第207話隣の隣町、ゼロディの有名魔道具技師

「うおーい、ギデオーン!」


 ベンダー男爵家の隣の隣町こと、ゼロディにやって来たギデオンはある人物に声を掛けられた。


 ガッチリとした体型で、健康的に日に焼けたような褐色の肌に、それに似合った笑顔でギデオンに向けてニッと笑い、それはそれは楽しそうに手を振っている職人風の男。


 その人物の名はダンク。


 そう、あのニーナの友人であり、そしてこのゼロディの町唯一の魔道具技師でもある男だ。


 ダンクは自分で作り上げた、魔木で出来た助手人形を三体引き連れ、町中を歩くギデオンにワクワク顔を浮かべ近づいて来た。


 ダンクの後ろにいる助手人形三体はカレーのナンに穴を三つ開けた様な顔をしており、時折り顔をクルクルと回転させては目鼻口の場所を交代し、主人に危険がないようにと辺りを警戒(遊んで?)している。


 どこからどう見ても呪い人形にしか見えない助手人形達だが、三体とも助手としてはとても優秀で、ダンクの仕事を自ら学び進んで手伝っている。


 以前は寂れていたゼロディの町で、その魔道具技師としての力を発揮することなく落ちぶれていたダンクだったが、今は違う。


 ダンクが作るナレッジ大公領の魔道具は質が良いと評判で、物珍しい物も多く今やこの国で大人気だ。


 まあ、あのニーナと、それにニーナ軍団の一員であるギデオンとガイアス、そして勿論、闇ギルドのギルド長カルロに目を付けられたダンクの魔道具が売れないはずがない。


 だが、今現在その魔道具を作れる人間はダンク本人と助手人形三体しかいない為(ニーナは除く)、出来上がる魔道具には数に限りがあり、リチュオル国の王都のとある店か、ここゼロディの町でしか手に入らない。


 価格もニーナとガイアス、ギデオンとで高値に設定し、中々手に入れられない ”宝” だという印象をダンクの魔道具には付けている。


 ニーナ曰く。


「ダンク程の魔道具技師は他にはおりませんわ!」との事である。


 その上ダンクがこの国を救う為に魔道具を作り、ナレッジ大公家を後押しした事は、噂雀の代表バッセロの仕事により、リチュオル国の小さな子供でも知っている程有名な話となっていた。


 だがそんな優秀な魔道具技師のダンクを、この小さな町から引き抜こうとする者はこの国にはいないといえる。


 何よりダンク本人がニーナたち友人の傍にいることを望んでおり、そしてそんなダンクの友人代表である恐ろしいニーナの目があるので、ダンクを引き抜けるはずがないのだ。


 なのでダンク本人は心置きなく、大好きな魔道具作りに精を出していれるのだ。


「ダンクさん! おはようございます。ヒピ、ホポ、フプもおはようー」

「ピッ」

「ポッ」

「プー」

「ガハハハッ、ギデオンは相変わらず働き者だなー。こーんな朝早くから町の見回りかー?」

「ダンクさんだって早いじゃ無いですか、私はいつも通りですよ。それに午後からはオフショアの街に仕事で行く予定なので、午前中にゼロディでの仕事を片付けたかったんですよ」

「ガハハハッ、そらみろ、やっぱりお前は働き者じゃねーかっ、ガハハハッ」


 ダンクにバンバンと背中を叩かれながら、ギデオンも「確かに」と笑いだす。


 以前の職場よりナレッジ大公領での仕事は楽しくてやり甲斐があるため、ついつい働きすぎてしまう傾向がある。


 なのでギデオンは趣味も仕事と言えるほど仕事人間になってしまっているが、それはダンクも同じだった。


 まあ、ニーナも含め、ニーナ軍団は皆同じ……似た者同士ともいえるのだが……


 そんな仕事大好きな二人と三体は、楽し気に笑いながら、ダンクの自宅である工房兼店舗へと向かった。




「ほらっ、こいつはおまえに頼まれてたヤツだ。どうだ、スゲー可愛いだろう?」

「ええっ?! ダンクさん! もう作って下さったんですか? 有難うございます!」


 ダンクの作業台の上には、黄色い豚か狸の様な不思議な人形が置いてあり、それを胸を張り自慢げにダンクはギデオンに紹介し、それを受けたギデオンは喜び、すぐさま人形を抱えた。


 まだ動かないその人形は、黄色い体の背の部分に黒いギザギザな縞があり、やはり豚か狸のように見える。


 だが尻尾が細く長い形をしているので、どうやら豚では無いようだ。


 では狸だろうか?


