を言えば、グレイスに夢中になっているクラリッサが、どうでも良い相手から声を掛けられたとしても靡くことは絶対にないと分かっている。


 けれど、グレイスの中で少しだけ気持ちに変化を起こしてみたいとそう思ったのだ。


 クラリッサとグレイスの恋もそろそろ進展が欲しいと、ニーナはそう思っていた。




☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

ニーナ研究所はとても広いです。ナレッジ大公領は無駄に土地が有り余っているので、ニーナ研究所も森の中にドーンと建てさせて頂きました。


そしてグレイスとクラリッサ。

そろそろ恋人ぐらいにはなって欲しいなとニーナは思っています。さてさてどちらから告白となるでしょうか……グレイス頑張れるかな?(笑)

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