 と、可愛い? 人形をくるくると回して、ギデオンが (なんだろう? 何の動物だろう?) と楽しげに見ていると、ダンクが説明をしてくれた。


「コイツはネズミをイメージして作った計算型人形だ。金勘定と言えばやっぱりネズミだって、そんな気軽な感じで作ったんだ。計算能力はニーナと同じぐらいか? まあ、世界最強って事だなー。あとほれ、ほっぺの赤いとこに鉱石を見つけるセンサーも付けている。だからコイツがいれば宝石は簡単に見つけられる。なんてったって鼻が利くのはニーナ並みだからなー、ガハハハハッ」

「ダンクさん! 有難うございます! これでナレッジ大公領は益々発展できますよ。流石ダンクさんです! 素晴らしい魔道具です!」

「ガハハハッ、ギデオン、あんまり褒めんなよー。照れるだろうがっ! まあ、取り敢えず今日からコイツがお前の相棒だ。名前をつけて可愛がってやってくれよなっ!」

「はい! 大事にします!」


 ギデオンは相棒となった豚……ゴホッ、ネズミ似の人形をギュッと抱きしめた後、顔を見た。


 黒い瞳に赤いほっぺ、牙がむき出しで目つきが悪くなければ、さぞかし可愛いと思うのだが、そこはダンクのお手製人形だ。


 ファブリスが居れば呪い人形だと間違えた事だろう。


 ギデオンが担当しているこのゼロディの町では、高級魔道具を販売している事もあり大きな契約が度々あるため、素早く正しく計算できる物が欲しいと、ダンクに相談してみたところこの計算人形を作ってくれたのだ。


 別に人形にする必要は無いのだが、そこはきっとダンクのこだわりなのだろう。


 ギデオンの相棒に、家族にしてくれとお願いするダンクには、やはり魔道具に対し強い愛情がある。


 その上この人形は優秀で鉱石も探す事が出来る。


 ゼロディの町には鉱山があるので、きっとそちらでも大活躍する事だろう。


 まあ、風貌から魔獣に間違えられそうな可能性もあるが……そこはギデオンがどうにかする事だろう。


 ギデオンは黄色いネズミを見ながら、これはきっとニーナ様も喜ぶだろうと、オフショアの街に行く前に一度屋敷に戻ろうかと考えていた。


 それにきっと、可愛い物好きのシェリー様やディオン様も喜ぶことだろうから……


 だがその前にまず名前だ。


 なんと付けようかと、ギデオンはダンクの側にいる三体の助手人形に視線を落とす。


 この子達の様に可愛い名前が良いだろう。


「うーん、名前かぁ……ピ……ピカ……」


 ギデオンその先は言ってはなりません!


 そんな神の声は勿論ギデオンには届かない。


「チュー……ピッチュ? うーん」


 ギデオン、それはすでにかなりギリギリな名前です!


 という神の願いもギデオンには届かない。


 ギデオンは暫く真剣に悩み、そして閃いた。


「そうだ! ギガっ! ギガにします!」


 それも中々に微妙な名前だが、ダンクは良い名前だと言ってギデオンの背中をバンバン叩いた。


 計算人形を一番使うであろうギデオンとガイアスの名前から一文字づつ取った ”ギガ” は、名前をつけられるとさっそく動きだした。


 ちょこちょこっとギデオンの体を上り、肩の上へと移動する。


 どうやらその場所が気に入ったのか「ギャギャ」と可愛く鳴いた。


 そんな様子にギデオンの目尻が下がる。


 誰から見ても呪い人形に見えるギガだが、ギデオンからしてみたら可愛い子でしかない。


 優秀なギデオンに、優秀な相棒が出来た。


 二人はこれで今日から商売のパートナーだ。


「私はギデオン、ギガ宜しくな」

「ギャギャ」


 名前を呼ばれたギガは、ギデオンに向けまた可愛い返事をした。


 ゼロディの町には、黄色い豚を肩に乗せた優秀な商人がいるのだと話題になる。


 その商人と縁を結べば必ず商売が成功する。


 と、そんな噂が流れるのはもう間もなくの事。


 商売繁盛の豚……いや、ネズミ。


 それに是非あやかろうと、これから益々多くの商人がこのゼロディの町に訪れるようになるのであった。




☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

すみません。今回のお話遊びましたー。(笑)色々とツッコミどころあると思いますがお見逃し下さいませ。

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